テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第134回は、9日に放送されたTBS系バラエティ番組『坂上&指原のつぶれない店SP』をピックアップする。
同番組は「なぜあのお店はつぶれないのか、なぜ儲かっているのか」の謎を解き明かすマネーバラエティとして2018年4月にスタート。当初は『東大王』、次に『消えた天才』、現在は『バナナマンのせっかくグルメ!!』と相手を変えながら、その大半を「隔週の特番仕様」という形で放送され、固定ファンをつかんでいる。
今回の放送は2時間30分スペシャルで、ファストファッションの「GU」と、しゃぶしゃぶ食べ放題の「しゃぶ葉」、さらに「〇〇すぎてつぶれないか心配なお店」をフィーチャーするという。ますます芸能界のご意見番化する坂上忍と指原莉乃のMCぶりも含め、掘り下げていきたい。
■プロモ映像ばりの絶賛ラッシュ
番組はスタジオトークからはじまり、「4月からインスタグラムで1日1レシピを更新し続けている」というロバート・馬場裕之に、坂上が「店やってよ」、長嶋一茂が「何をためらってるの?」、ヒロミが「物件なら押さえるよ」とたたみかける。さらに、石原良純も交えた50代のおじさん4人で「初期投資1,000万円まで出しましょう」と話を広げて盛り上げたが、この番組なら本当に実現させるかもしれない。
今回の目玉企画であるGUとしゃぶ葉の前に、「〇〇すぎてつぶれないか心配になる店」からスタート。その1つ目は「初めて訪れた人は衝撃! 火事になりそうで心配な餃子店」で長野県諏訪市の店をカミナリがリポート。2つ目は「店の幅が1m!? 狭くて細長過ぎて心配なラーメン店」で和歌山県新宮市の店にメイプル超合金・安藤なつが向かった。
出だしから目玉企画で飛ばすのではなく、のんびりとしたコーナーからはじめたのは、18時30分という時間帯によるところが大きいのだろう。実際このコーナーは18時55分ごろに終了した。やはり最初の25分間は「前座」のような扱いで、その後の2時間で放送するGUとしゃぶ葉が「メインイベント」と言ったところか。
まずは、しゃぶ葉の紹介VTRから。2007年創業だが若者にウケはじめたのは最近のことで、公認会計士の森井じゅんが「外食チェーン店の中でも勢いがすごい」と解説した。事実、女子高生とファミリー層から人気があり、チェーン店のコスパ満足度は常にトップクラスで、昨年60店舗以上増えて274店舗になったという。
実店舗のロケに向かったのは、“初体験”のずん・飯尾和樹と“マニア”の岡田結実。番組は「女子を虜にした5つの非常識」というトピックスを掲げて、「(1)食べ放題&時間無制限で1,199円(ランチ)」「(2)たれ、薬味、スパイスの組み合わせが1万通り」「(3)種類豊富な野菜類」「(4)野菜と相性の良い薄切り肉」「(5)自分で作れるスイーツ」を挙げていった。
その他にも、「イマドキ女子 しゃぶ葉の楽しみ方を徹底リサーチ(2日間150人を調査)」「たれ×薬味ランキングを紹介」「急成長の秘密に迫る! 安さの秘密 なぜ時間無制限?」「食べ放題の非常識 値段 時間無制限」「ココがスゴいぞ! しゃぶ葉 アレンジレシピが女子高生にバカうけ!」とさまざまな角度から、しゃぶ葉の魅力を紹介。スタジオでは芸能人たちが試食を繰り返すなど、企業のプロモーション映像を思わせる絶賛ラッシュだった。
しゃぶ葉は今年2月に『ウワサのお客さま』(フジテレビ系)でも大型特集が組まれていたが、こちらは商品と同等以上に「100人前食べる大食い家族」をフィーチャー。『坂上&指原のつぶれない店』は、エンタメよりも生活情報やビジネス寄りのスタンスで放送されていることが分かるだろう。
■『がっちりマンデー!!』に似た解説パート
続くGUの特集は、「海外のファストファッションが撤退・縮小していくなどアパレル不況が叫ばれる中、過去最高の売上を記録した日本のブランドが…」というあおりVTRからスタート。さらに、「成長速度はユニクロの倍」「昨年売上は過去最高の2,387億円」と掲げつつ、人気の秘密として圧倒的な安さを挙げた。
スタジオではDJ KOOによる「1万円コーディネートファッションショー」を開催。男女の美形モデルたちがランウェイを華麗に歩き、番組は華やかなムードで包まれた。それが終わると、今度は実店舗のロケVTRへ。森泉が草薙航基の全身コーディネートをするというが、森はけっきょく自分の服をどんどん見ていく……傍若無人な振る舞いに見えるが、これは男女さまざまなアイテムを紹介したバランスのいい構成にするためだろう。2人は37商品、計6万423円の買い物をして、「1商品平均1,600円程度」という安さを実証した。
スタジオに戻ると、ここでGUの生産部リーダーとデザイナー、元経済産業省官僚の岸博幸が登場し、安さの理由に「在庫を残さない」「値段は先に決める」の2点を挙げていく。その後も岸は、顧客の意見・ニーズを汲みとって製品開発を行うマーケットインや、トレンドファッションを分散発注する戦略など、ビジネスパートのコメントを担当。このあたりの解説は同じTBSが同じ日曜に放送している『がっちりマンデー!!』とほぼ同じ流れだ。
その後、社長の「みんなが着ているんだけどダサくない、その非常識に挑戦している」などのコメントを経て、最後に再びファッションショーがはじまり、森のコーディネートを身にまとった草薙が登場。ただ、「そんなに変わったか? カッコよくなったか?」と首を傾げた人も多かったのではないか。これはGUの商品が悪いわけではなく、森や草薙に責任があるわけでもなく、やはりこういうビフォーアフター企画は女性がやらなければ、その変化が視聴者に伝わりにくい。
■強力な裏番組と戦うために必要なもの
ともあれ、すかいらーくグループのしゃぶ葉とファーストリテイリンググループのGUは、業績好調の大企業。このような「勝ち馬に乗る」ような企画ばかりでは、すでに知っている情報もある上にステマ疑惑をかけられがちなど、ハイリスク・ローリターンではないか。だからこそこの番組は、大企業の社長らが赤字店を助ける企画や、コロナ禍で困っている店を助ける企画なども放送しているが、今後はこれらを増やしたほうが他番組との差別化になるだろう。
ちなみに、この3カ月間で放送されたメイン企画を振り返ると、7月12日が「コロナピンチをどう切り抜けた?」で丸亀製麺、築地銀だこ、かつやの社長がスタジオに集結。7月5日が「欠点が見当たらないのに月30万円の赤字、京都おばんざい店の立て直し」。6月14日が「経営の匠が立て直したあのお店は今!?」で富士そばの会長と築地銀だこの社長がスタジオに登場。5月24日が「つぶれない店のスゴイ社長」でOisixとアイリスオーヤマをフィーチャー。5月10日が「ちょっと場違いなのにつぶれない! 気になる店を調査」。
放送内容のバリエーションがある反面、わずか5回の放送回数は明らかに少ない。「厳選した企画を放送している」といえば聞こえがいいが、これだけ放送回数が少なければ、その価値は半減してしまう。つまり「この放送間隔ならそれくらいはできるでしょ」と思われてしまうのだ。裏番組の『ザ!鉄腕!DASH!!』『世界の果てまでイッテQ!』(日本テレビ系)、『ナニコレ珍百景』『ポツンと一軒家』(テレビ朝日系)は、人気がある上に毎週1時間のレギュラー放送をきっちり守っているだけに、これらを上回るのは難しい。
そう考えていたら、視聴者に意外性や新奇性を感じさせる企画を放送できなければ、この番組そのものがつぶれないか……少し心配になってしまった。もし番組が5年くらい続いたら、つぶれない店の1つとして『坂上&指原のつぶれない店』を取り上げるくらいの遊び心があっていいかもしれない。
最後に坂上と指原のMCについて触れると、2人とも進行役というより出演者の中に溶け込むようなスタイルを採っている。特に指原は終始、楽しげな姿を見せながら、丸山桂里奈のコメントに笑顔で「絶対違う!」とツッコミを入れ、ヒロミが急に食べはじめたのを見て「気づいたらヒロミさんが何と…」と注目を集めるなど、反応の速さと視野の広さが光っていた。
視聴者層を広げ、坂上に自由を与え、ゲストの持ち味を引き出すなど、「家族で楽しめて、タメになるお金バラエティ」というコンセプトに欠かせない存在となっている。
■次の“贔屓”は…15年の時を経て初のゴールデン進出! 『オオカミ少年SP』
今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、14日に放送されるTBS系バラエティ特番『オオカミ少年2時間SP』(19:00~20:57)。
同番組は、さまざまなジャンルのVTRを見て「ウソ」「ホント」を当てるクイズバラエティ。2004年~05年に深夜帯でレギュラー放送されてから、15年で異例のゴールデン進出となる。
今回の放送はゴールデン特番らしく、『半沢直樹』『MIU404』『私の家政夫ナギサさん』の超豪華俳優陣が出演。「彼らが演じる初出しNGシーンを当てる」というクイズは盛り上がりそうだ。その他、フワちゃん&ティモンディ・高岸の過激アクション、「くら寿司」新メニューなど、多彩なコーナーがそろっている。
以前から「シンプルなコンセプトだけにゴールデンのほうが映えるのでは?」という声もあっただけに、今後の行方を占う注目の放送になるかもしれない。