テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第126回は、14日に放送されたテレ朝系バラエティ特番『ナスDの大冒険TV 特別編 1人ぼっちの無人島0円生活 2時間SP』をピックアップする。

今年4月にスタートした新番組の特番だが、テレ朝の友寄隆英ディレクターが「ナスD」となった『陸海空 地球征服するなんて』のスタートからすでに3年あまりが経過。この番組でもネパールの奥地に住む“天空のヒマラヤ部族”のもとを訪れるなど健在ぶりを見せている。

今回の放送内容は未知数だが、『クレイジージャーニー』(TBS系)が見られなくなった今、貴重な僻地ロケ番組だけに、ABEMAとの連動も見られる通常放送と併せて掘り下げていきたい。

  • ナスDの写真を持つよゐこの有野晋哉(左)と、"ナスDポーズ"を決める濱口優

■ナスDが命がけでロケに挑む理由

オープニングはナスDの紹介。壮大な景色と現地住人の映像をバックに、「ヒマラヤに住む幻の部族を命がけで取材。ディレクター目線で知られざる文化や、そこに住む人々の姿をレポートする男、通称ナスD・会社員。今回はそんなサバイバル好きの会社員がたった1人で無人島生活に挑んだドキュメント。こちらも無人島大好きなよゐこの2人と一緒に見ていきます」というナレーションでスケールの大きさを感じさせた。

ただ、このタイミングで「過去に放送された映像に、よゐこの解説や多少の未公開シーンを加えた再編集番組だな」と気づいた人は多かったのではないか。このところ新撮なのか再編集なのか、はっきりと視聴者に伝えず、始まってみなければ分からない番組が少なくないのは残念だ。実際、ナスDの無人島0円生活は、まったく色あせないすご味を感じさせるものだけに、正直に伝えてしまったほうが良かったのではないか。

ナスDの第一声は、「すごく頑張るから見てくれるんじゃないですか。1人で5人ぐらいやってやっとテレビに出る資格があるかないか。命がけで死ぬギリギリじゃないと見せる理由がない。そりゃそうでしょ、スタッフなんで」だった。単にムチャをしているのではなく、知識と経験をベースに行動し、視聴者目線を第一に考えている様子が伝わってくる。

無人島0円生活が始まると、ナスDは川の水を煮沸消毒して飲み水を確保し、ノコギリ・ナタ・麻縄のみで家を作り、わずか4分55秒で火を起こし、素潜りすると1分53秒で1匹目を獲り、30秒でさばいてしまった。さらに、巨大タコを素手で獲り、頭や足にかぶりついて食べ、吸盤が口の中にはりついて悶絶。その後、塩、テーブル、屋根、壁、カマドなどを次々に作り上げていった。

加えて、「ポイントは雨、風、波。A・K・Nで『アカン』って覚えておいてください」「ウェットスーツを脱いだ瞬間が一番危険で低体温症になりやすい」などの情報提供を忘れないのがナスDの強み。安易にマネして事故を起こされないためのリスクヘッジが効いている。

また、今回のナレーションで「素潜り漁のために風呂で息止めの練習をし、少しずつタイムを伸ばして自信をつけた」ことが明らかになった。ナスD は破天荒さばかりクローズアップされがちだが、陰の努力を惜しまず責任感を忘れないタイプの稀有なテレビマンであり、だからこそスタッフとキャストの両者を同時にこなせるのだろう。

■レギュラー放送はさらに命がけの旅

ナスDは「信じられないくらい楽しい」「やりたいことがいっぱいあるから」「どうしても作りたいものがある」と充実感をあらわにし、魚を獲るたびに「ドーン!」「ハーイ!」とハイテンションぶりを見せる。グチや不満が一切ないことも含め、ただ「バイタリティーがあるから」というより、“視聴者目線で見た魅力的な出演者”として振る舞えるのが最大の強みだ。

結局、50時間の予定を延長し、73時間滞在して、無人島ロケは終了……と思いきや、ABEMAに15分42秒の特別編をアップするという。しかも、それはロケ直後の休暇を利用した完全プライベートの映像であり、スタッフに支払う延長料金22万2000円はナスDの自腹。ナスDは「鮫島で釣ったサメだけを食べる休日」を撮りたかったのだが、体力的に限界のスタッフが撮影できず、サメも釣れずに終了した。

しかし、これは失敗ではなく、現在の視聴者が好むリアルなドキュメンタリー要素と言えるし、無料放送のABEMAにつなぐ試みは、番組の付加価値そのものであり、ファンサービスにほかならない。ナスDは目の前の労力よりもサービス精神が上回る人なのだろう。

エンディングでは、よゐこが「次回の無人島0円生活で対決したい相手」にEXITを指名し、ナスDは「同行ディレクターゼロで完全に1人でやる」ことを公表。よゐこはさらなる笑いを誘い、ナスDはハードルを上げて、視聴者に楽しみを感じさせて終了した。

ただ、無人島0円生活は特別企画に過ぎず、メインはレギュラー放送している『ナスDの大冒険TV』。ナスDは、日本人が踏み入れていない僻地に向かい、事実、現在放送中の「ネパールの奥地・天空のヒマラヤ部族 決死の密着取材150日間」では、無人島が霞んでしまうほどのすさまじい映像を見せている。

「超本気紀行ドキュメント番組」と自負する通り、常に命がけの制作姿勢は、深夜帯やABEMAの放送・配信だけではもったいないくらいだ。もっとも、ナスDは放送時間帯なんて気にしていないのかもしれないが、もっと多くの人々に訴求できるコンテンツであることは間違いない。

■ディレクターの冠番組は異例なのか

あらためて、レギュラー放送でも、この日の特番でも、ナスDの存在感は突き抜けている。いまだ「ディレクターの冠番組は異例中の異例」「あの人は変わっているから」なんて特別視する声もあるが、そうした杓子定規的な見方では、プロアマ問わず量産され続けているネットコンテンツとの争いを勝ち抜いていけないだろう。

はからずもコロナ禍で出演者数が制限され、ガヤ芸人やコメンテーターなどの出番が減り、むしろ視聴者はそれを支持するなど、テレビタレントが厳しい状況に追い込まれはじめている。視聴者はテレビマンが頼りがちな美形や分かりやすいキャラクターではなく、ましてや肩書や事務所の名前でもなく、ただ「本物」を求めているのではないか。

タレント、アスリート、文化人、スタッフ、一般人、外国人、LGBTなどの間に境界線を引かず、「誰が今の視聴者にウケるのか」を見極める目を持ち、思い切って起用する。『陸海空』のスタートから3年が過ぎた今、ますますアグレッシブなナスDの姿を見るたびに、テレビマンたちの柔軟性が問われているような気がしてならない。

■次の“贔屓”は…芸人トークショーの今後を占うか?!『内村&さまぁ~ず 笑いダネ』

(左から)大竹一樹、内村光良、三村マサカズ=日本テレビ提供

今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、21日に放送される日本テレビ系バラエティ特番『内村&さまぁ~ずの初出しトークバラエティ 笑いダネ』(21:00~22:24)。

内村光良とさまぁ~ずがMCを務めるトークバラエティ特番。2018年8月、2019年3月、2020年1月に続く4回目で、これまではすべて時間帯が異なる不定期放送だったが、今回は高視聴率の『行列のできる法律相談所』『おしゃれイズム』を休んで放送されるだけにプレッシャーは大きい。

コンセプトは、「ゲストは芸人のみ」「トークは初出しのみ」の2点。内村&さまぁ~ずというトーク巧者だからこそできるシンプルな構成で、トーク番組の原点に戻ったかのような感がある。今回のゲストは、サンドウィッチマン、出川哲朗&中岡創一、ミルクボーイ&四千頭身であり、旧知の仲間と新世代を招いてどんなトークが繰り広げられるのか。

コロナ禍でタレントの存在意義に厳しい目が向けられる中、最大の武器となるトークでどう魅了していくのか。試金石のような番組になるかもしれない。