ニュースか否かは誰が決めるのか――。視聴者に「伝えたいもの」、視聴者の「見たいもの」がニュースになることに違いはない。では、その伝える順位を決めるのは? そして、そのボリュームを決めるのは? 時にはそんな見方をしてみると、ニュースもまた違った味わいになるはずだ。

19日夕方に飛び込んできた星野源さん&新垣結衣さん結婚、いわゆる"逃げ恥婚"の一報。夕方の各局ニュースはほとんどがもうすでに走り始めている時間帯だから、とりあえずの速報。急ごしらえのVTRで対応するといった感じだっただろう。そんな夕方ニュースを終えた後の次のタイミングと言えば、午後10時台からの夜のニュース枠。少し落ち着いて準備ができてオンエアに臨む際に、各局はこの逃げ恥婚をどのように扱うのか。筆者は今回、そこに注目してみた。

  • 左から新垣結衣、星野源(「東京ドラマアウォード2017」授賞式より)

実際に比べていく前に説明しておきたいのだが、それぞれのニュース番組の冒頭を飾るネタは、その日、その放送時間までに起きた、あるいは現在も進行していることで、作り手側が考える"いち早く知ってもらいたいニュース"である。重要性や速報性、視聴者の強い関心など、いろんな尺度で検討がされ、デスク陣のチーフ(編集長という名前で呼ぶ局もある)が決定する。

とは言え、テレビはどこまでいってもやはり映像メディアなので、映像が衝撃的なものであれば"掴み"としてトップに持ってくる場合もある。新聞記事では単なる事故や火事として写真無しで報じられるものさえも、ドライブレコーダーの映像や燃えさかる炎の映像があれば、視聴者の「見たいもの」に応えるニュースとなり、トップを張る内容に値するのだ。新聞とテレビのニュースの違いは、走行中の車の前に自転車で飛び出す"ひょっこり男"の事件を思い出してもらえれば、腑に落ちると思う。

各局の動きは?

では、各局はどのように逃げ恥婚を報じたのか。テレビ朝日『報道ステーション』の扱いは、極めて抑制的だった。トップ項目は新型コロナ関連。それを大展開した後はリコール署名偽造事件で、CMを挟んでからその他のニュースをまとめて紹介するコーナーの、最初の項目という形だ。午後10時20分すぎから2分程度。極めて短いのは、視聴者層を意識し、報道の王道を貫いたということだろうか。もちろん、そこにはテレ朝があまり星野さん、新垣さんのオリジナルな映像素材を保有していないという理由も大いにあるかもしれない。

午後11時に始まる日本テレビ『news zero』は、逃げ恥婚が冒頭ネタで、CMを挟んで8分くらい放送。『zero』は普段から柔らかいネタを報じているし、若い層が観ていることを意識してのものだろうか。"掴み"として先に流すことで、映像素材で圧倒的優位に立つ裏局とのガチンコを避けた形と言えるだろう。そこには多分、裏局はそう早くにこのネタを報じないという読みがあったのかもしれない(その理由は後述したい)。

そして、『zero』が意識せざるを得ない裏局TBS『news23』。逃げ恥婚のきっかけともなったドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』を放送し、2人の映像素材は豊富にある。あなたが『23』のニュース順やボリュームを決める立場にあったら、どのように考えるだろうか。やはりトップに持ってくるだろうか。「視聴者が見たいのはこれなんだ」と言わんばかりに、大展開するだろうか。そのことを踏まえて、『23』の構成をみていこう。

最近の『23』は、比較的重要度の高いニュースでありながら、大展開とまでいかないようなネタで始まることが多い。19日の夜もそうで、リコール署名偽造事件から始まった。そのVTRが終わるといつものオープニングタイトルが流れ、スタジオに。そして、小川彩佳キャスターが嬉しそうに逃げ恥婚について語り出し、午後11時5分ごろから15分すぎの10分間にわたり報じたという形だった。

TBSはもっと引っ張るべきだった

皆さんはこの展開を妥当だと思っただろうか。筆者はあえてここで、"否"と言いたい。ドラマを放送した局として映像素材はもとより、色んなエピソードがあるだろうことは周知の事実であり、そういった意味で視聴者の期待が非常に高いのであれば、テレビマンとしてもっと引っ張るべきだと思うからだ。と同時に、硬派な報道スタイルを持つTBSの『23』であれば、2項目目で逃げ恥婚を報じなくても大きな問題にはならないのではないだろうか。おそらく『zero』もそういう展開を予想して、まさか2項目目にこないだろう、早めに展開しておけば重なることはないだろうと踏んでいたのではないだろうか。

ただ逃げ恥婚のニュースを期待して観ている、いつもとは違う層の視聴者がいることは明らかなので、そこはきちんとケアすべき。例えばトップ項目放送後にスタジオに戻ってきた時に、プロジェクターに少し映像を入れるなりして、「後ほど〇〇の映像も含めてたっぷりお伝えします」と説明して、別のニュースへ展開してもいいのではないかと筆者は思ってしまう。これが『新・情報7DAYSニュースキャスター』の安住紳一郎アナであれば、「TBSならではの映像を交えて絶賛編集中ですので、今しばらくお待ち下さい」という、実はPRになっている自然な一言も言えるのだろうが。

というわけで、若干『23』の展開の仕方に勿体なさを感じた筆者だが、ちょっと前のTBSなら、ともすると「内輪ネタだ」と非難されそうなニュースを、こんなに冒頭近くで放送することなんて検討すらされなかったのではないかとも思う。やはりテレビは現在に他ならない。変わり続けている証拠だ。

ところで、新垣結衣さんという名前で、筆者属するロスジェネ世代の多くが思い出すのは同じ沖縄出身のHITOEこと新垣仁絵さんだろう。ただこちらは「あらかき」で、濁点ではない。懐かしい。SPEEDのリーダーで、昔はHITOE'S 57 MOVEというプロジェクトがあって……(以下、長くなるので割愛)。