王者が王者たるゆえんを見せつけられた――。各局の改編情報がほぼ出揃った中で筆者がそう感じたのは、日本テレビの編成だ。去年の秋改編の際にもこのコラムで書いたが、視聴率が好調な局は基本的に大きな改編に踏み切ることは無い。わざわざタイムテーブルを変えて、視聴率が悪くなってしまうというリスクを取る必要がないからだ。

コアターゲット戦略の徹底をかかげた日本テレビ

10年連続で個人視聴率3冠なのであれば、そのままでいいではないか。わざわざ何か変える必要がないではないか。テレビマンじゃなくともそう考えると思うのだが、そこが違う。やはり日テレはさすがだ。そして、何より今回の改編の狙いは"ある局"を意識したものと言わざるを得ないのだ。

日テレの4月編成の改編率は、全日・プライム・ゴールデンのすべての時間帯において10月を上回った。終了が話題になった『火曜サプライズ』の後番組も気になるところだが、注目すべきは土曜の午前と午後にまたがる情報番組『ゼロイチ』だ。『シューイチ』ではなく、『ゼロイチ』。『〇〇イチ』ブランドみたいなものを作りたいのかと勘ぐってしまうようなタイトル。放送時間は10時30分から途中ニュースや3分クッキングを挟んで午後1時25分まで。発信型情報バラエティーと銘打ち、MCは指原莉乃さん、謎解きクリエイターの松丸亮吾さん、入社2年目のアナウンサーが務める。

おや? 土曜日のこの時間は…と思ったあなたは正解。そう、この放送時間はTBS『王様のブランチ』と大きく重なっているのだ。中身も情報番組という点では大いに重なる。とは言え、災害が頻発する昨今なのだから、そこに生で対応できる長い時間のワイド情報番組を編成することは平日では当たり前となっているので、日テレが土曜日にもその面積を広げたという言い方もできるだろう(実際、統括プロデューサーは報道記者出身の報道畑だ)。とにもかくにも日テレとTBSは土曜日のこの時間帯でガチンコの戦いを繰り広げることになった。

TBSとのガチンコ対決

この編成でも分かるが、筆者の思う日テレが意識する"ある局"とはTBSのことだ。「視聴率が好調なのはテレビ朝日ではないのか」と突っ込まれそうだが、"個人全体視聴率"という指標でみれば確かにその通り。4歳以上の男女がどれだけ観ているかを表す"個人全体視聴率"であれば、テレ朝は日テレに猛追する形で2位となることが多い。しかし、これが4~49歳、13~49歳、13~59歳と視聴者層の区分を変えていくと、順位が大きく入れ替わる。フジテレビが2位につけたり、テレ朝が4位になったりするのだ。

その数字はセールスに直結する。テレビにCMを出したいスポンサーのほとんどは、若い世代がターゲットだ。シニア層も含めた"個人全体視聴率"よりも、ピンポイントで狙える指標を重要視することになる。TBSは今回の改編にあわせ、これまで13~59歳の男女としていた重点ターゲット=ファミリーコアをグッと若くして、4~49歳に変更した。そういった流れの中で、日テレは、TBSが開拓した土曜日の午前~午後にまたがるワイド番組の、若い視聴者を取りに行こうとしているのだろう。放送開始から25年となる『王様のブランチ』に引導を渡すくらいの気構えではないだろうか。

日テレとTBSのガチンコ対決は、火曜日19時台も同様だ。TBSが『東京フレンドパーク』を想起させるような、音とリズムがテーマのアトラクションバラエティー『オトラクション』を始めるのに対し、日テレはここで『ヒューマングルメンタリー オモウマい店』をスタート。これまで中京テレビが制作してきた特番をタイトル変更したもので、そういった意味で実績があるので安牌な感も否めない(特番でMCを務めた、中京テレビでおなじみの高田純次さんがいないのはさみしいが)。

そして、金曜日の23時台にも注目したい。日テレは『アナザースカイ』を深夜帯に移動させ、音楽バラエティー『MUSIC BLOOD』をスタートさせる。『アナザースカイ』と違って、音楽を絡めることで若い視聴者をより多く取り込める内容になりそうだ。かつてこの時間に放送されていた音楽番組『FUN』(司会は藤原紀香さん、松任谷正隆さん、今田耕司さんでした)に関わっていたスタッフも新番組に参加しているようなので、間違いないのではないか。TBS『A STUDIO+』とは、ゲストでどう差別化を図るかというところだ。

ここまで日テレとTBSの改編について触れてきたが、他の局にも気になるところが山ほどある。コロナ禍によって家でテレビを観ることが多くなった方に、こんな見方もあるということを今後も引き続きお伝えしていきたい。