かつて東京の都心部を網羅していた東京都電も、自動車交通の妨げになるなどの理由から次々に廃止されてしまい、現在は1路線のみになってしまった。都電荒川線は三ノ輪橋停留場(荒川区)と早稲田停留場(新宿区)を東西に結ぶ12.2kmの路線で、その前身は三ノ輪橋~赤羽間の都電27系統と荒川車庫~早稲田間の32系統だった。27系統の三ノ輪橋~荒川車庫~王子間、32系統の荒川車庫~王子~早稲田間を統合して荒川線となった。併用軌道区間がほとんどなく、ほぼ専用軌道で運行していたことも存続の要因になったという。

  • 町屋駅前停留場に停車中の都電8900形(2015年9月撮影)

  • 都電荒川線は2つの系統が統合され、1つの路線となった

都電のほとんどが廃止される中、生き残った荒川線。10年前までは延伸計画もあったようだ。その中のひとつが、三ノ輪橋停留場から南千住までというもの。直線距離で650mほどの短い距離だけど、南千住駅はJR常磐線、地下鉄日比谷線、つくばエクスプレスが通っている。これら3路線と都電荒川線が乗換え可能となれば、沿線の人々にとって便利だろう。あらかわ遊園、荒川自然公園に遊びに来る人も増えそうだし、商店街にも活気を呼び込める。

荒川区が2009(平成21)年3月に策定した「荒川区都市計画に関する基本的な方針(荒川区都市計画マスタープラン)」でも、都電荒川線を重要な交通の軸としてとらえていた。この計画に荒川線の延伸計画はない。しかし、この計画に寄せられたパブリックコメントに、区民の「都電荒川線を南千住東地域まで延長してもらいたい」という意見がある。これに対し、区の回答は「都電荒川線の延伸について事業者に継続的に要望してまいります」だった。

  • 都電荒川線路線略図。点線が延伸構想区間(国土地理院地図を加工)

しかし、最近はまったく話題になっていない。現在はどうなっているのか。

荒川区都市計画マスタープランの担当部署、荒川区都市計画課に聞いてみたところ、「10年前の計画であり、現在は新たな計画を検討中。荒川線の延伸については具体的な活動は実施していない」とのことだった。ただし、「白紙に戻したと言うつもりはなく、東京都交通局となんらかの打ち合わせがあるときに要望を伝えている」という。

他の自治体で、地下鉄の延伸や新設について定期的に国や都に要望活動を行っている場合もある。それに比べるとおとなしい。とはいえ、強力に推し進めにくいという事情も推察できる。荒川線を延伸するとなれば専用軌道か併用軌道(路面区間)になる。しかし、三ノ輪と南千住の間は住宅密集地で、公共用地も少なく、簡単に道路を作れそうにない。

じつは三ノ輪と南千住を結ぶ道路「補助331号線(東京都市計画道路幹線街路補助線街路第331号線)」の計画もあり、現在の状況は「用地取得中」。事業終了予定、つまり開通予定は2023年3月31日となっている。しかし道路断面図は2車線の道路と街路樹と歩道のみ。路面電車の軌道は含まれていない。

既存の道路に軌道を設置するとなれば、国道4号線で北上し、都道464号線で南下するルートになる、これはかなり大回りで時間がかかる。やはり直行コースが良いと思うけれど、専用軌道にすれば国道4号線に踏切が必要と予想され、踏切を減らそうという国の動きに逆行する。東急世田谷線と環状7号線が交差する若林踏切のような交差点にしたほうが良さそうだ。ただし、補助331号線をもっと幅広く作る必要がある。

都電荒川線の南千住延伸はかなり難しそうだけど、便利になることは間違いない。荒川区に頑張ってもらい、東京都の理解を得てほしい。

ところで、東京都は都電荒川線に「東京さくらトラム」の愛称を付けた。しかし、荒川区ではその前から荒川線の線路沿いにバラを植えている。沿線の人々も、都電の撮影に訪れる人々にとっても、「なぜローズトラムにしないのか」と思っているかもしれない。

愛称投票では「東京ローズトラム」も候補に入っていたけれど、結果は「東京さくらトラム」に400票近く差をつけられた。この件について、荒川区都市計画課の担当者に感想を聞いてみたところ、やはり残念に思っている様子。「うち(荒川区)だけではなく、豊島区さんもバラを植えていらっしゃるんですけれど、飛鳥山公園の桜のイメージが強かったようで……」とのことだった。