京王電鉄は9月29日から、京王線の新型車両5000系の営業運転を開始する。従来の京王線の電車からデザインを一新し、先頭車はスラント(傾斜)タイプ、運転台付近はブラックアウトで京王レッドの縁取り。スカートも「京王レッド」で目立たせた。客室もロングシートとクロスシートの転換が可能で、有料の座席指定列車での使用を前提としている。

京王電鉄の新型車両5000系。9月29日から通常列車で営業運転を開始する

新型車両5000系のおもな特徴は、その外観やコンセントも付いた転換座席になるだろう。しかしもうひとつ、地味だけど画期的な機能が付いている。それは床下に搭載された蓄電池(バッテリー)。電車だから電力は架線から得られる。しかし蓄電池も付いている。この蓄電池はどんな役目をするかというと、もちろん電車を動かすためだ。新型車両5000系は、架線からの電力と、蓄電池からの電力の両方で動く。

蓄電池搭載といえば、まず思い浮かぶ車両はディーゼルハイブリッド方式。ディーゼルエンジンで発電し、モーターで車輪を回す。減速時は回生ブレーキを使って発電し、蓄電池に電力を戻す。これで燃料の節約と排気ガスの減少を狙った。小海線に投入されたキハE200形、仙石線に投入されたHB-E210系などが挙げられる。

次に思い浮かぶ車両は蓄電池電車。非電化路線に電車を走らせるという考え方で、架線で集電して蓄電池に電力を蓄える。架線のない区間は蓄電池からの電力でモーターを動かす。烏山線に投入されたEV-E301系「ACCUM」、若松線(筑豊本線)に投入されたBEC819系「DENCHA」などが挙げられる。

京王電鉄5000系は蓄電池電車の仲間に見える。しかし京王線に非電化区間はなく、わざわざ蓄電池電車を使う必要はない。だから、蓄電池を搭載した5000系を「蓄電池電車」とはいわない。蓄電池で走行できるといっても、容量が小さいために長距離運行はできないはず。つまり蓄電池の電力は主ではなく、補助的に使うとみられる。

新型車両5000系に搭載された車上蓄電池の外観

京王電鉄では車上蓄電池のおもな効用を省エネルギーとしている。しかし、その性能から察するに、安全面でも心強い機能となるはずだ。

回生ブレーキを確実に作動させる

新型電車のほとんどは回生ブレーキを装備している。これは電車が減速するとき、モーターを発電機として電力を発生させるしくみだ。モーターは電力を受けて自力で回転しなければ、負荷がかかって速度が落ちる。従来はその負荷で発生した熱を発散させていた。熱に変換せず、発電しようという考え方である。発電された電気は架線に戻される。

しかし、回生ブレーキには課題がある。回生失効といって、回生ブレーキから発電された場合の電圧が、架線の電圧より低い場合には作動しない。架線に電力を戻そうとしても、架線側が電力を必要としていない場合は回生電力を受け取ってもらえない。そこで、回生ブレーキの車両を多数運行する路線では、変電所側に電力を蓄える装置を設置するなどで対策している。

電車に蓄電池を搭載すれば、そこに回生ブレーキの電力を蓄えられるため、回生失効を減らせる。また、地上の電力貯蔵設備に頼らなくて済む。もちろん、蓄電池に電力を貯めっぱなしでは回生電力を受け入れられないから、適度に電力を消費する必要がある。このときは架線からの電力を使わないから、電気の消費量を減らせる。

路線の停電時に隣の駅程度まで自力走行できる

路線が停電した場合、いままではその場で待機。運行再開まで電車に閉じ込められた。空調が働かないため、車内環境も悪く、気分が悪くなる人も多かった。かつては空調重視で窓が開かない電車もあり、蒸し風呂状態になる場合もあった。安全確認ができた場合に限り、ドアを開けて外に脱出できる。ただし、線路を歩くとなれば安全確認が終わるまで運行再開できず、復旧が遅れてしまう。

電車に蓄電池があれば、徐行運転で近くの駅まで自力走行できる。乗客は安全に脱出でき、電力復旧後も運行再開までの安全確認時間を短縮できる。

エアセクション停止位置からの脱出

電車の電力供給はいくつかの区間に別れている。この電力区間の境目をエアセクションという。エアセクションでは手前の区間と次の区間の架線が重複している。これは電車が通過するときに電力を途切れさせないため。ただし、非常ブレーキなどで電車を緊急停止したとき、パンタグラフがエアセクションにかかっていると、過大な電流が流れて、架線やパンタグラフを焼き切ってしまう。2015年に根岸線やJR神戸線で起きた架線切断事故の原因がエアセクション内の停止だった。

基本的に電車はエアセクションで停めてはいけない。信号で停止するときはエアセクションを避けるように調整する。しかし、線路上の障害・災害等では緊急停止が原則だ。調整などしていられないから、エアセクションであっても停めなくてはいけない。この場合、すみやかにパンタグラフを降ろす。もちろん電力供給が絶たれて電車は動けない。他の電車に牽引してもらったり、別の車両のパンタグラフを使って少しずつ移動したりと、様子を見ながら脱出することになる。

電車に蓄電池があれば、パンタグラフを降ろした電車を自力でエアセクションの外に移動し、運転再開できる。運転士はエアセクションを気にせず非常ブレーキを操作できる。

京王電鉄5000系の車上蓄電池は省エネだけではなく、安全面の利点も大きい。今後、他の新型電車も採用するかもしれない。筆者は「高尾~高尾山口間を蓄電池走行専用にすれば、架線柱を撤去できる。高尾山付近の景観を向上できそうだな」と思った。