先日、「S-TRAIN」で西武秩父駅から元町・中華街駅まで乗り通した。西武鉄道・東京メトロ・東急電鉄・横浜高速鉄道を直通する電車だ。自然豊かな秩父の山中から武蔵野を通り抜け、大都会の地下を潜り、夜景を眺めつつ、元町・中華街駅に到着。100km以上の距離を約2時間半もかけて走るけれど、景色の変化がおもしろくて飽きなかった。

このうち、西武秩父駅から吾野駅までは西武秩父線で、全線が単線である。大手私鉄の西武鉄道といえども、自然豊かなこのあたりは単線でローカル線の雰囲気。途中の駅で長めに停まり、特急レッドアローや普通列車とすれ違う。10両編成の新型通勤車両40000系がローカル線を行く。その組み合わせもおもしろい。

「S-TRAIN」(土休日)の運行路線と単線・複線区間

吾野駅から池袋駅までは池袋線だ。起点の池袋駅は4本の線路があり、ドーム屋根を備えたターミナル駅。練馬~石神井公園間は複々線となっていて、いかにも東京近郊の通勤路線だ。一方、飯能駅から吾野駅までは単線区間もあり、ローカル色の強い区間である。

池袋線はJR山手線に乗り換えられる通勤路線だけど、全線複線ではなかった。これは意外に思うかもしれない。西武鉄道の他の路線はどうか。もうひとつの幹線の新宿線は西武新宿~本川越間を結ぶ。こちらは全線複線かと思ったら、惜しい。終点の本川越駅付近、たった1kmほどは単線だった。この短い距離くらい複線にすればいいのに……と思うけれど、本川越駅の手前にJR川越線と東武東上線の高架橋があり、西武新宿線の線路は橋桁の間をすり抜けるように通っている。拡幅は難しそうだ。

大手私鉄というと、大都市で通勤電車が頻繁に走るという印象が強い。ターミナル駅付近では複々線や相互直通運転もあってにぎやかだ。東京メトロは全線が複線電化だし、東急電鉄はこどもの国線を除く全線が複線電化。小田急電鉄と相模鉄道は他社に連絡する線路以外は全線複線電化。京阪電気鉄道はケーブルカーを除き全線複線電化、阪急電鉄、阪神電気鉄道もほぼ全線複線電化である。

しかし、大手私鉄だからこそ長大な路線があり、都市から離れると輸送量も減って、単線で十分といえる。事業エリアが広ければ、ローカル線のような支線も散在する。西武鉄道の支線のほとんどは単線だ。東武鉄道も東上線、伊勢崎線の終点付近は単線になるし、単線の支線も多い。京急電鉄も三崎口駅付近は単線で、都心と羽田空港を結ぶ印象とはかなり違う。名古屋鉄道や近畿日本鉄道も単線区間を多数抱えている。

西武鉄道の路線略図。太い線が複線区間

西武鉄道の路線網を眺めつつ、各路線を検証してみたら、全線複線化された路線はひとつだけだった。西武有楽町線だ。練馬~小竹向原間2.6kmの西武有楽町線が全線複線で開業した理由は、地下鉄との直通を前提としたから。古くからの路線のように、単線から始まり、輸送量に応じて複線化したという経緯ではない。

東京メトロ有楽町線と西武有楽町線は一体の計画だった。1968年に運輸大臣(当時)の諮問機関、都市交通審議会が策定した"答申第10号"で示された路線だ。「東京及びその周辺における高速鉄道を中心とする交通網の整備増強に関する基本計画の再検討について」と題され、現在の地下鉄網の基礎として1号線から12号線まで策定された。現在でも、都営浅草線を1号線、大江戸線を12号線などと呼ぶ場合があるけれど、その根拠がこの答申だ。

このうち、西武有楽町線と地下鉄有楽町線に該当する路線は"8号線"だ。区間は成増・練馬 - 向原 - 池袋 - 護国寺、および西落合 - 目白 - 護国寺 - 飯田橋 - 市ケ谷 - 永田町 - 有楽町 - 銀座 - 明石町だった。現在の地下鉄有楽町線にかなり近い。1972年に引き続き示された答申15号では、保谷 - 練馬 - 向原 - 池袋 - 飯田橋 - 市ケ谷 - 永田町 - 銀座 - 明石町 - 豊洲 - 辰巳 - 湾岸方面の海浜ニュータウン、および豊洲 - 東陽町 - 錦糸町 - 押上 - 亀有となった。このとき、後に副都心線として開業する13号線が追加され、向原~成増間が13号線に移された。

西武有楽町線は池袋線の電車を地下鉄有楽町線に直通させるため、西武鉄道が建設、運営する路線となった。ここで気をつけたいところは運賃だ。西武鉄道沿線から乗車して、西武有楽町線経由で池袋駅で降りると、小竹向原~池袋間の東京メトロの運賃も合算となる。池袋線のみで池袋駅に着くよりも割高になってしまう。西武鉄道沿線から乗車して池袋駅で降りたいのに、地下鉄有楽町線・副都心線直通の列車に乗った場合は要注意だ。