蒸気機関車の動力源といえば蒸気機関。熱で水を蒸発させて、その圧力で動輪を動かすしくみだ。鉄道の近代化が進み、蒸気機関車が引退した後も、電気機関車やディーゼル機関車に蒸気を発生させる装置が搭載された時期がある。

電気機関車やディーゼル機関車に搭載された蒸気は走行用ではない。ヒントは冬。寒い時期ならではの理由だ。この蒸気発生装置は客車を暖めるために搭載された。スチーム暖房専用の装置である。

蒸気発生装置を搭載したDF50形ディーゼル機関車

初期の鉄道の客車は暖房装置がなかった。冬の鉄道利用者は寒さをしのぐため、厚着をしたり、湯たんぽを持ち込んだりしていた。もちろんお酒で体の内側から……という人もいただろう。だるまストーブを設置する客車もあった。この方法は現在も津軽鉄道のストーブ列車などで利用されている。

しかし、そもそも客車は蒸気機関車が引っ張っている。蒸気機関車は大きなボイラーで湯を沸かしているわけで、その蒸気を拝借すれば客車も暖められる。そこで、蒸気機関車のボイラーから蒸気管を引き出し、連結器のそばで客車側の蒸気管と接続した。蒸気管は客室の壁伝いに引き通され、反対側の連結器へ。そこで次の客車の蒸気管とつながり……という形で、蒸気機関車の熱を客車に行き渡らせた。

大井川鐵道で現役の旧型客車。蒸気管が設置された座席下と窓下の床部分にカバーが設置されている

ところが、蒸気機関車が相次いで引退し、電気機関車やディーゼル機関車と交代すると、客車が暖房用にあてにしていた蒸気をもらえなくなってしまう。蒸気機関車が引退しても、客車はまだまだ使える。しかし、蒸気暖房が使えなくては寒い時期に困る。そこで、客車の蒸気暖房装置をそのまま使うために、電気機関車やディーゼル機関車にも小型の蒸気発生装置を搭載した。これを鉄道車両用語では「SG(Steam Generator)」という。

蒸気機関車は石炭を燃やしていたけれど、電気機関車やディーゼル機関車のSGは重油や軽油を燃料としていた。燃焼効率がいいし、煙も少ない。そもそも蒸気機関車を引退させた理由は燃費が悪いだけではなく、煙の煤をまき散らさないため。トンネル内で乗務員や乗客が煙に巻き込まれないためでもあった。石炭を燃やすより、重油や軽油を燃やすほうが効率がいい。とくにディーゼル機関車は燃料として軽油を使うため、そのまま同じ燃料を使えた。

つまり、蒸気機関車引退後に投入される旅客列車用の機関車は、小さな蒸気発生装置が搭載された。その後、蒸気機関車時代の客車の引退に合わせて、電気機関車やディーゼル機関車の蒸気発生装置も使われなくなった。長編成になると後ろのほうの車両は蒸気が冷えてしまい、暖まりにくいという欠点もあった。そこで客車に電気ヒーターを搭載し、機関車には暖房用の電源供給装置が設置された。

特急列車用の客車は電源車を連結したり、床下に小さなディーゼル発電機を搭載したりして、冷暖房や照明、食堂車の調理器具に電力を供給した。こうして、機関車から暖房用の蒸気や電源を受け取る客車は廃れていった。なにより客車そのものが減り、電車やディーゼルカーに置き換わった。

なお、大井川鐵道や真岡鐵道のように、蒸気機関車の保存運転で旧型客車が使われている場合は、いまも蒸気暖房が使われているという。昔ながらのスチーム暖房のぬくもりを体験するなら、冬のSL列車の旅に出かけよう。