特急・急行・快速・準急など、大都市と近郊を結ぶ路線は列車の種別が多い。利用者の誰もが「早く目的地に着きたい」と考えている。その要望にできるだけ応えるために、通過駅の多い列車、各駅に停まる列車を組み合わせる。京急電鉄も7種類の列車種別がある。しかし、すべての列車が停まる駅はひとつだけだ。どの駅だろうか。
起点から終点まで列車種別が同じ路線の場合、起点・終点の駅にはすべての列車が停まる。途中に大都市の重要な最寄り駅がある場合も、特急停車駅にはすべての列車が停まる。だから全列車種別が停まる駅とは珍しい。
まず、京急電鉄の列車種別と停車駅を比較してみよう。
「普通」
京急電鉄では、各駅に停車する列車を「普通」と呼ぶ。列車は駅に停まって乗客を乗降させる。これが普通のことだ。ゆえに普通ということらしい。ちなみに南海電鉄では、南海本線系統が「普通」で、高野線系統が「各停」となる。その理由は第282回で紹介した。東急大井町線の「各停」の一部には通過駅がある。こちらは第329回で紹介した。各社によって考え方は違うけれど、京急の普通は終点まですべての駅に停まる。
「エアポート急行」
京急電鉄は「急行」ではなく「エアポート急行」が正式な種別名だ。かつての急行は本線系統と、都営浅草線方面と羽田空港方面を結ぶ系統があった。本線系統の急行は1999年に廃止され、羽田空港方面だけが残った。2010年に都営浅草線方面と羽田空港方面を結ぶ系統をエアポート急行とし、あわせて羽田空港と新逗子駅を結ぶエアポート急行も新設された。つまり、京急の急行はすべて羽田空港を発着する「エアポート急行」という種別で運行されている。京急蒲田駅を境として、系統が分断されている。
エアポート急行は大師線と本線の金沢八景駅以南、久里浜線では走っていない。これらの駅は「すべての種別が停まる」候補から外れる。
「特急」
1968年に上位種別の「快速特急」が誕生するまで、最も速い列車として君臨した。京急電鉄と並行するライバル、品川~横浜間で京浜東北線や横須賀線の駅に近い駅に停車する。国鉄と京急の競争の象徴ともいえる。しかし現在、京急電鉄の主力は快速特急改め「快特」と「エアポート快特」となっている。特急が走る時間帯は朝夕の混雑時間帯と深夜・早朝だ。日中は運行しない。大師線以外の全路線で走る。
「快特」
特急より停車駅の少ない種別で、快速特急の名で誕生した。当初は品川・川崎・横浜と三浦半島方面を結ぶ観光向け列車だった。座席もおもにクロスシート車を用いた。現在は通勤需要に拡大し、都営浅草線方面に直通する系統が多い。品川駅・泉岳寺駅発着列車はおもにクロスシートの2100形を使い、都営浅草線方面への直通系統はロングシート車に限定される。品川~横浜間は東海道線普通列車に相当する駅に停車する。最高速度120km/hでJRの列車を追い越す場面があり、京急ファンを興奮させる。
「ウィング号」
「ウィング号」は1992年に登場した座席定員制の列車だ。平日の夕方から夜間にかけて下り列車のみ設定されている。三浦半島方面へ座って帰りたい人向けに、特別料金300円で着席整理券を発行する。京急電鉄の公式サイトでは、「京急久里浜行、三崎口行の快特、ウィング号は平日の夕方以降11本運行しています」とある。つまり「快特」が列車種別、「ウィング号」は愛称といえる。
ここでは「ウィング号」を列車種別のひとつとして数えるけれど、正式な列車種別ではなく、快特の変形版として扱われている。しかし、快特より停車駅が少なく、有料列車であるから、快特の上位種別と考えていいだろう。快特の停車駅のうち、京急蒲田駅、京急川崎駅、横浜駅を通過し、品川~上大岡間をノンストップで走る。上大岡駅から先は快特と同じ停車駅で、着席整理券なしで利用できる。
「モーニング・ウィング号」
平日朝に上り2本設定された座席定員制列車。夕方下りの「ウィング号」の成功を受け、2015年に運行開始した。京急の列車種別の中では「エアポート快特」の次に停車駅数が少ない。乗車駅は三浦海岸駅、横須賀中央駅、金沢文庫駅、上大岡駅で、そこから品川駅までノンストップ。2本のうち1本は品川駅まで、もう1本は泉岳寺駅まで運行する。
「エアポート快特」
快特のうち、都営浅草線方面と羽田空港方面を最速で結ぶ列車である。品川~羽田空港国際線ターミナル間はノンストップという潔さ。都営浅草線内も通過駅があり、京成線ではアクセス特急となって成田空港駅に発着する列車もある。成田空港と羽田空港を乗換えなしで結ぶ列車だ。
すべての列車が停まる駅は、最も停車駅の少ない列車の停車駅の中にある。京急電鉄で最も停車駅が少ない列車はエアポート快特だ。泉岳寺駅、品川駅、羽田空港国際線ターミナル駅、羽田空港国内線ターミナル駅の4つしかない。次に停車駅が少ない列車は「モーニング・ウィング号」で、停車駅は三浦海岸駅、横須賀中央駅、金沢文庫駅、上大岡駅、品川駅、泉岳寺駅の6つ。これらの種別を付き合わせると、品川駅と泉岳寺駅に絞られる。
品川駅と泉岳寺駅のどちらかを決める列車種別は「ウィング号」だ。全列車が品川駅始発となっている。泉岳寺駅からは出発しない。これで品川駅が残った。京急電鉄で「ウィング号」なども含めたすべての列車種別が停まる駅は品川駅だけ、というわけだ。