元国税局職員 さんきゅう倉田です。好きな映画は「納税者/怒りの脱税」です。
多くの芸人はアルバイトをしています。ぼくが最後にやっていたアルバイトは、家電量販店の携帯コーナーの販売員でした。横浜市内だったけど、時給は1,600円で、当時にしてはとても高かったと思います。
現在、東京と神奈川の最低賃金は1,000円を超えていますが、労働者が不足しているため、街で見かける飲食店の求人広告では1,200円程度に設定されていることが多いように思います。
それくらい人手不足であるにも関わらず、雇用する側は、アルバイトの大切さと偉大さに気づいていません。未だに、飲食店や小売店には、アルバイトより自分のほうが偉いと思っている店長がいるのではないでしょうか。
1,000円で働くアルバイトは店長より偉い
店長よりも社長よりも、偉いのはアルバイトです。時給1,000円程度で働くアルバイトがいなければ、多くの小売業・サービス業が成り立ちません。飲食店もドラッグストアもスーパーマーケットも、彼らの犠牲があるから商売を続けていけるのです。
彼らは、たったの1,000円で働いてくれる素晴らしい人材です。店長に怒り、社長が横柄な態度で振る舞っても、文句も言わずに1,000円で働いてくれるなんて真似できません。
派手なネイルや染髪を禁止され、髭を剃らされ、シフトが作成されるまで遊びの予定も入れられないような過酷で理不尽な環境で、文句も言わずに働くことは聖人でも難しい。店長や社長の仕事は、多くの人がやりたがります。でも、店長や社長は、時給1,000円でアルバイトの仕事はしないでしょう。店長や社長に問いたい。1,000円で働けますか? 1,000円で同じ仕事ができますか? と。
できないのなら、それを平然とやってのけるアルバイトに、痺れ、憧れてほしい。1,000円で働いてくれる人材との出会いを大切にし、アルバイトが面接に来るまでに支払った広告料を忘れないでほしいのです。
ただ、1,000円で働くことを推奨しているわけではありません。なれるなら店長や社長になったほうが良いし、少しでも賃金の高い場所で正社員として雇用されたほうが良いです。そういえばむかし、働きたくもないのに時給1,000円で働かされそうになったことがありました。
『1,000円の歯医者』
芸人の先輩に紹介してもらった恵比寿の立ち呑み屋に、常連の歯医者さんがいました。歯医者さんは45歳くらいで、六本木で開業しています。歯医者さんは、働いている歯科衛生士と歯科助手の女の子を兵隊としか思っていないので、コミュニケーションも取らず、無機物のように扱います。だから、女の子たちはみんな3カ月くらいで辞めてしまいます。その度に歯医者さんは求人を出し、広告料を支払っています。
あるとき、歯医者さんは、あまりにも人が足らなかったので、とある芸人さんに「誰か働ける人いない? 」と相談しました。すると、その芸人さんは「さんきゅうが良いですよ。バイトもしていないし」とぼくを勧めたのです。
ぼくは、立ち呑み屋でその話を持ちかけられ、先輩の手前断れず、アルバイトをすることになってしまいました。ぼくが「分かりました」と言うと、歯医者さんは「時給は1,000円ね」と言います。すごく嫌だなあ、と思いました。
ぼくは、別に暇なわけではなくて、アルバイトもする必要がなくて、こちらから働きたいと言ったわけでもないのに、1,000円で働かなければいけない状況に追い込まれてしまいました。
この瞬間、ぼくの1時間の価値が1,000円になってしまったのです。こんな恐ろしいことはありません。だから、ぼくは「時給はいりません」と断って、無給で、交通費ももらわずに手伝うことにしました。その歯医者には、3週間くらい通ったと思います。
ぼくが嫌だったのは、1,000円をもらうことで、自分の時間の価値が1,000円になること、そして、歯医者が、ぼくの労働に対し感謝の気持を持っていなかったことです。
自分にできないことをできる人には敬意を払うべきです。1,000円で働いてくれる人を大切にしない人は、のちのち大きく損をすると思います。
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