「スカパー! 鉄道チャンネル」(Ch.546)などで放送中の「鉄道ひとり旅」シリーズが累計100回を超えた。ゆったり、まったりとしたリアルな旅が人気の番組だ。旅の始まり、思い出の旅、これからの旅の行方はどうなるのか。出演者の1人で“鉄道好き芸人”の吉川正洋さん(ダーリンハニー)にインタビュー。連載形式で紹介する。

  • 「新・鉄道ひとり旅」に出演中のダーリンハニー吉川正洋さん。7月は2回にわたり京都丹後鉄道(前編は宮福線・宮舞線、後編は宮豊線)の旅が放送された

連載第1回では、7月に放送された「新・鉄道ひとり旅」の「京都丹後鉄道 宮福線・宮舞線 編」(#85)、「京都丹後鉄道 宮豊線 編」(#86)も含め、これまでに訪ねた路線・駅やロケ先での撮影秘話などを聞いた。(聞き手は本誌連載「鉄道トリビア」「鉄道ニュース週報」を担当する杉山淳一氏)

通算100回以上、90路線以上を訪ねた

杉山 : 現在の番組名は「新・鉄道ひとり旅」ですね。

山守(番組プロデューサーの山守文雄氏) : 2クール24回やった後で、少し時間が空いたんです。それで、再開するときに「新」を付けました。

杉山 : ああ、それで、新装開店みたいな。ファーストシーズンは半年でしたけど、「新」のほうは長寿番組ですね。

吉川 : 気づいたら「新」は80回以上になりました。通算だと100回を越えましたね。

杉山 : 基本的に1回1路線、前後編となっている回もありましたけど、のべ90路線になるかも。いろいろ行ってますね。何度も出かけた路線とかありますか?

吉川 : いまのところ重複はないと思いますけど、そのうち2度目の路線も出てくるでしょうね。もう7年もやってますから。再訪したい路線もあります。

杉山 : 路線は誰が選びますか? 吉川さんが?

吉川 : そうなんですよ。「行きたいところありますか?」と言っていただけるので、「ここに行きたいです」と。全部決めさせていただける。すごいですね。ある意味丸投げというか(笑)。でも、それが逆にありがたい。

杉山 : 帰ってきてから、「あ、ここ、行くの忘れた」なんてことは?

吉川 : ありますあります。「あそこで降りれば良かった」とか。

杉山 : もう1回行きたくなっちゃうでしょう。

吉川 : そうですね。

杉山 : 視聴者からもツッコミが入りませんか? 「何でそこで降りないの?」みたいな。

吉川 : ありますあります。逆に「なんでそこで降りちゃうんだよ」とか(笑)。「なんにもないぞそこは」とか(笑)。でも、少しだけ「みなさんを裏切ってみたい」という気持ちもあります。気張らなくていい番組なので、メインの駅より、人が降りないようなところで降りてみたいんです。

杉山 : みんなと同じことをしても面白くないでしょうし。直感で降りて、これは良かった! という経験はありますか?

吉川 : いっぱいあるんですよ。たとえば……。

  • 吉川さんのインタビューでは、時刻表を見ながらこれまでの旅を振り返ってもらう場面も

吉川 : あっ、ほくほく線の美佐島駅ですね。

杉山 : トンネルの中の駅ですね。特急が通過すると待合室にすごい風が吹くらしい(※1)。

(※1)北越急行ほくほく線の美佐島駅はトンネル内にホームがあり、特急・快速列車の通過時は強風に見舞われるため、ホームと通路が頑丈な扉で仕切られていた。特急「はくたか」は2015年3月に運行終了。

吉川 : そうです。たしか十日町側から行ったんです。外側を観たいと思って降りました。

杉山 : あえてトンネル駅の外側を観ようと。……何がありましたか?

吉川 : 畳敷きの待合室があって、周囲を巡って階段を降りて列車に乗ろうとしたら、電車から降りてくる人が居たんですよ。ああ、この駅に普通に降りる人がいるんだなと思って。ところがその人、シャンプーのボトルを持ってるんですね。不思議な感じなんです。銭湯に行くような、でもリュックを背負ってる。

杉山 : 温泉が近いのかな。どういう人でしたか?

吉川 : それがたまたまその日から美佐島に移住するという人で。

杉山 : 移住? 住む?

吉川 : 住む人だったんです!びっくりしました。そんな人に偶然、出会って。そのときは駅の出口までお見送りしただけでしたけど、いろいろお話ししました。

杉山 : 美佐島で何をされる方なんでしょうね。

吉川 : ルームシェアって言ってましたね。外国の方と何人かで一緒に住むとか。

杉山 : つまり引っ越しだと思うけれど、なぜかシャンプーはむき出しと。

吉川 : そうですよね。なんだかリアルで面白かったです。あと、好摩ってありますよね。IGRいわて銀河鉄道の。

杉山 : JR花輪線と接続する駅ですね。

吉川 : そうです。駅を降りたら、りんごジュースを売っていたんですよ。100%果汁で、濁りがあって。

杉山 : ああ、それはおいしそうですね。

吉川 : 「間違いなくおいしいはず」と思って買ったんです。それで、外を歩いたら山があったので、「そうだ。この山に登って、てっぺんでりんごジュースを飲んだらうまいだろうな」と。

杉山 : それはますますおいしいはず!

吉川 : 瓶を抱えて一生懸命登って行ったんです。で、頂上に着いてジュースを飲もうと思ったら!

杉山 : え?

吉川 : 王冠でフタされていて(笑)。

杉山 : わはははははははははは。王冠。若い人に通じるかなあ。いまどき栓抜きなんて持ち歩かないですよね。

吉川 : せっかく登ったのに飲めなかったんですよ。後に僕らが「りんごジュース事件」と呼ぶようになった話なんですけど。あれは寂しかったなあ。

杉山 : それをそのまま放送したと。

吉川 : 流れました。

杉山 : 旅番組にはない展開です。「飲めねぇ」って(笑)。そういえば、昔の客車には栓抜きがあちこちにありましたよね。

吉川 : ありましたねー。窓の下に小さなテーブルがあって、その下とか。

杉山 : で、りんごジュースはどうなったんですか?

吉川 : 持ったまま山を下りて、電車に乗って別の駅で降りて、お店に入って栓抜きを貸していただいて、やっと飲めました。そういうハプニングが山ほどあります。平日ロケが多いのでお店がやっていなかったり。……というか、そういう話ばかりのような(笑)。

「タンゴエクスプローラー」を追いかけて

杉山 : 最近の旅だと、7月に京都丹後鉄道編が放送されました。「丹後の海」は乗られましたか?

吉川 : 乗りました。水戸岡さんのデザインの。あれは良かったです。昔の「タンゴディスカバリー」のときから乗っていたので、座席からなにから違いに驚きました。豪華でいいですよね。それから久美浜駅もよかったですね。小さな和菓子屋さんがあって。「かにもなか」がおいしかったです。

  • 京都丹後鉄道では「丹後の海」にも乗車

  • 豪華仕様となった「丹後の海」の車内を楽しんだ様子

杉山 : 豊岡寄りですね。いろいろ降りてますね。

吉川 : あと、辛皮っていう秘境駅がありますよね。1日に1人か2人しか降りない。そこは昔、学生さんが使っていて、学生さんの部活動の帰りにちょうど良い時間の列車がなくて、その学生さんのために快速を停めたんです。

杉山 : いい話ですねえ。

吉川 : 学生さんが卒業したら快速停車も終わったんですけど、そのエピソードが好きで、辛皮駅で降りてみたんです。案の定、誰も居ない。

杉山 : 秘境駅だ。

吉川 : でも、近くにおせんべいやさんがあって。おばあちゃんがやってるんです。

杉山 : え、人がいないのにおせんべい屋さん……。

吉川 : 瓦煎餅みたいなおせんべいを作っていて、おばあちゃんが元気で。自宅でおせんべいを売ってるんです。それが焼きたてで、とってもおいしかったんですよ。

杉山 : こんどは降りて歩いて良かった話ですね。おばあちゃんともお話しして。

吉川 : いいおばあちゃんでしたねぇ。他にも京都丹後鉄道では「タンゴエクスプローラー」(KTR001形)が走るところにも遭遇しました。

  • 特急「タンゴエクスプローラー」などで活躍したKTR001形(写真は2015年撮影)

杉山 : ハイデッカーで展望席がある気動車ですね。車体色がゴールドの。

吉川 : そうですそうです。たまたま試運転している日だったらしくて。そこの走行シーンは鉄道の資料的にも貴重な回だと思います。なかなか走らないんですよ。

杉山 : 現在は定期運用がないんですよね。

吉川 : そうなんです。あのときは宮津駅で降りて、食堂で僕だけお酒を飲んでいたんです。相笠D(番組ディレクターの相笠文寿氏)は駅に戻って、「撮影しまーす」って行っちゃって。僕は「後から行きまーす」なんて。

杉山 : そういうのもアリなんだ。ゆるい(笑)。

吉川 : アリなんですよ。僕が映らなくても、素材として撮る映像も必要なので。そのとき、僕はいい感じで酔っちゃって。カメラが回ってないのに「いいですねー、このお店」なんて店員さんと話して。しばらくして「ありがとうございましたー」って、ぷらぷらと駅に戻ったら、ちょうど「タンゴエクスプローラー」が入線していたんです。「うわぁこれヤバい!」って跨線橋を歩いてホームに降りたら、もう行っちゃってたんです……。

杉山 : ああ、残念。

吉川 : それは後悔しました。お酒なんか飲まないでもっと早く行っていたら、入線からばっちり映像に押さえられたのに。

杉山 : でも相笠さんは撮影してらしたんですよね。

吉川 : ちゃんと押さえていたんです。もう神様に見えましたね。

杉山 : そこがどう編集されたか。お酒を飲む場面がないから、急に酔っ払っている吉川さんが悔しがるっていう展開に!?

吉川 : いえいえ一部始終全部写っています。食堂で一杯やって焦って跨線橋を走るところまで。でも熱燗も美味しかったんですよ……。

杉山 : 悔やんでなさそうだな(笑)。肴は何でしたか。

吉川 : 刺身定食でした。えへへ。それもおいしかったです。

杉山 : 刺身定食で一杯(笑)。

吉川 : あと、由良川橋梁ですね。撮影スポットとしても有名ですけども。

杉山 : 列車が速度を落として走ってくれるところですね。

吉川 : そうです。そこで撮影しようと思ったら、次の列車がすぐ来ちゃうんで、走って行ってなんとか間に合ったんですけど、そこはいい感じで撮れたんです。

杉山 : 酔って走ったんですか……。

吉川 : そのときはもうだいぶ抜けてました。でも僕、すごく写真が下手なんですよ。見返すと8割くらいは下手な写真しかないんですけど、この回はけっこう手応えのある写真が撮れました。

杉山 : そういう写真は番組で紹介されるんですよね。

吉川 : されますが、だいたい下手なんです。

杉山 : そうなんですか。吉川さんの理想が高すぎるんじゃないんですか?

吉川 : いえいえ!ブレてたりとかそういうレベルの話で。考えるとダメなんです。でもこの回は走って余裕がなかったのが逆に良かったんでしょうね。珍しくいい写真が撮れたんです。あとは日本三景の天橋立も行きました。

  • 天橋立駅から船とケーブルカーを乗り継いで傘松公園へ

  • 天橋立をバックに記念撮影

杉山 : 歩いたんですか。

吉川 : 船ですね。

杉山 : 回転する橋を通る航路。

吉川 : そうですそうです。京都丹後鉄道の旅は前編・後編になっていて、福知山から宮津へ行って、西舞鶴へ行って。次は豊岡へ行って。これを前後編で。

杉山 : 宮福線って辛皮駅以外にどこかで降りましたか? 海側の宮舞線・宮豊線は見どころが多いとわかるんですけど、宮福線は私にとっては地味な印象なんですよね。一番稼いでいる路線だと思うんですけど。

吉川 : ええと、大江で降りましたね。鬼の町でした。

  • 大江駅前には鬼の像が建つ。吉川さんも鬼のポーズ

杉山 : 鬼の!?

吉川 : ええ。近くに鬼に関する伝説があって、「鬼瓦展」を駅の2階でやってました。

杉山 : 家とか神社の屋根の真ん中にあるやつですよね。

吉川 : そうです。なかなか見ないですよね。鬼瓦ばかり集めて。

杉山 : 見ないですねぇ。

吉川 : 全国の鬼瓦が並んでるんです。

杉山 : へぇぇぇ。やっぱり降りてみるものですね。

吉川 :ですねー。あれは珍しいものを見たなぁ(笑)。

「新・鉄道ひとり旅」9月の最新話放送スケジュール

  • 9/1(土) 22:00-23:00 #89(初) ~しなの鉄道 編~
  • 9/8(土) 22:00-23:00 #89
  • 9/15(土) 22:00-23:00 #90(初) ~JR飯山線 編~
  • 9/22(土) 22:00-23:00 #90

  • ダーリンハニー吉川正洋さんをはじめ、鉄道好きの著名人が全国の鉄道をぶらりひとり旅する番組。何が起こるかわからない、何も起こらないかもしれない旅人任せの行き当たりばったりな鉄道旅が展開される。「スカパー! 鉄道チャンネル」(Ch.546)などで好評放送中。