『転職』。それはビジネスマンにとって、その後の人生を大きく左右する転機になり得るもの。働き方改革が推進されている今、自身のより良いビジネスライフのために転職を視野に入れている人も多いはず。ここでは、ビジネススクールで代表理事も務めるビジネス・モデル・デザイナーの中山匡氏に「『他社に求められる人』になる、転職の極意」について教えてもらった。

  • 採用されるためにすべきこと

マーケットバリューを高める方法

前回は、取得すると有利になりやすい資格を、流行りや感覚で判断するのではなく、データをもとに具体的に判断する方法について解説した。今回は、その考えをベースに、あなたのマーケットバリューをさらに高める方法を追求してみたいと思う。

マーケットバリューを高めると言うと、多くの方は経験値を積んで、スキルを磨くようなことを想像するかもしれない。ところが、そうした努力を一切せずに、突然、あなたの価値が高まってしまうような方法がある。

例えば、フランス料理の道で頑張ったにも関わらず、三流レベルから抜け出せない人がいるとする。腕を磨いていこうとしても楽な道ではないだろう。

その方が、もしラーメン屋に転職したらどうなるだろうか? もちろん、ラーメンをつくるノウハウはゼロから修行して学ばないといけないかもしれない。が、フランス料理ならではの繊細な味の出し方や、美しい盛り付けの仕方といった考え方を融合させ、独自のラーメンのメニューを生み出せる可能性もある。その店にとっても、「元フレンチ・シェフがつくるラーメン」といったコンセプトを打ち出すことも可能になり、差別化につながる可能性が高まるかもしれない。

このような場合、重要なのは、その人がスキルを高める努力をしたわけではないという点である。行ったのは『働く業界を変えた』ことであり、それだけで、急に『求められる人』になったのである。

まさにこれが、マーケットバリューを簡単に高めるための考え方だ。つまり、あなたが今現在お持ちのスキルを活用した場合、どんな業界だとより活躍しやすいかということを考えていくのは、想像以上に大切なのである。

採用されやすい企業と、されにくい企業

今、仮にあなたが建築に関する仕事をしているとする。熟考の結果、メンタルヘルスの仕事をしたいと考え、今の職場ではできないため転職を考えたとしよう。建築業界での経験が長いので、せっかくなら同じ建築業界でそのような求人がないかを探そうと思ったとする。

ただ一方で、同じ業界内でメンタルヘルスの求人があるのだろうかと不安になるのも確かだろう。そこで、メンタルヘルスが求められる業界はどこだろうと考えるに至る。

「IT業界が伸びているのは明らかだし、友人などからも、ストレスを抱えてうつになる人が多いとも聞くから、メンタルヘルスの専門家が必要とされているのではないだろうか?」

「来日の外国人が増えているし、観光の業界も伸びていくだろうし、文化が異なる外国人と触れあうスタッフはストレスを抱えるのではないか?」

このように考えを深める方もいるかもしれない。ただ、何を決め手に最終判断して良いか分からず、単に合格した企業に進むという判断をしてしまうことは少なくない。

そのような中、前回解説した、Googleが無料で提供している「キーワードプランナー」というツールを活用すると、こうした判断をする際に、数字に基づいて論理的かつ客観的な判断が可能となる。

前回は活用の仕方として、その「キーワードが何回検索されているか」が社会的ニーズの大きさを決め、「入札単価」がライバルの強力さを表しているということについて解説した。

この2つのうち、後者の「入札単価」は、まさに人材を採用したいと考えている企業や人材サービス会社が、優れた人材を獲得するために、どれだけ求人広告に費用をかけているかをそのまま表していると言える。

例えば、上述した3つの業界での求人に関連するキーワードの入札単価の最高値付近の金額は、次の通りである。

「建築 求人」というキーワードの組み合わせ…737円
「IT 求人」というキーワードの組み合わせ…1172円
「観光 求人」というキーワードの組み合わせ…292円

あなたが、Googleで「建築 求人」と検索した際に、最上部付近に表示された求人広告をクリックしたとすると、その瞬間に求人企業には737円が請求されることになる。

この単価が高い業界ほど、良い人がとれないからたくさんの求人を行っているということであり、企業努力を非常にしている会社が多く、ある意味で厳しい業界。逆に、この単価が安い業界ほど、人材採用にはあまりお金をかけない、比較的ゆる目の業界だということにもなる。

このような考え方に基づくと、「建築」「IT」「観光」の中では、IT業界が最も採用されるのが難しく、観光業界が最も採用されやすいとも言える。

もちろん、実際には、マーケットの規模や、求人数といった観点の考慮も重要であるが、厳密に計算すると、膨大な時間がかかり、それが正しい判断により近いと言えるかというと確証は持てない。が、上記の通り、「入札単価」を見るのには、慣れてしまえば1分もかからない。

あなたが転職しようと考える業界の「入札単価」を一通り調べてみるためには、お金がかからない。感覚で判断せず、ぜひ、一度は検索して調べてみていただきたいものである。

筆者プロフィール: 中山匡

ビジネスモデル・ロードマップ・デザイナー。一般社団法人シェア・ブレイン・ビジネス・スクール代表理事。東京大学大学院工学系研究科修士課程修了。大学院修了後、フランチャイズ本部立ち上げ支援最大手の経営コンサルティング会社に入社。31歳で起業し、「月刊アントレプレナー・コーチング」を創刊。2009年には「在宅秘書サービス」を創業。現在、150社以上に導入。1,500名以上の秘書が登録。ビジネスモデルのロードマップを描けるコンサルタント養成にも力を入れ、「ビジネスモデル・デザイナー認定講座」を開講。著書『失敗をゼロにする 起業のバイブル』(かんき出版)。