本連載の第93回では「部下や後輩を育てる「問い」の使い方とは」と題し、職場の部下や後輩の成長を促すための「問い」の使い方についてお伝えしました。今回は部署異動を控えている人が今のうちにやっておくべきことについてお話します。

時が経つのは早いものでもうすぐ4月、このタイミングで今いる部署から異動することが決まっているという方も多くいらっしゃることでしょう。異動先の部署のことが気になって余裕がないかもしれませんが、こういう時こそ敢えて「今の部署を去る前にやっておくべきこと」を改めて考えてみてはいかがでしょうか。

「立つ鳥跡を濁さず」という言葉もあるように、自分の机やロッカーの周りを綺麗にしておくことは言うまでもありませんが、今の部署に残る人やこれから新しく来る後任の人が困らないように環境を整えておくことは大事です。そうすることは、その人達や部署、或いは会社のためになるということだけではなく自分自身にとってもメリットがあります。

異動先の部署の人たちは、来月からどんな人が来るのかと気になっているはずです。今の部署での評価は公的か私的かを問わず、何らかの形で異動先の部署に伝わってもおかしくはありません。その時に「今度うちの部署に来る人は良さそうな人らしい」というポジティブ情報が先に伝わっていれば、予め警戒心を薄めてくれるので異動初日から仕事がしやすくなるのではないでしょうか。

また、部署を異動した後に、今度はこれまでいた部署とのやり取りが発生するかもしれません。その時に多少無茶を言ったとしても「あなたには大変お世話になったから」と言って快く受け入れてくれるかもしれません。「終わり良ければ総て良し」とまでは言いませんが、最後に残した印象は記憶に残りやすいので、異動後にも今の部署の人が困らないようにしっかりと準備しておいて「あの人がいてくれて助かった」という良い印象を残しておくことは理に適っています。

それでは具体的に異動前の部署で何をやっておくとよいのでしょうか。職種や業務内容によってやるべきことが異なるのは当然ですが、最低限押さえておいた方がよいポイントを以下でお伝えします。

何がどこにあるかを可視化しておく

自分が担当している仕事で扱う資料は紙であれ電子データであれ、自分の机の中やパソコンの中にしか存在しないというケースが多々あります。部署異動に伴って完全に不要になるものであれば問題ないかもしれませんが、その仕事自体を後任の方に引き継ぐことになるのであれば、仕事をこなすために必要な資料は全て整理して残しておきましょう。

そして「どのタイミングで」「何が必要か」「それはどこにあるのか」という情報を一覧にして残しておけば、後任の方が円滑に仕事を始められます。なお、紙であればバインダーに綴じて背表紙に資料名を記載し、電子データであれば格納しているフォルダ名やファイル名が分かりやすいものになっているかどうかを見直すのも有効です。

また、作成したり更新したりする資料が多ければ、一覧に加えて資料間の繋がりを図にまとめておくことで直感的に漏れなく把握することができるので、余裕があったら用意しておくとよいでしょう。

連絡先や相談先を可視化しておく

どれだけマニュアルや資料一覧などを充実させたとしても、そこではカバーしきれないようなイレギュラーが発生することは大いにあります。そのため、「こういうことが起きたらこちらに連絡する」「こういう判断が求められたらあちらに相談する」などと、イレギュラーの発生時に連絡を取るべき先や相談すべき先を明記した資料を目につく場所に置いておくのがよいでしょう。なお、イレギュラーな出来事を全て網羅することはできないので、規則が許せば異動先に移った後でも自分に相談できるようにしておくと後任の方も安心するのではないでしょうか。

もちろん上司や同僚に聞いてもらっても構わないのですが、そもそも社内のコミュニケーションのパスを可視化して共有しておくことは、怪我や病気、或いは転職などによる突然の欠員時に事業を継続するために必要なことです。もし現状、整備できていないのであればたとえ完璧でなくてもよいので急ピッチで対応することをお勧めします。

気を付けるべきことを可視化しておく

新しい仕事を始めたばかりの頃には、単に「知らなかった」ためにトラブルが起きるということがよくあります。「基本的に取引先とのやり取りではこのフォーマットを使うが、この取引先だけは先方の指定する別のフォーマットを使う」とか「この資料は原則として月末に提出することになっているが、年度末だけは20日に提出する」といった変則的な規則やパターンがあると、そこに対応できずにトラブルを誘発する原因になります。

何年も同じ仕事に携わっていると、いつしか身体に染みついて自然に対応できるようになるかもしれませんが、後任の方は経験値がないので同じ過ちを繰り返す可能性が大きいです。そのため、ご自身の新任時に見舞われたトラブルを今一度思い出して、想定されるトラブルの内容と回避策を簡単なメモにまとめておくとよいでしょう。また、それを部署に残る上司や同僚などにも共有しておくと、トラブル防止効果を強化できるのではないでしょうか。

以上見てきたことは、至極当たり前のことかもしれません。しかし、もうすぐ異動という時にはどうしても移動先のことが気になってしまうものです。ここで一度、後任の方や今の部署のためにやり残していることがないかを点検してはいかがでしょうか。