本連載の第66回では「失敗を繰り返す悪循環から抜け出す方法」と題し、仕事で失敗して自信喪失することでさらなる失敗を招く悪循環の構造と、それを断ち切る方法をお伝えしました。今回は圧倒的に優秀な人に囲まれて失ってしまった自信を取り戻すための方法をお話します。

入社した時、異動した時、或いは転職した時、自分より遥かに仕事ができる上司や同僚に囲まれたという経験はありませんか。その際に「できる人たち」と比べたら自分はなんて仕事ができないんだ、とすっかり自信を失ったという方もいるかもしれません。

その一方、自分より仕事ができる人がいると「あの人には負けたくない」とか「いつか追い抜いてみせる」と言ってむしろ奮起する人もいるでしょう。同じ状況にも関わらず一方では意気消沈して、もう一方では奮起するのは状況の捉え方が異なることに他なりません。

そのため同じ状況なら「どうせ自分なんて」と落ち込むより「もっと頑張ろう!」と前向きなエネルギーに変えられるとよいのですが、そんなに簡単に気持ちを180度変えられるなら最初から落ち込まないのかもしれません。

ではどうしたらよいかということですが、落ち込む前に2つの問いについて考えることをお勧めします。そして彼我の差を分析することで具体的な対応方法が見えてくるはずです。

問い1. そもそもその差は埋めなければならないものなのでしょうか。

「相手の方が自分より仕事ができる」という事実だけでは、その差を埋めなければならない理由としては不十分です。それによって「何が困るのか」ということをよく考えてみましょう。恐らく多くの場合において「実は困ることは何もない」のではないでしょうか。

もし「同僚との相対評価によって年収に差が付くから」と回答される方がいたとしても、それの何が困るのでしょうか。仮に同僚の年収が500万円で自分は400万円で年収に100万円の差があったとして、その差自体は自分の生活水準に何ら影響を与えないでしょう。影響を与えるのは相手との差ではなく、あくまでも自分自身の年収のはずです。

それを踏まえると差を埋めなければならない理由が「同僚との相対評価によって自分の年収が増減するから」であれば自分の生活水準に直接的に影響を及ぼすので、仕事での評価における彼我の差を放置できないというのは理由として筋が通ります。

問い2. その差はなぜ発生しているのでしょうか。

差を埋めなければならない理由が明確になったとして、次に考えるべきなのは差の発生要因です。優秀なあの人と自分の差はなぜ発生しているのか徹底的に分析するのです。これは仕事の内容によって千差万別なので抽象度を上げてお話します。

要因1. 仕事量の差

これは単にやっている仕事の量が違うということですが、もう一段階深堀りすると「単位時間あたりの生産性」と「業務時間」に分解して考えることができます。つまり、あなたより仕事のスピードが速いか、より長時間働いているか、或いはその両方ということです。

「単位時間あたりの生産性」は営業の仕事で言えば「1時間に取れるアポの件数」や「1時間に訪問する会社の数」などです。ここで自分と差があるならば、どうやって効率的に仕事をしているかよく観察することでヒントを得られるかもしれません。

業務時間については昨今の働き方改革の風潮もあるので無尽蔵に働けばよいというわけではありません。もし相手が長時間の残業によって仕事量に差がついていたとして、それを良しとするかどうかは別問題ですね。

要因2. 仕事の質の差

これにはミスの発生件数や発生頻度、成功確率、或いは仕事のインパクトなどが該当します。ミスについては自分で発生要因を特定して予防策を講じるしかありません。続く成功確率とインパクトについては、再び営業を引き合いに出すと案件の成約率や受注金額などが該当します。

ここに差があるのであれば、その要因は「顧客のターゲティング」にあるのか「営業プロセスの違い」にあるのか、はたまた「提案の仕方」にあるのか、など考えられるものを一つずつ検証することで突き止められる可能性があります。

要因3. 環境の差

これは仕事の量や質の差にも関わってくる要素ですが、相手との差の要因が本人の仕事の進め方や経験値、或いは能力などの相違とは全く関係なく、環境にあるということも考えられます。

例えば自分の所属している部署ではみんな、良くも悪くも個人主義の色が強くて仕事の最初から最後まで一貫して自分一人でこなしている一方、相手のいる部署にはチームワークが浸透していて、困っている人がいたらすぐに助け合うのが当たり前とされていたとします。

この2つの部署のどちらが仕事で成果を上げるのに有利かは考えるまでもないでしょう。その場合、差を埋めるには自分一人の力ではなんともならないので周囲を巻き込んだ部署全体での意識改革が必要かもしれません。

このように、そもそも「その差は埋めなければならないのか」と「その差はなぜ発生しているのか」という2つの問いについてよく考えることで、そもそも落ち込むようなことではないと理解できたり、或いは要因を突き止めることで差を埋めるために何をすべきか、具体的なアクションに落とし込めたりするのではないでしょうか。