本連載の第68回では「面倒くさがりな人に仕事の効率化を任せよう」と題し、面倒くさがりな人のタイプに合わせた効率化の取り組みを任せることの有効性をお伝えしました。今回は「どうしても定時に帰りたい」「残業したくない」という人がすべきことについてお話をします。

定時に帰るためには組織と個人の生産性を上げることが王道なのは言うまでもありませんが、どれだけ生産性が上がってもそれだけでは定時に帰れない人がいます。

そこで、定時に帰れない人に理由を尋ねると「定時までに仕事が終わらないから」「今日できることは翌日に持ち越したくないから」「上司が残っていて帰りづらいから」など、定時退社を阻害するさまざまな要因が挙げられます。そのため、その要因や置かれている状況次第で定時退社を実現するための対応は当然異なります。

しかし、阻害要因がどのようなものかを問わず共通して必要なことがあります。それは「定時で帰るのだという断固たる決意」です。この「断固たる決意」がなければ、定時が過ぎても「もう少し、キリのいいところまで……」とか「上司や同僚が残っているのになんとなく帰りづらいな……」と思ってしまい、やはりズルズルと残業してしまうことになるでしょう。

では「断固たる決意」を持てばよいのですが、これこそ「言うは易く行うは難し」です。残念ながら人の決意ほどアテにならないものはありません。年始に立てた目標を全て達成できたという人、ダイエットや禁煙に成功して継続しているという人は少数派なのではないでしょうか。つまり、決意はいともたやすく覆ってしまうということです。

それでは定時で帰るのは諦めるしかないかというと、そうでもありません。「断固たる決意」の替わりになる有効な手段があります。そのことに関連して私の経験をお話しします。

私は残業が特に多いコンサルティング業界に属しています。新入社員の頃から残業代が出ない「裁量労働制」が適用されていたこともあり、月に80~100時間くらい残業することもたびたびありましたし、同僚も同じような状況でした。

しかし、子どもの誕生によって状況が一変しました。運よく待機児童にならず保育園に子どもを預かってもらうことができたものの、毎日午後6時に必ず迎えに行かなくてはならないという制約ができました。それによって毎日必ず夕方5時半にはオフィスを出ることが義務になったのです。

では保育園へのお迎えの後、或いは早朝に仕事をしていたかというと、家にいる間は育児に追われていたのでそれも無理でした。残業していた分の仕事はどこに行ったのかということですが、それは「効率化によって消滅した」というのが回答です。

こうして、「遅れると保育園の先生に迷惑がかかるので、絶対に夕方5時半までにオフィスを出なければならない」という制約によって「残業すると困る状況」が出来上がったのです。さらに保育園には「会議が長引いたから」とか「仕事が多いから」といったこちらの事情は一切関係ないので言い訳ができません。しかし、そのようなシビアな環境になったからこそ定時退社が実現できるようになったのです。

ここで、あなたにお伺いします。定時に帰らないことで何か困ることはありますか。

「とても困ることがある」と回答された方の多くは恐らく、既に定時退社できているのではないでしょうか。その反対に「特に困るようなことはないけど……」と回答される人の大半は日常的に残業されているのではないかと推察します。

定時で帰らないと困る状況を自ら作る

定時で帰らなくても困らないから定時で帰れないのです。それならばいっそのこと、定時で帰らないと本当に困る状況を自分で作ってしまえばいいのです。以下、その例を列挙します。

・定時退社しないと間に合わない習い事を始める。
遅れると自分が損したり、他の参加者に迷惑がかかるようなものがよいでしょう。英会話やヨガなどはねらい目かもしれません。

・定時退社しないと間に合わない約束を友人とする。
食事や映画など。間に合わないと一人で待たせることになって迷惑をかけてしまうので遅れられません。

・定時退社しないと観られない/聞けない番組やコンテンツを見つける。
自分の好きなテレビやラジオの番組、或いはリアルタイムでしか観られない動画や音声のコンテンツなどを見つけることです。その際、もし可能でも敢えて「録画/録音」しないことと、見逃したり聞き逃したりするとダメージが大きいものを見つけることがポイントです。

・定時退社しないと間に合わない社会人サークルに入る。
スポーツや芸術、読書会など、ジャンルは問いません。遅れると参加できなかったり白い目で見られたりするので遅れられません。

・定時退社しないと間に合わない副業を始める。
定時が17時であれば、17時半を副業の仕事開始時刻に設定したり、定例会議をセッティングしたりします。本業の定時と副業の開始時刻の間に敢えて時間的にゆとりを持たせないのがポイントです。

ここに挙げたものはあくまでも例なので、ご自身に合うものを探して頂くとよいでしょう。その際には、もし定時に帰れないと「自分自身が耐え難い損をする」か「周りに大きな迷惑をかけてしまう」ことを設定するのが効果的です。敢えて厳しい制約を自らに課すことで定時退社を実現しましょう。