本連載の第65回では「仕事の「悩み」を解消する2つの問い」と題し、仕事で悩んでいるときに自分に問いかけることで悩むことから解放される問いについてお伝えしました。今回は仕事でうまくいかず、どんどん自信喪失していく悪循環を断ち切るための方法をお話します。

これまで上手くやってきて成果を上げてきたはずなのに、ある日を境に自分の実力を全く出せなくなって失敗を重ねる悪循環に陥ってしまったという経験はありませんか。もしくは、今まさにそういう境遇に喘いでいる方もいらっしゃるかもしれません。

筆者自身、かつて携わっていたプロジェクトで同様の経験をしたことがあります。その時はまだ入社からそれほど経っていない時期でしたが、それより前のプロジェクトでは周囲のサポートのおかげはありつつも、それなりの成果を上げることができていたので今回のプロジェクトでも同じように成果を上げられるだろうと思っていました。

ところが実際には仕事の進め方がそれまでとは全く異なることに戸惑ってしまったのをきっかけにミスを連発して、上司から厳しく詰められたことで完全に委縮してしまいました。その日以来、上司からの強烈なプレッシャーにさらされることで過度な緊張状態から抜け出すことができず、ミスが減るどころか日に日に仕事の質とスピードが下がっていってしまいました。

失敗を繰り返す悪循環の構造

先ほどの例では完全に悪循環と呼べる状況に陥ってしまったわけですが、この問題には2つの本質的な構造が隠されています。

悪循環の構造1: 失敗する→自身喪失する→成功イメージが持てない→失敗する
悪循環の構造2: 失敗する→叱責される→萎縮する→緊張する→失敗する

悪循環の構造1は自身の内面に焦点を当てた際の流れです。失敗をきっかけにして「自分には能力が足りないんだ」とか「こんなこともできないなんて、自分はなんてダメな人間なんだ」などと自信を喪失します。それによって次の仕事でも「きっとまた失敗するんだろうな」という心境になってしまいます。

仕事に限らず、自分の能力では難易度が高く失敗する可能性があることを行う際には事前に「成功するイメージ」を描けるかどうかが非常に重要です。ところが構造1ではその反対に「失敗するイメージ」を心に抱いたまま仕事をするので、それによって失敗する確率を上げてしまっている恐れがあります。

次の悪循環の構造2は上司とのやり取りを念頭に置いた流れです。自分が失敗したときに、上司から「なんでこんな簡単なこともできないんだ!」などと詰問を繰り返されると完全に委縮してしまい、「次の仕事は絶対に失敗してはならない」というプレッシャーを強く感じることになります。しかしそれによって過度に緊張して本来の実力を出し切れず、やはり失敗してしまうということです。そしてまた上司に詰められて、余計に委縮し、さらに緊張して失敗するという悪循環に陥ってしまうのです。

失敗を繰り返す悪循環から抜け出すには

ではどうしたら失敗の悪循環から抜け出せるのでしょうか。そのためには悪循環の構造1と2の両方を止めることが必要です。では1つずつ見ていきましょう。

まず悪循環の構造1ですが、これを止める上でまず着目すべきなのは「失敗しないこと」ではなく「自信喪失を防ぐこと」です。そもそも人は完全ではないので、自分一人の力だけで100%失敗を防ぐことは現実的ではありません。それを踏まえて、自信喪失を回避することを考えましょう。世の中の全ての人が失敗したら必ず自信喪失に至るわけではありません。問題は失敗そのものではなく、その「解釈」にあります。

先ほどの例では、失敗した理由を「能力不足だから」または「自分がダメな人間だから」と解釈したことで自身喪失に繋がってしまいました。このような解釈は「百害あって一利なし」です。もし自分が同じような解釈をしているのであれば、今すぐにやめましょう。失敗の原因を自分の能力や性格にあると決めつける替わりに、「似たような失敗を繰り返さないために何をしたらよいか」を考えるようにしましょう。そうすれば、自信を失う替わりに次回以降の失敗の確率を下げることができるでしょう。

次の悪循環の構造2は上司が関わってくるため1より厄介です。上司からの詰問で萎縮してしまうのですから、もし可能であれば上司に「このような態度を取られると萎縮してしまい、却ってプレッシャーがかかって失敗してしまいます」と話して接し方を変えてもらうとよいでしょう。そうすればプレッシャーが減って本来の実力を発揮できるかもしれません。

その一方、上司に話をしても「あなたは失敗の原因が私にあると言いたいのですね?」などと悪意のある解釈をされると却って厄介な事態に陥ってしまいます。上司がそのような人であれば、残念ながら事態の改善は見込めません。そのままでは失敗の悪循環が続き、心身ともに疲弊してしまいます。そうなる前に、萎縮せずに働ける環境に移ることをお勧めします。つまり、本来の実力を発揮できる部署に異動させてもらうか転職を考えた方がよいでしょう。

なお、筆者も仕事で上手く行かない悪循環を脱することができたのはプロジェクトと上司が変わったタイミングにおいてでした。失敗を自分のせいにして自分自身を追い詰めるのではなく「次にどうやったら上手くできるかを考えることに切り替えること」と、上司の行動変容がムダなら異動や転職を含めた「環境を変えること」で、ぜひ失敗の悪循環を断ち切ってください。