本連載の第53回では「アフターコロナの社会を予測して逆算で仕事を再設計しよう」と題し、アフターコロナの社会で起こる変化を予測して、そこから逆算して業務を考えることの有効性についてお伝えしました。今回は、これからの時代において完璧主義にとらわれることの弊害と、どのように行動すべきかについてお話します。

筆者の経験上、多くの日本企業の職場に完璧主義が根付いているように感じます。サービスや商品の質はさておき、社内でのみ使用する会議資料や報告資料、メールの文面に至るまでとにかく何においても些細なミスも許さないという文化が存在しているところも少なくないように思います。

確かに、顧客に見せたり渡したりする資料の中に誤字脱字だらけの文書ファイルや計算ミスだらけの表計算ファイルなどが含まれているのは言語道断です。顧客向けの資料であれば十分な品質を担保するためのレビューと修正は必要でしょう。しかしその一方、同じ部署内での会議で使用する資料についてはいかがでしょうか。こちらについても100%理想的な資料ができるまで何度も作り直したり、修正を重ねたりしていませんでしょうか。

また、顧客への新商品や新サービスを始める際にも企画段階から完璧なものを追い求めて検討に膨大な時間をかけて、さらに生産や物流、マーケティングなどの仕組みも最初から100%の出来を目指して慎重を期して進めるということはないでしょうか。

完璧主義では変化のスピードについていけない

昨今の技術革新のスピードは著しく、日進月歩で新しい技術が登場しています。最近ではIoT、ビッグデータ、5G、ブロックチェーン、AI、VR/AR/MR、ドローンなどの言葉を目にしない日はないかと思います。

さらにこれらの技術を応用したり組み合わせたりすることで新しい商品やサービスが次々に登場しています。さらに、革新的な技術を生かして外国で生み出された商品やサービスがあっという間に世界中に広がって既存のビジネスに大きなインパクトを与えるというケースは枚挙にいとまがありません。

例えば「所有から使用へ」という変化については自動車配車サービスのUberや民泊のAirbnbがアメリカから世界に爆発的に広がりました。また、この流れはシェアハウスやシェアオフィス、カーシェアリング、さらにはスキルシェア等にも広がり、今では「シェアリングエコノミー」という言葉も一般的になっています。

このような変化が様々な分野で起きていて、しかも世の中に広く拡散・浸透するスピードが加速しているので、こうした変化について自社から商機を見出したり、逆に脅威を察知したりするような際には迅速に行動をしなければ間に合わない恐れがあります。

先ほどのシェアリングエコノミーの例で言えば、完璧主義にこだわって自社への影響の調査・分析や自社のシェアリングビジネスへの参入の検討に時間をかけすぎてしまっては、開始する頃には既に市場に多くのプレイヤーが参入していて新たに入る余地がなくなってしまっていたり、さらに革新的な技術とアイディアを引っ提げたプレイヤーが優越的な地位を確立してしまっていたりする可能性が高くなってしまいます。

このような致命的な後れを取らないためにも、最初から完璧を目指すのではなく多少粗削りでもよいので商品やサービスを出して顧客や競合の反応を見ながら改善していくアプローチを取るのが良いでしょう。ソフトウェアの「β版」、商品の「テストマーケティング」で新商品・新サービスの可能性を探りつつ、改善点を見つけて対応していくイメージです。このように走りながら改善していくことによって変化のスピードについていくことができると考えます。

完璧主義では変化の方向転換についていけない

ここまで、変化のスピードについていけなくなるので完璧主義はやめるべきとお伝えしましたが、その弊害はもう1つあります。それは変化の方向転換についていけなくなることです。

変化の方向転換について最もわかりやすい例として、訪日外国人の増加や、それに伴う宿泊施設の増加と観光産業の外国人向けのコンテンツ拡充などのトレンドが続いていたところ、この度の新型コロナウイルス感染症の世界的蔓延によって一気に潮目が変わってしまったことが挙げられます。

観光産業でいえば、少なくともワクチンが開発されるなどしてコロナ禍が収まるまではかつてのような外国人観光客向けのビジネスは厳しい局面が続くと見られます。その一方、日本国内に目を向ければ移動制限の解除に伴い国内旅行の需要は徐々に回復していくでしょう。さらに、日本から海外への旅行需要を国内旅行に転換して取り込むことができれば、外国人観光客向けの需要蒸発をある程度補うことも期待できます。

そのため、これまで外国人観光客向けのサービスを提供していた企業は国内旅行客向けのサービスに転換することで、この難局を乗り切ろうとしていると考えられます。ところが、こうした企業が「これまでの外国人向けのサービスを日本人向けに変えるために一から見直し、さらに完璧なサービスを提供できる準備がすべて整うまではビジネスを行いません」という姿勢を貫いてしまっては、きっとビジネス再開までの間に資金繰りが持たなくなってしまうでしょう。

そこで、今あるサービスをベースにしながらも日本人向けに訴求方法を変更したり、明らかに日本人には合わない部分だけを取り除いたりするなどしてビジネスを再開し、そこで顧客から得たフィードバックを基に改善をしていくのがベターでしょう。

また、変化の急な方向転換は、程度によっては自社だけではとても対応しきれない場合も出てくるかもしれません。そのような場合には他社やフリーランスなど、社外との協力が唯一の生き残り策になることも考えられます。

そして社外との協力を進める際においてもやはり完璧主義は弊害になると考えられます。完璧主義にとらわれてしまい、冒頭で挙げたような作成資料の些末な点の修正や、自社内の関連部署の社員全員の説得を前提としたアプローチを取ったりすると、社内での作業や合意形成に時間を取られて遅々として進まず、協業相手から愛想をつかされてしまうでしょう。特に協業相手がスピード感を持った経営をする企業であれば、こちらも完璧主義にとらわれず、相応のスピードで物事を進める覚悟を求められることでしょう。

本稿では変化の「スピード」と「方向転換」という2つの要素に着目して、完璧主義の弊害についてお伝えしました。もちろん致命的な欠陥やミスなどの発生を防ぐことを前提にしてはいますが、完璧主義を捨てて変化に対応することの重要性を認識いただけたら幸いです。