本連載の第29回では「仕事を詰め込み過ぎるとスピードが下がる」と題し、仕事を過剰に抱えることでスピードが下がる理由と、その対処法についてお伝えしました。本稿ではスピード向上にもつながる、仕事の繁閑差の緩和についてお話しします。

前回のコラムでは仕事を過剰に抱えてしまうことで、自分の処理スピードが変わらなくても仕事を引き受けてから完了するまでのリードタイムが伸びてしまうことと、たとえ一時的でも依頼件数の急増によって過剰な仕事を抱えた状態を生み、ひいてはリードタイムが伸びた状態を定着させてしまうとお話しました。

無論、仕事を受けるペースが処理スピードを超えるような状態が慢性的に続くようであれば増員、自動化、業務プロセスやルールの見直しなどによって処理スピードを向上させるか、引き受ける仕事量を制限するかのいずれかの対処が必要です。本稿では一時的、または断続的な仕事量の増加、つまりは繁閑差によって生じるリードタイムの長期化をどう抑制するかについて考えます。なお仕事の受け入れペースのコントロールについては前回のコラムで論じているので、本稿では受け入れた仕事の扱いに焦点を当てます。

仕事量の増減を予測する

常に一定の仕事が降ってくるのであれば考える必要はありませんが、特に繁閑差が大きい場合には忙しくなる時期や時間帯と、そうでないときを明確に把握することがまず肝要です。一年間の中で多忙な季節や月、一カ月の中で多忙な週、一週間の中で多忙な日にち、一日の中で多忙な時間帯、と徐々に細分化しながら時間帯まで把握できると完璧ですが、まずは多忙な日にちのレベルまで押さえられれば十分でしょう。そして繁忙期と閑散期それぞれにおける仕事の件数と比率、それに業務量まで把握できれば、あとは対応方法を考えるだけです。

なお、業務で使用しているシステムのログからこれらの情報を簡単に取得できる場合は問題ないでしょうが、そうはいかないという会社の方が多いでしょう。その場合には当該職場での業務経験が豊富な人を交えて、直近1年~3年ほどの仕事を振り返りながら繁閑のパターンを探り、それを基に仕事量の増減を予測するモデルを作成することをお勧めします。

ここで重要なことは、「人の記憶に頼るなんて曖昧なうえ、誤っているかもしれないじゃないか」といって繁閑のパターン分析や、そこからの予測モデルの作成自体がナンセンスだと諦めてしまわないことです。「予測の精度が不十分かもしれないから予測しない」というのは、「考えるのは止めて行き当たりばったりで対応する」と宣言しているのに等しく、それ以上の進歩が見込めないからです。一方で、過去の経験に基づく予測モデルがたとえ当てはまらないことがあったとしても、その経験を基に修正を繰り返していくことで徐々に精度が高まっていくことが期待できます。

仕事の実施タイミングをずらす

繁閑差の予測ができたら、次はどうやって平準化するかを考えなければなりません。そして平準化には、論理的には「時間軸での平準化」と「空間軸での平準化」の2軸で取り組むことが可能です。

まず「時間軸での平準化」ですが、これは繁忙期の仕事量の一部を繰り上げる、或いは先送りすることで実現します。例えば月末に繁忙期が来て案件の対応がピークになることがわかっているのであれば、その同じタイミングで作成している月間売上報告書などは前もって9割方作成しておくことで報告書作成分の工数を繁忙期から減らすことができます。もし月初が閑散期であれば報告書の作成時期を翌月の月初に先送りして対応できないか検討するのもよいでしょう。

また、仕事自体を繁忙期から繰り上げたり先送りしたりせずに「業務量だけを前にずらす」という手も考えられます。それは事前に業務品質を向上させることで繁忙期におけるミスやトラブルの発生件数を減らし、ひいては繁忙期の業務量を減らすことにつなげるという手です。

もし繁忙期前に少しでも余裕があるならば、繁忙期にトラブルを引き起こす可能性のある案件の情報を精査し、必要に応じて予防策を実行しておくことで発生を抑制し、繁忙期にトラブル対応に追われるという最悪の状況を免れることができるかもしれません。これは事前に工数をかけて品質を作りこんで繁忙期の業務量を減らすということです。

メンバー間の繁閑差を利用する

続いて「空間軸での平準化」について考えてみましょう。これは一言で言えば、繁忙期の仕事を他の人とシェアすることです。もちろん逆の立場であれば相手の繁忙期には、その人の仕事を引き受けることになります。いずれにせよ、両者の間で繁忙期と閑散期が重なれば最も効果的な平準化になります。そして、この考え方を突き詰めるとそもそもチームや部署全体として仕事を引き受け、手が空いている人に仕事を振る、という仕組みに至ります。このような作業分配の仕組みを導入すれば、基本的には人による繁閑差は極限まで減少し、平準化を追求できます。

ただし、そのためには「今誰が何の仕事を請け負っているのか、それはいつ終わるのか」といった仕事の状況を完全に見える化し、チーム全体で共有できていることと、「誰が何のスキルをどの程度持っていて、どういう案件に対応できるのか、できないのか」といったメンバーのスキルを、作業分配する人が把握していることが前提になります。

そこまでやるのは難しいというのであれば、例えば「案件を同時に5つ以上抱えたら周囲に知らせるために机の上にヘルプカードを出す」などのルールを設けることで、今自分は業務量がひっ迫しているということをリアルタイムで明示的にアピールし、周囲のメンバーに仕事を依頼しやすい環境を整えるというのもよいでしょう。もちろん手伝う側にとってもインセンティブがなければ続かないでしょうから、最も多く手伝った人を表彰したり、褒賞をあげたりするなどの制度も併せて整えることが必要です。

ただし、特定のメンバーによらずチームや部署全体で繁忙期が同時に来るような場合は上記の対応では難しいでしょう。そのようなケースには、可能であれば繁忙期の仕事の一部を社外に任せるという選択肢を考慮してはいかがでしょうか。「絶対に自分たちにしかできないもの」以外の仕事を特定し、それらについては潔く外部のリソースに任せることで業務量の平準化を図るのです。社外へのアウトソースは、それによって繁忙期の業務負荷が軽減されるのに加えて、会社や当該チーム/部署が本来やるべき重要な仕事にフォーカスできるようになるという効果も期待できます。

本稿では業務の繁閑差のパターンを予測し、緩和させるうえでの考え方をお伝えしました。これらを現実に実行に移そうとするとさまざまな障害が立ちはだかるでしょうが、だからといって何もしなければいつまで経っても状況は変わりません。まずはやってみて、うまくいかないところは地道に1つずつクリアしていけば必ず達成できます。不屈の精神で取り組まれることを期待しています。

筆者プロフィール: 相原秀哉(あいはら ひでや)

株式会社ビジネスウォリアーズ代表取締役
慶應義塾大学大学院修了後、IBMビジネスコンサルティングサービス(現日本IBM)入社。グローバルスタンダードの業務改革手法、Lean Six Sigmaを活用したコンサルティングを得意とし、2012年に日本IBMで初めて同手法の伝道師 "Lean Master"に 認定される。その後、幅広い組織や個人の生産性向上に寄与するべく独立。生産性向上による働き方改革コンサルティングや、コンサルティングスキルを実践形式で学べるビジネスブートキャンプを手掛ける。