本連載の第245回では「多数決が意思決定の質を下げる理由」という話をお伝えしました。今回は仕事が暇なときの対応によって残業時間が増減する理由と対処法についてお話します。
会社で残業を減らす取り組みを行う際、真っ先に手を付けるのは残業が最も多くなる繁忙期の業務ではないでしょうか。繁忙期の残業を削るために、その時期の業務を見直し、効率化することで効果的に残業を減らせるのは間違いありません。しかしその一方、定時で帰れる閑散期に社員がどのような行動を取るのかが、その後の繁忙期の残業量に影響します。
閑散期の行動が繁忙期の残業量に影響するとはどういうことでしょうか。それは管理職や社員自身が、暇を埋めるために不要な仕事を作ってしまうことに起因します。勤務時間内なのに 特にやることがない状態は、管理職からすれば「組織のリソースをフル活用できていないので、無理にでも仕事を作って与えなければ」という焦りにつながります。
その焦りから、管理職は誰からも求められていない資料の作成や、過剰に細かい業務報告、何に使えるのか分からないデータの集計、必要性が不明確な会議への参加などを社員に求めることになります。
このような仕事は、閑散期の間は残業を発生させたり増やしたりすることにはならなくても、一旦その仕事が定着してしまうと繁忙期に入ったときに残業を増やす要因になってしまいます。自然界の「慣性の法則」はビジネスにも当てはまるようで、一度定着した仕事は必要がなくなってもそのことに気が付かずに継続される傾向があるのです。
そのため繁忙期の残業を減らすためにも、仕事が少なくて暇な間に本来不要な仕事を新たに作らないようにしましょう。
しかし、そうはいっても管理職としては社員に「何もせずに待機していてください」と指示を出すのは抵抗感を覚えるでしょうし、社員側も「何もしないと手持ち無沙汰になってしまう」とソワソワするかもしれません。
そこで、新しく仕事を作るのではなく、以下3つのいずれかを行うことをお勧めします。
1. 繁忙期の仕事の一部を前倒して行う
まずはこちら。繁忙期に行っている仕事を棚卸しして、その中から前倒して実行できる仕事を選別します。それを暇な時期に行うことで、繁忙期の業務量を減らすことができるはずです。あまりに忙しすぎるときにはミスを誘発しやすいので、暇な時期に移すことでミスの予防にもなって一石二鳥です。
2. 繁忙期の仕事を楽にする仕組みを作る
暇なときに前倒しすることはできなくても、仕事を楽にする仕組みを前もって作っておくことができる場合があります。たとえば部署ごとに異なる帳票類のフォーマットの統一や、定型的な作業の自動化ツールの作成、複雑なルールの簡素化による現場からの問い合わせ件数削減などです。暇なときだからこそ、じっくり腰を据えてこうした改善業務に携わることができます。
3. スキルアップに時間を使う
繁忙期は目の前の仕事に忙殺されるのでスキルアップどころではありません。そのため暇な時期にこそスキルアップに時間を費やしましょう。一般的なところではショートカットキーによるPCやアプリケーションの操作、Excelやスプレッドシートの関数やピボットテーブルやグラフ、或いはマクロを動かすVBA、OpenAIのChatGPTやGoogleのGemini、マイクロソフトのCopilotの効果的な使い方を習得するのもよいでしょう。閑散期にこのようなスキルアップをしておけば、繁忙期の業務効率を上げて残業を減らすことに寄与するはずです。
以上、残業を減らすために暇なときにこそやっておくべきことを3つ挙げましたが、それよりまずは暇だからといって安易に新しく仕事を作らないことが大事です。その上で、仕事の特性に応じて繁忙期の仕事の前倒しか、繁忙期の仕事を楽にする仕組み作りか、スキルアップのいずれか、またはそれらを組み合わせて実行することで、繁忙期の残業を減らしましょう。