本連載の第23回では「今ある問題と対応状況は把握できていますか?」と題し、日々発生する問題を適切に管理する方法についてお伝えしました。本稿では問題が起きてから対処するのではなく、問題の発生を予測し事前に手を打つことで問題の発生を抑制したり、影響を和らげたりする方法をお話します。

変化の激しい昨今のビジネス環境では、目の前の仕事に忙殺され、さらには日々発生する問題の対応に追われて、先のことを考える余裕がないという方も多いのではないでしょうか? しかし、その忙しさは逆に「目の前のことだけに対処している」ことに起因するのかもしれません。そこで、目の前のことをこなしつつも、先を見通して行動することの意義を考えてみましょう。

備えあれば憂いなし

日々の仕事で発生する問題あるいはトラブルに対応するのは、多くの時間と労力、それに精神力を消耗しますよね。クレーム対応を例に挙げると、顧客への謝罪に留まらず、担当営業への指導や、商品に落ち度があれば商品開発部へのフィードバックと原因究明の指示、企業イメージを棄損する可能性があれば先手を打って広報部にも対応を依頼するなど、場合によっては全社を挙げて総力戦で対応せざるを得ないこともあります。

問題の発生を素早く検知し、広範囲に延焼する前に初期消火で鎮火できれば最低限の被害ですみますが、それでも相応の工数とコストの発生は免れないケースが多いでしょう。それならば、問題が発生する前に予めリスクを見極め、問題として現れる前に先手を打ってしまうほうが、楽にすむのではないでしょうか?

どこの企業でも起こりうる「メールの誤送信問題」を例に考えてみましょう。取引先の機密情報を含む重要なファイルをメールで送付する際、誤って別のアドレスに送ってしまうというリスクはつきものです。そのリスクを認識しておきながら全く予防策を取らないでいると、一般的には社員が多ければ多いほど、またメールの送信頻度が高ければ高いほど、それに比例して誤送信リスクが増します。そして、実際に誤送信により深刻な情報漏洩が発生してしまうと、会社の信用を大きく揺るがす事態を招きかねません。このような事態に陥ってしまってからでは、信用を取り戻すのに必要な努力は並大抵ではないでしょう。

一方で、将来起こるかもしれない「メールの誤送信」というリスクに正面から向き合い、予め手を打っておいた場合はどうでしょうか? 会社によってはOutlookなどのメールソフトで「送信」ボタンを押下する度に「宛先のアドレスは間違っていませんか?」とポップアップが出て注意を促す仕組みを導入しているところもあります。「送信」ボタンを押した瞬間に宛先誤りに気が付いて「しまった!」と慌てる人は多いようなので、この手段は誤送信を減らすのに有効な手段でしょう。

また、メールソフトによっては、自動で添付ファイルを暗号化する機能もあるので、これを活用することで万が一の誤送信の際にも、添付ファイルからの情報漏洩リスクを減らすことにつながります。もっとも、添付ファイルの送信に続いてパスワードも同じ宛先に自動送信される設定もあるようですが、それではリスクの軽減にならないので注意しましょう。

リスクをどうコントロールするか

予防的にリスクに備えるには、2つあるリスクの種類に適した対応が必要です。1つ目は判断ミスや操作ミスなどの「人的ミス」に起因するリスクで、通常は先ほどの例に挙げたメールの誤送信のように通常業務に潜んでいます。こちらのリスクは「メールを誤送信しそうになった」というような、実際には問題には至らなかったけれどヒヤリとした、といういわゆるヒヤリハットで検知できるものです。

こちらに関しては、どんなに気をつけていても一定の確率で起きてしまう類のものなので、いかにリスクを捕捉し、対策をとるかが勝負です。そこで、ヒヤリハットに該当する経験をした人が即座にその経験を周囲と共有し、「このリスクを放置すれば、いつか必ず問題に発展する」という覚悟を持って、予防策や問題発生時の被害を最小限に抑える仕組みを考えておきましょう。なお、その際、ヒヤリハットを申告した人を「不注意だ」などと言って責めることは、せっかくのリスク検知の仕組みを機能不全に陥らせてしまうので、絶対に避けましょう。

そして、業務上生じるヒヤリハットで検知したリスクの予防策としては、「業務プロセスやルールの変更」「ツールの導入や更新」「書類フォーマットの変更」など、複数の観点から考えるとよいでしょう。そして、場合によっては複数の観点からの予防策を組み合わせることで、より強固なリスク低減効果を得られる場合もあります。

2つ目のリスクの種類としては、通常業務というよりはプロジェクトのような取り組みに起因するものです。通常、プロジェクトでは目的と目標、開始日と終了日、予算、リソース(メンバーの工数)が決められていますが、プロジェクトを進めている間にも他業界からの新規参入などの外部環境の変化や、メンバーの急な体調不良などの内部環境の変化によって、当初予定より遅延が発生したり、目標の未達が危ぶまれたり、予算が不足したりといった問題が起きるリスクを内在します。

そのため、できればプロジェクトを開始する前に予め想定されるリスクを様々な観点からできるだけ多く洗い出し、共有することをお勧めします。そして各々のリスクが実際に問題として顕在化する可能性と、顕在化した場合の影響度合いを考慮して優先度を付与します。

優先度が高いリスクについては、基本的にはそれが顕在化してもなおプロジェクトが成功するようにリスク軽減策を考えますが、その際には「このリスクが顕在化したらプロジェクトを中断する」という撤退条件、または「このリスクが顕在化したら別のプロジェクトに切り替える」といういわゆる「プランB」への変更条件を予め設定しておくとよいでしょう。

これはプロジェクト、時には会社にとって致命的なリスクが顕在化しても、なお「ここまで頑張ってきたのだから」とか「ここまで投資してきたのだから」というだけの理由でズルズルと続けてしまうことにより傷口が広がってしまうのを防ぐ上で大変重要なポイントです。

ちなみにこのような理由は、経済学の用語で「サンクコスト(埋没費用)」と呼び、この先にどのような意思決定をしても回収できない費用として扱うべきものです。ところがサンクコストの概念を頭では理解していても、いざ自分が渦中にいると、つい感情的になってしまい、冷静な判断が下せなくなることは多いでしょう。こうした事態を回避するためにも、プロジェクト開始前に「撤退条件」や「プランBおよびプランBへの変更条件」を予め定めておくことが有効なリスク対策になるのです。

本稿ではリスクを考慮して先手を打つことの重要性と、実際にリスクを検知して対応する際の考え方をお伝えしました。少し未来に目を向けてリスクを捉え、備えることは、目の前の仕事に忙殺されている状況においては簡単なことではないと思います。しかしながら、今備えることが明日のトラブル対応という骨の折れる仕事の発生を抑えることにつながると考え、行動に移していただくことは長期的には生産性の低下を防ぐ有効な手立てとなるでしょう。

筆者プロフィール: 相原秀哉(あいはら ひでや)

株式会社ビジネスウォリアーズ代表取締役
慶應義塾大学大学院修了後、IBMビジネスコンサルティングサービス(現日本IBM)入社。グローバルスタンダードの業務改革手法、Lean Six Sigmaを活用したコンサルティングを得意とし、2012年に日本IBMで初めて同手法の伝道師 "Lean Master"に 認定される。その後、幅広い組織や個人の生産性向上に寄与するべく独立。生産性向上による働き方改革コンサルティングや、コンサルティングスキルを実践形式で学べるビジネスブートキャンプを手掛ける。