本連載の第218回では「会議にかかるコストを考えたことはありますか」という話をお伝えしました。今回は情報収集と意思決定をテーマにお話します。

会社では「新規事業に参入すべきか否か」「新規エリアに営業をかけるべきか否か」など、どの部署においても多かれ少なかれ、何らかの意思決定を日々行っているはずです。そして重要な意思決定になればなるほど、「もっと情報を集めないと判断ができない」という声を聴きます。

多くの人が「情報は多い方が意思決定の質が上がる」と思い込んでいるようですが、決してそうとは限りません。それどころか、少ない方が良質な意思決定を行うことができるケースすらあります。

そもそも、情報の量と意思決定の質は必ずしも比例関係にはありません。あまりに情報が多すぎると却って意思決定できなくなってしまうことはよくあります。たとえば、あなたがラーメン屋の出店を検討していたとします。そこで部下に「どこに出店すべきか情報を集めてほしい」と頼んだ結果、3か月後に300ページの膨大な報告資料を提出されたとします。

部下は相当に苦労して情報をかき集めて、「これだけ情報があったら十分だろう」ということで報告資料を作成したかもしれませんが、あなたはきっと「で、結局のところ候補としてどこが良さそうなのか」と部下に尋ねるのではないでしょうか。情報が多すぎると却って意思決定できないということですね。

そもそも、その意思決定を下すために必要な情報は何なのか、というのを定義しなければなりません。そこで必要なのが「仮説」です。仮説とは「まだ確証は持てないが、きっとこういうことだろう」という考えです。そして、情報収集は仮説の裏付けのために必要なものです。もちろん、集めた情報によっては「仮説が間違っていた」という結論に至ることもあります。その場合には当然、仮説を修正することになります。

そして、この仮説の質が高ければ、収集すべき情報の量を各段に抑えることができます。そして収集する情報の量が少なくなれば、そこにかかる時間を短縮できるのはもちろんのこと、仮説検証のサイクルを短期間で回すことができ、より迅速に、質の高い意思決定を下すことができます。

重要な意思決定をする際には、闇雲に情報を集めるのではなく先に仮説を立てて、それを裏付けるために「最低限、何の情報が必要か」を明確に定義し、収集した情報に基づいて仮説を検証し、必要に応じて仮説を修正の上、意思決定に進むというのが最も効率的・効果的な意思決定に繋がります。

しかし、それでもなお時間やコストの面で十分な情報を集められないこともあります。「十分に情報が集まらないうちはリスクがあるから意思決定できない」という理屈です。しかし、そもそも意思決定をするということは、必然的にリスクを取ることになるのです。

たとえばAとBの選択肢が2つあって、どちらを選んでもリスクが全くないというシチュエーションにおいては意思決定という行為の価値は全くありません。どちらを選んでもリスクが全くないということは「サイコロを振って偶数が出たらA、奇数が出たらBを選択する」ということにしても全く差し支えないので、その意思決定のために情報を集めるのも無駄と言わざるを得ません。

また、様々な環境要因を無視した実験室での事柄ならともかく、現実世界において「100%正しいと言い切れるだけの十分な情報」を集めることは現実世界では難しいでしょう。仮にそれができたとしても、膨大な時間や工数、費用が掛かってしまうので費用対効果が下がってしまいます。また、その間にも環境が変化して、集めた情報が陳腐化してしまう恐れもあります。そのため、やはり意思決定に必要な情報を集める際には期限を区切って、その中で集まった情報を基に意思決定を下すのが現実的な対応と言えます。

また、一度の意思決定で完璧な選択をすることは難しいですが、何度も意思決定を重ねていく中で少しずつ修正しながら前へと進んでいく方が、結果的にはよりプラスの結果をもたらすのではないでしょうか。そのためには情報収集も大事ですが、しっかりと仮説を立てて、検証・修正を繰り返しながら適度にリスクを取りつつ、意思決定を重ねていくことが肝要です。

情報収集にかける時間が多いのであれば、これを機にぜひ意思決定の仕方を見直してみてはいかがでしょうか。