本連載の第15回では「会議で起こるトラブルの突破術」と題し、会議本番で起こる議論の停滞、紛糾、ループといったトラブルの要因と対処法をお伝えしました。今回は業務効率化を議論する上で避けては通れない「紙資料の電子化」についてお話します。

  • 印刷すべき資料と電子化すべき資料とは

    印刷すべき資料と電子化すべき資料とは

パソコンやスマートフォン、タブレットの普及とネットワーク回線の強化に伴い、電子化が進んでいる企業が増えてきているとはいえ、紙資料を中心に業務を回している企業は今でも多く見られます。そこで、本稿では紙資料に起因する業務負荷と、トラブルを防ぎながら電子化を進める方法についてお伝えします。

紙資料による業務の負荷とは

ご自身の職場では一日に何枚の紙が印刷されていますか? 1人一日平均10枚印刷していたとすると、10人の職場では100枚、100人の職場では1,000枚が印刷されることになりますね。そして年間では少なく見積もっても2万枚から20万枚以上の紙資料が新たに発生する計算になります。当然、その量に比例して印刷用紙代とインク代などの費用が発生しますが、より深刻なのは、印刷自体にかかる費用より印刷した紙資料の扱いに要する業務負荷の方です。

印刷やコピーにより紙資料が新たに発生すると、その運用と保管には意外に多くの手間がかかります。特に会議で大量の紙資料を配布している会社では、そのために手間と時間が惜しみなく費やされている場合があります。イメージしていただけるよう、以下では具体的なケースでお伝えします。

あなたはある会社の経営企画室で働いています。今日は各部署からの次年度の取り組みや予算案についての説明と決裁が行われる役員会議が午後1時に開始される予定で、そのための準備を進めています。今朝10時に営業部、商品開発部、情報システム部、人事総務部、経理部の各部から説明用資料をデータで受け取った後、それらを1つの資料に統合し、50分かけて合計100ページの資料を出席者30名分印刷し、10分かけてホチキスで綴じて、各テーブルに配置しました。

余裕を持って準備を終えて一息ついたのも束の間、営業部から「この資料を追加してほしい」といって、新しい資料がデータで送られてきました。統合ファイルにデータを追加して再度印刷し、ホチキスで綴じて、テーブルに配置し直したところで12時を回りました。まだ会議開始まで1時間あるので昼食にしようと思った矢先、今度は資料の中に誤字があるのを同僚が発見、大慌てで誤字を修正して、資料を用意し直す羽目に。昼食どころか会議の開始時刻直前まで対応に追われることになってしまいました。

このケースでは結局、9,000枚の紙資料を印刷して(その内6,000枚は使われずに破棄)、3時間を費やすことになってしまいました。ここまで酷くはなくとも、紙資料を中心に業務が回っている会社では、似たような事例が実際にあります。ちなみに、これが紙資料を使わずにプロジェクターや大型モニターに資料を投影する形式であれば、各部から受領した資料を統合し、営業部からの資料を追加し、同僚が発見した誤字を修正するのにかかる時間だけで済むので10分もあれば終えられたはずです。本来電子データなら10分で終えられたはずの作業に、3時間もかけるのは無駄でしかありません。

また、紙資料はよほど管理の仕組みが整備され、現場に徹底されていない限り増え続け、気がつくと膨大な量になってしまいます。それによってオフィスのスペースは圧迫され、必要な情報を探す際の手間が増え、情報紛失リスクも上がってしまいます。

そうならないために、やはり紙に依存した業務を改め、原則として情報は電子データで持つようにすることをお勧めします。

なくすべき紙、残すべき紙とは

紙を電子化するといっても、紙資料の種類や量があまりに多すぎて、どこから手を付ければよいかわからない、という場合もあるでしょう。そのようなときには、まず会社または部署として業務に必要な資料を調査し、全て一覧化します。その際、部署ごとにベテラン社員にヒアリングするか自分で記述してもらい、それを部署内の他の社員に見せて過不足の有無を確認し、必要に応じて追記していくとよいでしょう。

そして、一覧の中から「紙で保管しなければならない資料」と「紙を使った方が業務効率がよい資料」を識別していきます。前者は基本的に紙の原本の保管が義務付けられているものなので、そちらは法律に準拠していただければよいのですが、問題は後者です。「これまでずっと紙資料で業務を遂行しているので、紙を使う方が慣れていて効率的だ」という理屈に注意してください。それは単に「慣れ」の問題なので、他の理由がなければ電子化対象にしてしまって差し支えないでしょう。

「紙を使った方が効率的」というのは一般的に、複数の資料を同時に見ながら作業を進める場合(顧客からの要望一覧を見ながら図面の設計を行う場合など)や、パソコンの画面では収まりきらない大きな画像や図の全体を扱う場合(広げた地図を見ながら複数人で議論する場合など)に限ります。

あと、個人的には長文やページ数の多いプレゼン資料などを作成した後、誤字脱字のチェックをする際には、印刷してチェックする方がやりやすいと感じますが、これは人によるかもしれません(この場合はチェックを目的とした紙資料なので、チェックが完了したら即廃棄します)。

いずれにせよ、業務効率化の効果を最大化するためには「紙で保管しておかなければならない資料」と「紙を使った方が業務効率がよい資料」を除いて全て電子化するという方針で進めることをお勧めします。

紙に頼らない業務プロセスとは

電子化する資料を特定できても、これで終わりではありません。これまで紙で運用してきた業務を電子データで行うのですから、当然業務プロセスを見直さざるをえません。ここを疎かにしてしまうと、いざ電子データを使って業務をスタートしても、すぐに職場が混乱に陥ってしまうか、業務が遅々として進まずに「やはり紙の資料が必要だ」という声が現場から上がり、結局元に戻ってしまいかねません。

そこで、電子化対象の資料を扱う業務プロセスを可視化して、仕事の進め方が具体的にどう変わるのかを明らかにすることをお勧めします。ここでプロセスを可視化するときのポイントは、「資料の基本情報は何か」「情報源はどこか」「作成した資料は誰とどのように共有するのか」「何に使われるのか」「どう保管し、どういうタイミングで廃棄するのか」などの「資料の作成から共有、使用、保管、更新、廃棄に至る活動」を漏れなく捉えることです。

資料を扱う業務プロセスの可視化が無事に済んだら、次は資料に関する各々の活動を紙資料から電子データで行うように変更した場合を想定して、業務プロセスを設計します。その際は資料の形式(PDF/Word/Excel/PowerPointなど)の定義はもちろんのこと、ファイル名や格納場所、アクセス権限やパスワードなどについても、考えを巡らせることを忘れないようにしましょう。

ここまで見てきた通り、紙資料の電子化は業務効率化を進める上で効果的である一方、単に「紙の印刷をやめれば済む」という話では全くなく、資料を用いた業務プロセスの可視化と見直しを不退転の覚悟で進めなくては成功しません。それを踏まえて自社で実行される際には、本稿を参考にしていただければ幸いです。

筆者プロフィール: 相原秀哉(あいはら ひでや)

株式会社ビジネスウォリアーズ代表取締役
慶應義塾大学大学院修了後、IBMビジネスコンサルティングサービス(現日本IBM)入社。グローバルスタンダードの業務改革手法、Lean Six Sigmaを活用したコンサルティングを得意とし、2012年に日本IBMで初めて同手法の伝道師 "Lean Master"に 認定される。その後、幅広い組織や個人の生産性向上に寄与するべく独立。生産性向上による働き方改革コンサルティングや、コンサルティングスキルを実践形式で学べるビジネスブートキャンプを手掛ける。