本連載の第142回では「成果の「量」で他を圧倒する働き方とは」と題し、成果の「量」を1時間あたりの生産量 × 成果に繋がる労働時間と捉え、それをベースに成果の量を増やす働き方についてお伝えしました。今回はテーマを変えて思考の効率化の方法についてお話します。
「思考力を上げたい」「ロジカルシンキングを身に着けたい」
という人は大勢います。本屋に行けば「思考」や「思考力」に関する書籍が山のように置いてあります。どのように考えるか、その考え方を訓練してブラシュアップすることは難易度の高い仕事において重要であることは論を待たないでしょう。
しかし、本来は「どのように考えるか」ということと同等、或いはそれ以上に「何を考えるべきか」が重要ではないでしょうか。さらに「何を考えるべきか」というのは「何を考えないか」と同義と捉えることができます。つまり、思考のスリム化というわけです。
では思考のスリム化ができていないと、どのような不都合があるのでしょうか。それには単に仕事の効率を悪化させるのにとどまらず、弊害をもたらす危険すらあります。以下ではメタボ化した思考の弊害について2つの観点から説明します。
メタボ化した思考は問題を過度に複雑化する
職場で発生した問題について考える際には幾つもの問いを立てて、それらに答えるプロセスが必ず発生します。「そもそも問題として扱うべきか」「問題はどの程度深刻なのか」「影響はどこまで及ぶのか」「原因は何か」などです。そして、立てた問いについて考えて出した結論を基に次の問いに移っていくという思考プロセスを経ます。
しかし、メタボ化した思考では自らムダな問いを作ってしまい、問題を必要以上に複雑にしてしまうことがあります。たとえば「営業利益の低下」を問題として捉えて考える際、本来は「営業利益=売上-売上原価-販売費および一般管理費」という数式を念頭に、売上が下がっているのか、売上原価や販売費および一般管理費が上がっているのかを突き止めて、そこから問題を深堀りするのが自然な流れです。
しかし、こうした流れを無視して「営業利益が下がっているのは新商品の開発スピードの鈍化と営業担当者の離職率の上昇、それに社会情勢の急激な変化が原因だ」などと自分が普段から問題だと思っていることを片っ端から挙げて、それを無理やり本来の問題に絡めようとすると途端に問題が複雑になってしまいます。その上、それぞれの問題について原因を明らかにし、対応策を取ったとしても営業利益が上がるかどうかは分かりません。言い換えると、本来の問題との関連が不明確なため、そのままでは考えるだけムダになってしまいます。
メタボ化した思考は目的の達成を邪魔する
「顧客満足度の向上」や「離職率の低下」、「新商品を今年度中に発売する」といった目的を達成するためには、その目的を具体的な目標に落とし込み、さらにその目標に向かって何をするのかを決めなくてはなりません。
しかし、メタボ化した思考では目的を目標に落とし込む際に「念のためにあれも入れよう、これも入れよう」といって本来不要なものも含めてしまったり、その目標達成のためにやるべきことを考える際にも重要度の低いものを紛れ込ませてしまったりします。
たとえば「離職率の低下」という目的について、元々は正社員の離職が問題になっていたとすると「正社員の離職率を10%下げる」とか「年間の正社員の離職人数を10人未満にする」といったことを目標に据えるのが自然です。ところがメタボ化した思考では、それに対して「契約社員の離職率」や「パート・アルバイトの離職率」なども含めた方がよいのでは、といって対象範囲を不必要に拡大してしまうことがあります。
もちろん対象範囲を拡大した方がよい場合もありますが、目的やその背景に照らし合わせて一度範囲を絞ったら、無意味に拡大すべきではないでしょう。それによって目標のハードルが不必要に上がり、本来目指していた目的の達成が遠のいてしまうからです。
また、目的を達成するには事前に「阻害要因が何か」を想定して対策を施すのが定石ですが、メタボ化した思考では、発生する可能性が殆どない阻害要因まで出して、全てに対して完璧な対策を施そうとしてしまいます。これでは莫大な時間と労力を要してしまい、コスパが合わなくなってしまうでしょう。
以上見てきたように、メタボ化した思考では単に思考の効率を下げるというだけでなく、問題解決や目的達成そのものを邪魔してしまうことが問題なのです。そこで、メタボ化した思考をスリム化する方法を次回以降でお伝えいたします。次回もご一読いただければ幸いです。