本連載の第117回では「デジタル化できる職場とできない職場は何が違うのか」と題し、「完璧主義」と「細則主義」の2つが両者の違いであるというお話をしました。今回はデジタル化の取り組みでよくある失敗についてお伝えします。

働き方改革関連法の施行、コロナ禍での出勤抑制に伴うテレワークの要請、デジタル庁の発足など、デジタル化やその先にあるDX(デジタルトランスフォーメーション)は待ったなしの様相です。

そんな中、危機感を持った企業の多くがデジタル化に取り組もうとしています。しかし、経営者から「我が社もデジタル化、DXを進める。早速、取り掛かってほしい」と指示を受けた人の中には「いったいどこから手を付ければいいのか」と途方に暮れている人もいるでしょう。

そもそもデジタル化の進め方には決まりきった型があるわけではありません。デジタル化の取り組みを成功させるには、業界・業種や目的、対象業務、期間などを考慮し、自社に合った最適なアプローチを自分たちで模索しなくてはなりません。

「こうすれば成功する」という方程式はありませんが、その一方で「こうすると高い確率で失敗する」ということは分かっています。失敗する方法を知っておき、それを回避することで成功する確率を上げることができます。ここでは、何がデジタル化の取り組みを失敗に導くのか、その代表的なものを紹介します。

現状業務ありきのデジタル化

業務のデジタル化というと、今まで業務に使っていた紙やFAX、ハンコをなくし、替わりにデジタルのツールやデータを使用するというイメージを持っているのではないでしょうか。無論、それ自体は誤りではありませんが、ただ紙をデータで代替すれば済む話かというと、そうではありません。それではデジタル化の恩恵を最大限に活かすことはできませんし、むしろ下手をすると却って業務効率が下がってしまう恐れすらあります。

例えば、これまでオフィスの壁にかかったホワイトボードで案件の進捗や問題の発生状況を管理していたとします。これをデジタル化して、共有フォルダの奥深くの階層にあるエクセルファイルに情報を集約して管理するように業務を変えたとします。

その場合、ホワイトボードに書かれた情報のデジタル化自体は確かに実現できていますが、関係者がリアルタイムで情報を把握できる状態が保たれているかというと疑問です。なぜなら、そのエクセルファイルは共有フォルダの奥深くにアクセスしなければ見られないため、ホワイトボードを使う場合と比べて手間と時間が余分にかかってしまいます。これでは迅速な情報共有という機能が劣化してしまうことは明白です。

この例であれば、案件に付随する情報を社内のポータルサイトに表示させて、一定の間隔で最新の情報に更新するような仕組みを考えた方がよいでしょう。さらに緊急性の高い情報をアップした際にはLINEやChatwork、Slackなどで社員に更新情報が素早く届くようにするのも手でしょう。

このように、単に紙をデータに置き換えるというのではなく、デジタル化の効果を最大限活かすためにどのように業務自体を見直すのかという視点を持つことが大事です。

現場の声を無視したデジタル化

会社全体でのデジタル化の推進には、社長はじめ経営層の強力なリーダーシップが欠かせません。しかし現場の声に耳を傾けることのないまま、トップダウンで半ば強引にデジタル化を推進しようとする試みは失敗する可能性が高いでしょう。

仮にデジタル化の取り組みを指揮する役員が、かつて現場で指揮を執った経験を持ち業務の知見を持ち合わせていたとしても、当時と今では業務の手順や取り巻く環境が大きく異なっているであろうことは想像に難くありません。むしろ「最新の現場の状況は分かっていない」という前提で今現在、現場の第一線で活躍している社員に直に話を聞くことが不可欠です。

実際に話を聞いてみると、顧客との接点において紙や現金でのやり取りが多く残っていたり、取引先とのFAXでのやり取りが存在していたりと、デジタル化を進める際に社内だけでは解決できないボトルネックが判明することがよくあります。

そうすると、顧客や社外との接点においてサービスの見直しや代替手段の導入と活用のための啓蒙、或いは安全な情報交換・共有・保管・廃棄手段の確立といったことまで包括的に検討することが必要になってきます。

このように、まずは現場の社員にしっかり話を聞き、ボトルネックを洗い出すことが肝要です。そして、単なるデジタル化ではなく、それに付随するサービスや情報共有の在り方、新しい業務プロセスの設計、それに合わせた組織内の役割分担の見直し、マニュアルの改訂、さらにはスキルの再教育など、考えるべきことは山積しています。

こうしたことを理解した上で、しっかりと現状を認識して対応しましょう。きっとデジタル化の取り組みで失敗する典型的な落とし穴を回避し、成功に一歩近づけるでしょう。