いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。

今回は、高円寺の立ち食いそば店「江戸丸」をご紹介。

  • 環七沿いの老舗立ち食いそば「江戸丸」(高円寺)

環七沿いで行きかう車を眺めながら

高円寺駅南口(北口でも可)を出て高架下を新宿方面に進むと、数分で環状七号線(環七)とぶつかります。信号を向こう側に渡ったら右側、すなわち青梅街道沿いへ。すると、すぐに「そば・うどん おにぎり」と書かれた看板が見えてきます。

そこが、今回ご紹介する立ち食いそば屋「江戸丸」。

  • この看板と電光掲示板が目印

20代のころから利用していた記憶があるので、そう考えるとかなり長い歴史を持つ立ち食いそば屋さんです。いやー、僕ね、ここが大好きなんですよ。

まず特筆すべきは、男性客の多さです。それもそのはず、朝の5時から開いていることからもわかるように、トラックやタクシーの運転手さんから絶大な支持を集める店なのです。

  • 王道の立ち食いスタイル

そういえば僕も何度か、タクシー運転手のおじさんがお店の人と雑談している光景に出会ったことがあるな。とはいえ、基本的にはコミュニケーションを求めるような場所ではないと思います。

サッと立ち寄り、サッとそばをたぐり、サッと帰る。そんな店だということ。しかも、ときどき無性に食べたくなるんですよ。みんな同じように感じているからこそ、常に客足が途絶えないのでしょう。

ということで、“江戸丸欲求”が頂点に達しつつあったこの日も、よく頼んでいる「肉そば+生卵」を選んだのでした。

ちなみに券売機はなく、注文はカウンター越しに口頭で伝えるシステム。次々とお客さんが訪れるので、モタモタするわけにもいきません。

  • カウンターはこんな感じ

だから待ち時間も非常に短く、あっという間におそばが提供されるわけです。が、なぜかこの日は、僕の分であると思われるどんぶりを見ながら若い女性店員さんが困ったような顔をしています。

どうしたのかなと思っていたら、おずおずとどんぶりを差し出しながら「すみません、卵の黄身が割れちゃいました……」。

いや~、どうせ黄身なんか食べるときに割っちゃうんだから、そんなの全然かまわないっすよ。

しかし、そんな心遣いがうれしいですね、と感じつつ、カウンターには並ばずどんぶりを手に持って移動。

  • 肉蕎麦+生卵

というのも、このお店には「テラス席」があるのです(一時期、そこを「ステージ」とか呼んでいた自分は本当にバカなんだなーと思います)。

少し前までは、歩道沿いに事務机と折りたたみ椅子が並んでいたのでした。環七の排気ガスを吸いながらそばをすする不健康さが最高だったのですけれど、ひさしぶりに訪ねたら、その席が見当たりません。

  • 新しくできた飲食スペース

で、代わりに店の横に、広い飲食用スペースが。例の事務机と椅子も、こちらへ移動しています。

なるほど、数ヶ月前に改装中で食べられなかったことがあったんだけど、あのときはこの工事をしていたのかもね。

椅子はみんな埋まっていたので、その手前の立ち食い用テーブル(という名前なのかどうか走らないけど)へ。

  • 環七を望む

どんぶりを置いて環七を眺めると、やっぱり最高の雰囲気です。立ち食いそば屋は数あれど、こういうロケーションのお店ってそうそうないんじゃないかな。

しかもね、ここは味も最高なんです。とはいっても当然ながら高級であるという意味ではなく、最上級のほめことばとしてのB級感が。

  • 柔らかいそばこそ立ち食いの王道

麺はボソボソでコシなどあるはずがなく、甘みの強いつゆは濃いめ。いわば王道の立ち食いそばテイストであり、環七を行き交う車を眺めながら食べるそれが、たまらなくおいしい、いや、うまいのです。

なお、人気があるかどうかは知らないのですが、僕は、やはり甘めに煮込まれた肉そばのバラ肉がとても好きでしてね。だからいつも、「肉そば+生卵」ということになってしまうんです。

  • メニューもズラリ

でも「献立」と書かれた看板を改めて見てみると、天丼なんかもあるんですね。「天ぷらがちょっと苦手だけど、割下のかかった天丼ならOK」で、しかもB級であればなおよいという、よくわからない嗜好性を持つ僕にとっては、まさにうってつけの一品かも。

今度、頼んでみるべきかもしれないな。

●江戸丸
住所:東京都杉並区高円寺南5-32-4
営業時間:5:00~15:30
定休日:日曜・祝日の月曜