いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。今回は、三鷹の食堂「いしはら食堂」です。

  • 朝5時オープンの老舗食堂「いしはら食堂」(三鷹)


地元住民の利便性が最優先

三鷹駅南口から中央通りを少し進むと、さくら通りとの交差点にぶつかります。右側に見えるマクドナルドが目印ですが、そちら側ではなく左折しましょう。

本町通りと交差する「コミュニティプラザ西」交差点を越えてさらに進めば、左側、駐車場の隣に茶色い建物が見えてきます。そこが、今回の目的地である「いしはら食堂」。

青い地に「味自慢 御食事」と白く抜かれたのれん、そして「品数多い 早いうまい 安い」と情報量が多いオレンジ色の垂れ幕がポイントです。

  • 目につきやすいのれんと垂れ幕

素朴な感じが好きで、三鷹に住んでいた10数年前はときどき利用していたのですよね。でも引っ越してしまったから、考えてみると10数年ぶり。

見てのとおり、いたって"普通"の食堂。とはいえ、ここまで地元住民の利便性を最優先した店は少ないようにも思えます。

たとえば、そのいい例が営業時間。なんと、早朝5時から夜の8時まで店を開けているのです(店内のメニューは、「午後7:30まで」と書き換えられていました)。

しかも垂れ幕をよく見ると、開店時刻が「6時」から「5時」に修正されています。そんなに早い時間から昼休憩なしで通し営業しているわけで、なんとも頭が下がる思い。

それに、本当に品数が豊富なんです。店頭の「しながき」にはたくさんの料理が並んでいますが、それらはほんの一部。しかもカレーライスが390円とか、値段も完全に昭和価格です。

  • メニューが豊富で、そして安い

店内は、厨房に面した左側と突き当たりがカウンター席になっていて、右側にはテーブル席。この日はお昼の時間を外したのでお客さんはひとりだけでしたが、基本的にはいつも何人かの人がいるといった印象があります。

「お好きな席へどうぞ」との声を聞きながら左側のカウンター席に座ると、すぐに温かいお茶が出てきました。

  • きちんと整えられた店内

豊富に揃ったメニューのなかから、好きなおかずを選ぶシステム。ごはん・味噌汁・お新香がついた240円の「定食」に好きなおかずを加え、自分だけの定食をカスタマイズできるわけです。素晴らしいね。

僕はここに来ると、なぜかハムエッグを頼みたくなっちゃうんですよね。おそらく、家庭的な雰囲気がそうさせるのではないかと思います。ちなみに玉子2個入りのハムエッグは190円ですが、1個だと150円です。

ってなわけでハムエッグ定食を。ただし味噌汁を豚汁に変更してもらい、きんぴらも加えてみました。

ハムエッグの焼き加減やいかに

ゆったりとした空気が流れる店内にかかるのは、TBSラジオ。こういうお店では、やはりAMラジオを聴きたいところですよね。落ち着くなー。

と思っていたら、数席向こうにいたお客さんがカレーライスを食べ終えてお帰りに。その背中に、お母さんの「いってらっしゃい」の声がかかります。こうして早朝から、食事を終えて仕事に向かう人たちに声をかけ続けているのでしょう。

そして、そのすぐあとに入ってきた新たなお客さんにも、「いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ」との声。当たり前のことかもしれないけれど、さりげない気遣いが感じられます。

  • 不安になるほどの強火

目の前の厨房に目をやると、僕が頼んだハムエッグはなかなかの強火で焼かれています。「あれだと焦げちゃうんじゃないの?」と多少不安になるも、やがて登場したハムエッグの出来を見て納得。

白身のふちは少し焦げているけれど、割ってみれば黄身はトロリと半熟。つまりはバランスが絶妙で、これはやはり長い営業実績があってこその術なのでしょう。

  • ハムエッグ定食(豚汁)+きんぴら

いいなと感じたのは、豚汁もきんぴらも、味が適度に薄味だったこと。いまはやたらと味の濃い料理を出す店が少なくありませんが、素材の味を見事に引き立てているのです。

だから物足りなさを感じることもなく、ゆっくりと食事を楽しむことができました。

  • 強火で焼くも、黄身は見事に半熟

  • きんぴらも豚汁も懐かしい家庭の味

以前お邪魔したころとなにも変わっていないだけに、10数年前にタイムスリップしたような気分になったなー。

ところで僕には、この店で実現できていないことがあるのです。複数のおかずと一緒に、ビールや日本酒をいただくこと。もうずっと前からそれを夢見ているので、そろそろ実行に移さないと。


●いしはら食堂
住所:東京都三鷹市下連雀3-6-27
営業時間:5:00~20:00
定休日:土曜日