いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。

今回は、西荻窪のそば店「松月庵」をご紹介。

  • 56年の歴史を持つ町のおそば屋さん「松月庵」(西荻窪)

56年の歴史を持つ町のおそば屋さん「松月庵」(西荻窪)

西荻窪駅南口を出たら、向かいの角にマクドナルドがある「西荻窪駅入口」交差点を渡って荻窪方面へ。「平和通り」という名のその商店街をちょっと進むと、右側に老舗感満点のおそば屋さんが現れます。

名前は「松月庵」。

周辺は30年以上前から自転車でしょっちゅう通っているんですけど、実は、このお店のことはあまり気にかけたことがなかったんですよね。

非常に地味で街の外観にすっかり溶け込んでいるので、意識する機会が少なかったというわけ。

にもかかわらず、西荻にいたある日、おそばが食べたいなと思った瞬間にこのお店のことが頭に浮かんだのですから、しっかりインプットはされていたのです。

そう考えると、日ごろから地味ながらも存在感をアピールしていたお店だったと考えることもできます。

それにしても、改めて見てみればいかにも昭和なたたずまい。とくに個性的なわけでもない、こういう“普通の”おそば屋さんって、個人的には専門店っぽいところよりも安心できます。

  • コロナ対策も万全

引き戸を開けると、店内は広すぎず、狭すぎもせず、ちょうどいい感じ。右側には座敷席が並び、左側にテーブル席が3卓ほど。突き当たりが厨房になっているようで、典型的な「町のおそば屋さん」ですね。“街”ではなく、あえて“町”と書きたくなるような。

ちょっといいなと感じたのは、店内に邪魔にならないボリュームでクラシックが流れていたこと。とってつけたような感じではなく、自然になじんでいるのです。

いちばん手前の席に座ると、若旦那とおぼしき男性が「こちらをどうぞ」となにかを差し出してくださいました。見れば紙製のマスクケースです。「東京都麺類生活衛生同業組合」と書かれているので、おそば屋さんに配られているのでしょう。

  • マスクケースのサービスも

こういう配慮はうれしいですよね。ちなみにコロナ対策も万全で、テーブル間はビニールカーテンでしっかりと仕切られています。

なお、この時点で奥の席に2人客がいるのみ。あとからまた2人が入ってきましたが、客の立場からすると、このくらいの人数がちょうどいいかな。

さて、「お献立て」と書かれたメニューを見て気になったのは「おかめ」です。おかめそばって頻繁に食べるものではないけれど、たまに食べたくなっちゃうんですよね。

  • シンプルで渋いメニュー

そんな具材を、どのように並べているか。そういうところにもお店の個性が表れるものだと思いますし。

ところで、座った席のすぐ脇にはたくさんの雑誌がきれいに積まれています。「モーニング」のような男性向け漫画誌のみならず、「週刊女性」も。女性客も少なくないのでしょうが、たしかに気づかいなく入れるだけに、こういうお店は女性にも便利そう。

  • 真ん中の「プレイボール」も気になる

さて、おかめそばが到着です。

椎茸、わかめ、かまぼこ、なると、海苔、麩と具もたっぷり。全然おかめの顔には見えませんが、そこはまぁご愛敬。

  • 具がたっぷりの「おかめそば」

いずれにしても根が幼稚なもので、いろんなものが入っていると「どれから食べようかなー」とワクワクしてしまうんですよね。でも、それこそがおかめそばの魅力でもあります。

つゆは甘みと塩気とのバランスがよく、すっきりとした味わい。そばも思っていた以上にしっかりとしていて、これは満足。一般的に、温かいそばはあまりコシを期待できるものではありませんが、なかなかのものなのです。

そばをたぐりながら具をひとつずつ食べ進めていくうち、楽しい気分になっていきます。子どものころ、親に連れていかれた町のおそば屋さんを思い出したりして。

  • 意外なくらいしっかりとしたそば

  • つゆもスッキリしておいしい

ところで帰り際にお聞きしたところ、今年で56年目なのだとか。地道に“普通”を貫き続ける姿勢が、地元の人たちに支持されてきたのでしょう。

●松月庵
住所:東京都杉並区西荻南3-15-11
営業時間:11:00〜15:00(自粛営業)
定休日:土曜日