いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。今回は、新宿のジャズ喫茶「DUG」です。

  • ジャズ喫茶「DUG」(新宿)


ジャズ喫茶の老舗「Jazz Café Bar DUG」へ

最寄り駅は、東京メトロ丸ノ内線の新宿三丁目。とはいえ靖国通り沿いの好立地なので、JR新宿駅から歩いたとしてもあっという間に着いてしまいます。

そんな場所で営業を続けているのが、東京を代表するジャズ喫茶「DUG」(正式名称はJazz Café Bar DUG)。

歴史はとても古く、前身の「DIG」がオープンしたのは1961年のこと。僕が生まれる前のことなので知ったようなことは書けませんが、当時のお店は現在のALTA裏手にあるロールキャベツの銘店「アカシア」の3階にあったのだとか。

その後、1967年には紀伊國屋の裏手に「DUG」がオープン。伝説のジャズ喫茶として知名度が上がったのがこの時代で、当時のお店のことは村上春樹『ノルウェイの森』にも描かれています。

さらに靖国通り沿いに地上3階、地下1階の「new DUG」が誕生したのは1977年のこと。僕が「DUG詣で」をしたのは1980年代だったので、初めて訪れたのはこの店だったことになります。

1980年代後半に、バーニーズニューヨーク向かいのビルに移転してからも何度か伺ったのですが、考えてみると2000年に現在の靖国通り沿い「イタリアントマト」の隣に移転してからは、一度もお邪魔したことがなかったのでした。

特に理由はないのですけれど、だからずっと気になっていたんですよね、「いま、DUGはどうなっているんだろう?」って。

そこで新宿三丁目で会食があった夜に、ふらっとお邪魔してみました。

  • 階段を降りて地下へ

階段を降り、左右に座席のあるゆったりとした店内へ。レンガの壁と年季の入ったテーブルと椅子には、心地よい懐かしさを感じさせてくれます。

  • 落ち着いた雰囲気の店内

ジャズ喫茶にはハードルの高い印象があるかもしれませんが、少なくともここに関しては心配ご無用。

閉鎖的な空気は一切流れていないので、一度足を踏み入れてみれば、きっと気にいるのではないかと思います。

事実、お酒を飲みながら語り合っているカップルの姿もちらほら。つまり、抵抗なく話をしやすい雰囲気があるのです(もちろん、エチケットとして大声での会話は避けたいところですけれど)。

  • こちらはカウンター席

なお会話も弾みやすい理由のひとつとして、店内に流れるジャズの音量があげられるのではないかと思います。

大きな音量でジャズを流す店も少なくありませんが、「DUG」はことさら音量に気を配っている印象があるのです。わかりやすく言えば、その音量は「大きすぎもせず、小さすぎもせず」という感じ。

場の雰囲気を壊さないようにとの配慮が感じられるので、お客さんは無理なく選曲を、雰囲気を、会話を、そしてお酒の味を楽しむことができるわけです。

事実、店内には他のジャズ喫茶でよく見るような大きなスピーカーは見当たりません。なのに音の心地よさを楽しめるのは、壁にJBLの「C54 Trimline」というスピーカーが埋め込まれているから。

  • 壁に埋め込まれたスピーカー

オーディオを突き詰めると箱(部屋・空間)に行き着くと言われていますが、つまりスピーカーを壁に埋め込むと、店全体がスピーカーキャビネット(筐体)になったような効果を生み出すわけです。

そのため、オーディオ的にも理にかなっているのです。とはいえ、必要以上に大音量で鳴らしたりしないところが紳士的。あくまで、訪れた人の立場に立った配慮がなされているという印象なのです。

  • ジャズ・ミュージシャンのポートレイトも

ちなみに店内の至るところに飾られているジャズ・ミュージシャンのポートレイトは、ジャズ写真家としても有名なオーナーの中平穂積さんによるもの。

壁の写真を眺め、柔らかな音を楽しみながらすっきりとしたジントニックを飲んでいたら、恐る恐る「new DUG」に足を踏み入れた20代のころのことを思い出しました。

それは、あのころと現在をつなぐこのお店の歴史のおかげかもしれません。

  • ジントニックはすっきり爽やか


●DUG
住所:東京都新宿区新宿3-15-12
営業時間:12:00~18:30(コーヒータイム)、18:30~23:30(バータイム)
※金・土曜、祝前日は~26:00
定休日:無休