エンジン、ガソリンタンク、サスペンション、タイヤとレストアを進めてきた「ウルフ 50」。今回はシートを再生する。

レストア前のシートはこのような状態。表皮はもう交換するしかない。内部のスポンジがおそらく大丈夫だが、ちょっと心配というコンディションだ

シートをひっくり返し、表皮を固定しているステープルをすべて外す。マイナスドライバーで浮かし、プライヤーで引っ張ればいい。ただ、もっと古いバイクだとシートのベースが金属製で、表皮の固定方法も異なっている

シートは見た目の印象を決定づける、つまり、シートが破れているとバイク全体がボロボロに見えてしまう。その意味でも重要なパーツだし、実用面からもしっかり直しておく必要がある。シート表皮が破れていると、そこから水分が入り込んで内部のスポンジに溜まり、晴れた日でも乗ればお尻が濡れることになってしまうからだ。

「ウルフ 50」のシートは、表皮がすっかり色あせ、何カ所か破れている。しかし、レストアベースとしては良好な部類といえるだろう。大きく破れていると、内部のスポンジもダメージを受けていて整形や補修が必要になるし、ベースが金属製の場合は必ず錆びているので、その処置も必要になる。「ウルフ 50」のシートはそのどちらも該当せず、表皮を張り替えるだけで新品同様にできる状態だ。

作業はまず、シート表皮を手に入れるところから始まる。「ウルフ 50」は非常に都合がいいことに、表皮に縫い目がなく、広げれば平らな1枚のシートになっている。普通は車種ごとに縫製された専用の表皮を購入しなければならないが、このシートは汎用のフェイクレザー生地があれば張り替えられるのだ。今回は壁紙やインテリア用のシートを扱うショップのオンラインストアで購入。約100cm×50cmで送料含め1,430円だった。

表皮を剥がして取り去る。スポンジはやはり水がしみ込んだあとがあるが、現在は乾いており、弾力も失われていない。これならこのまま使えるだろう。表皮は後で型どりに使うので、ボロボロの場合でも破らないようにする

表皮が破れていた部分のスポンジがはみ出すように変形していたので、カッターナイフで整形した。大きく刃を出して、小刻みに動かすと切りやすい

購入しておいたフェイクレザーとタッカーを用意する。フェイクレザーの色は好みで変更しても面白いが、今回は純正の表皮を同じ黒にしておいた

古い表皮を広げて新しいフェイクレザーの上に置き、型どりをする。引っ張りしろが必要なので、古い表皮より5cm以上大きく、大まかに切ればいい。なお、新しいフェイクレザーを裏返しているが、色が黒でサインペンのラインが見えないので裏返しただけで、黒以外なら表にマーキングしてもいい

もし専用の表皮が必要ならこの数倍の値段になるが、それ以前に、よほど人気のあるモデルでないと、専用表皮など販売されていない。売っていなければ自分でシートを張り替えるのはまず無理で、専門業者に依頼して最低でも1万円程度支払うことになる。

ひたすら引っ張り、シワができないように張る

シート表皮はステープル(いわゆるホチキスの針)で、樹脂製のベースに貼り付けられている。まず、このステープルを抜いて、古いシート表皮を剥がす。ステープルはマイナスドライバーで持ち上げ、プライヤーなどで引っ張れば簡単に抜ける。この作業はまったく難しくはないだろう。

問題は新しいシートを張る作業だ。本来なら職人の仕事、というほど難しくはないが、慣れが必要であることは確かだ。まずシートを切り抜くが、ここで注意したいのがシートの方向。フェイクレザーのシートには伸縮性があるのだが、横に大きく伸び、縦にはあまり伸びない(製品によって違うかもしれないので確認が必要)。よく伸びる方向がシートの横方向になるように切り抜いたほうがいい。

次はいよいよシートを張っていく。これにはタッカーというステープルを打ち込む工具を使う。といっても、筆者はバイクのシートを張る正式な方法を知らない。それ以前に、正式な張り方というものがあるかどうかもわからないのだが、いつも自己流の張り方をしている。その方法は、まずシートの前後をタッカーで固定する。このとき、ある程度たるみを持たせておき、続いて横方向にひたすら引っ張りながら張っていく。

いよいよタッカー登場。しっかりと押しつけてレバーを握る。シートのベースが硬いとステープルがしっかり刺さらない場合があるが、シートのベースをヒートガンなどで暖めるといい

このように表皮の前後を最初に固定する。このとき、ぴんと引っ張るのではなく、少したるませておくことがポイントだ

続いて両サイドの中央を引っ張って固定する。しかし、引っ張りきれず失敗。中央部分はもうぴんと張っていなければならないが、かなりたるみがあるので、ステープルを抜いてやり直すことにした

やり直してこのようになった。まだ十分に引っ張り切れず、たるみがあるが、この程度なら他の部分を引っ張ることで解消できる

表皮をつかみ、力いっぱい引っ張る。そして折り返して素早くステープル。何度もやっていれば、次第にコツがわかってくるはずだ

このくらいの状態にまで持ち込んだ。向こう側にあるわずかなシワがあるのがどうしても取れなかったが、作業を続けるうちに自然となくなっていた。時間が経つうちになじんでくるのかもしれない

なかなか難しいが、じつはこの作業、一発勝負ではない。一度タッカーで固定すればシートに穴が開いてしまうが、やり直したいときは引っ張りが足りないときであって、引っ張りすぎてやり直したくなることはまずない。そのため、やり直しても穴の開いた部分は引っ張りしろとして、後で切り取る部分になる。だから何度でもやり直しできるのだ。

よくみるといびつなところもあるが、満足な仕上がり

1時間ほど悪戦苦闘した後、シートの張替えは完了。シートが破れていた部分のスポンジが変形していたため、やはりその部分の形がいびつになってしまったが、ぱっと見た感じでは新品同様といえる仕上がりになった。

角の部分は折り重ねてステープルで固定する。この部分の処理が下手だと折り目がシートの表側にも出てしまうので、気を遣うところだ

最後は余った表皮をハサミで切り取れば完成だ

ぱっと見たところは新品同様と言っていいだろう。後ろ端(写真では右側)の形状が少しいびつになってしまったことが悔やまれるが、いわれなければ気がつかない程度だ

車体に取り付けてみたが、まだガソリンタンクも付けていないので、どうにも格好がつかない。しかし、ここまで来れば完成は目前だ

今回はとくにトラブルもなく、順調にレストア完了。費用も1,420円しかかからず、時すでに遅し……ではあるが費用を節約することができた。残るはチェーンなど細かいパーツの取付けと、タンクやシートカウルなど外装パーツの塗装のみとなった。

レストアの必須アイテムを紹介! 「タッカー」

今回使用しているタッカーは、事務用の一般的なステープラーより大きなステープルを打ち込むものだ。別名をステープルガンともいう。

事務用ステープラーのように紙を綴じる用途に使うこともできる。また、今回紹介した作業とほぼ同じやり方で、単純な形状のダイニングチェアの表皮を張り替えることもできる

なにか特殊で高価なものに見えるかもしれないが、ホームセンターに行けば500~1,000円程度で販売されているので、購入を躊躇する必要はないだろう。ただし、あまりに安いものはパワー不足の恐れがある。タッカーは内蔵されたバネの力でステープルを打ち込むので、使う人がどう頑張ってもパワー不足を補うことはできない。バイクのシート用に購入するなら、あまりに安いものは避けた方がいいだろう。

ここまでのレストアに費やした金額

品名 金額
車両購入(スズキ「ウルフ50」) 2万円
パーツリスト 500円
エンジンガスケットセット 4,719円
ピストンピン 594円
ピストンピンベアリング 379円
スナップリング 71円
パーツ送料・代引き手数料 874円
クランクベアリング(2個) 605円
オイルシール(4個) 981円
点火プラグ 276円
ボルトなど 65円
中古キャブレター(送料込み) 4,430円
シリンダー、ピストンセット(送料込み) 1万4,500円
サビ取り剤 2,890円
プラサフ 699円
フロントフォークシール 1,490円
フロントフォークダストカバー 1,080円
フロントフォークガスケット 216円
フロントフォークOリング 150円
フロントタイヤ 4,938円
フロント用チューブ 1,025円
リアタイヤ 5,800円
リア用チューブ 1,324円
スプレー塗料 1,190円
フェイクレザー 1,420円
合計 7万216円