遅いペースながらも一歩ずつ進んでいるスズキ「ウルフ 50」のレストア。作業はいよいよ足回りに移り、今回は前後のサスペンションをオーバーホールする。といってもそれほど大変な作業をするわけではなく、可能な範囲で分解・清掃・組立てをするだけだ。

「ウルフ 50」の現在の状態。すでにエンジンを搭載してあるので、レストア中というより修理中という感じだ

リアサスペンション部分をよく見ると、非常に凝ったつくりになっていることがわかる。汚れやサビもひどい

まずリアサス。「ウルフ 50」のリアサスはリンク式サスペンションという非常にぜいたくなサスペンションが装備されている。当時のスズキでは、これをエクセレントフルフローターという名前で呼んでいたが、ホンダのプロリンク、ヤマハのモノクロス、カワサキのユニトラックとともに、年配のライダーにとっては懐かしい響きだろう。

こうしたリンク式サスペンションは数多くの軸受け(あるいはベアリング)が使われており、その部分が摩耗やサビでがたつきが発生してしまうことが多い。早速、レストア中の「ウルフ 50」のリアサスペンションを分解してみると、驚いたことに非常に良い状態で、使用不能になっている軸受けはひとつもなかった。すでにオーバーホール済みとしか思えない状態だ。一応、すべて分解して各パーツを洗浄し、新しいグリスを充填したが、交換パーツはひとつもなし。思いのほか安く上げることができた。

リアサスペンションではショックアブソーバーも壊れやすいパーツで、内部に封入されているオイルが漏れていたり、ピカピカにメッキされているインナーシャフトにサビがあったりすれば交換しなければならない。しかし、この「ウルフ 50」はこの点も問題なし。外観はサビと汚れがひどかったが、オイル漏れもインナーシャフトのサビもなかった。

リアサスペンションを外した。しくみがわかるだろうか。スイングアームが少し動くだけで、ショックアブソーバーは大きく動くようになっている

分解した。構成パーツを並べてみるとこのように非常に数が多い。アームがアルミ製であることに驚く

ショックアブソーバーを下から見ると、ボルトを回すだけでバネのプリロードを調整できるようになっていた。本当に凝ったつくりだ

ショックアブソ―バーを分解するとき、思いつきで荷物の固定に使うラチェットタイダウンベルトを使ったら、非常にうまくできた

分解したショックアブソーバー。意外にも、まだまだ使える良い状態だった

すべてクリーニングして組み立てた。スイングアームは塗装をやり直してある

分解時に手で伸縮させてみたが、非常にスムーズで、オイルが抜けているときに起きる「ゴボゴボ」という、液体の中で泡が動くような感触もなかった。したがって、ショックアブソーバーも分解してサビと汚れを落としただけで完了とした。

フロントフォークの分解で悪戦苦闘

次はフロントフォーク。このパーツはリアサスペンションでいえばショックアブソーバーとスイングアームの働きを兼ねている重要なパーツで、定期的なオイル交換が必要だ。今回はオイル交換だけでなく全体を分解して清掃し、ゴムシールの交換も行う。

このサスペンションのリンクにはグリスを注入するリップルが設けられていたので、グリスガンでグリスを入れた

次はフロントフォーク。まずホイールやブレーキを取り外す

フロントフォークもまた、ぴかぴかにメッキされたインナーチューブにサビが出ていると交換が必要になる。しかもこのパーツは非常に高価で、バイクの中古車を買うときはインナーチューブにサビがないことを確認するのがセオリーになっているくらいだ。しかし、この点でもレストア中の「ウルフ 50」は良い状態で、インナーチューブはまるで新品のよう。やはり、リアサスペンションともどもオーバーホールされているのだろう。

これならオーバーホール作業も簡単……と思いきや、意外なトラブルに見舞われた、ゴム製のシールを交換したいのだが、がっちりと固着して外れないのだ。このパーツはゴム製といっても金属の芯が入っており、これが錆びてアルミ製のアウターチューブにがっちりと固着しているらしい。

通常なら数秒で取り外せるシールを、1本につき30分もかけてどうにか取り外した。アウターチューブがダメになってしまうのではないかとひやひやしたが、慎重に作業して、なんとか事なきを得た。

ステアリングステムからフォークを抜く。サビもなく、きれいな状態だ

ステアリングステムはベアリングが痛みやすいので、分解して点検する

ステアリングステムのベアリング。傷みはあったが、まだ再利用可能と判断してクリーニングし、組み付けた

フロントフォークのシールを取り外すのに30分もかかってしまった。サビで完全に固着しており、このように破壊してようやく取り外した

フロントフォークの構成パーツ。クリーニングして元通り組み立てる

フロントフォークの分解・組立てには専用工具が必要になる場合があるが、このフォークは一般的なソケットレンチだけでできる構造だった

ところで、フロントフォークを組み立てるときは、オイルの量を正確に計って入れる必要がある。その数値は、本来ならサービスマニュアルで確認するのだが、今回はサービスマニュアルを購入していない。しかし、インターネットで少し検索するとすぐに数値を知ることができた。さまざまな趣味にいえることだが、インターネットが普及したことで、バイクのレストアも本当に楽になった。

これで前後サスペンションの作業は完了。主要なメカニズムはほとんど終わり、完成が近づいてきた来たことを実感する。次回は前後タイヤを新品にして、そのあとは外装やシートなど外観をキレイにする作業を残すのみだ。

レストアの必須アイテムを紹介! 「計量カップ」

フロントフォークには正確に計ったオイルを入れるが、ここで使うのが計量カップ。整備用のものもあるが、100円ショップで売っている台所用品で十分だ。計量カップはミッションオイルを入れるときにも使えるほか、計量以外の用途でも、ラジエーター液をちょっと追加するといった場面で便利に使える。

フロントフォークのオイルは、油面の高さを計測する方法で調整した方が正確だが、入れる前に計量する方法でも実用上は十分といえる

ここまでのレストアに費やした金額

品名 金額
車両購入(スズキ「ウルフ50」) 2万円
パーツリスト 500円
エンジンガスケットセット 4,719円
ピストンピン 594円
ピストンピンベアリング 379円
スナップリング 71円
パーツ送料・代引き手数料 874円
クランクベアリング(2個) 605円
オイルシール(4個) 981円
点火プラグ 276円
ボルトなど 65円
中古キャブレター(送料込み) 4,430円
シリンダー、ピストンセット(送料込み) 1万4,500円
サビ取り剤 2,890円
プラサフ 699円
フロントフォークシール 1,490円
フロントフォークダストカバー 1,080円
フロントフォークガスケット 216円
フロントフォークOリング 150円
合計 5万4,519円