2018年は副業元年と言われているが、実際には副業をしたくても、何をどうすればいいのか分からないという人が多い。そこでオススメなのが「自分の得意なことを仕事にしてしまう」というパターン。この連載では、これまで起業の相談に応じてきたクライアントの中から、スキマ時間とこれまでの経験を活かし、自分の得意なことでそこそこの収入を生み出している人を紹介していく。
9回目となる今回は、元サラリーマンで、趣味の木彫りを副業にして、とうとう脱サラまでしてしまった土田大二郎さん(30代)を紹介する。木彫りと言っても、土田さんの作品はいわゆる「熊がシャケを捕まえている」ような「物々しい粗削りな作品」ではなく、手で彫ったとは思えないほどなめらかなカーブと、かわいいデザインから生み出される、まるでぬいぐるみのような作品が特徴だ。
きっかけは過去の経験
「子どもの頃に患った病を精神的に支えてくれたのが木彫りでした。10代後半から独学で木彫りを始め、やがて20代後半の頃に自分の作品がある仏師の方の目に留まり、展示会に誘われたことがきっかけで、本格的に取り組むようになったのです」
その頃から「もしかしたら仕事になるかも」と感じ始めたと土田さんは言う。もちろん、だからといってすぐに作品が売れだしたわけではない。仕事になるまでには長く険しい道のりがあった。
「ブログを工夫しましたね。作品の写真もたくさん載せましたし、作っている過程も記事にしました。そうすることで少しずつ興味を持ってくれる人が増え、やがてファンの方が増えてきたイメージです」
考えた末の脱サラ
土田さんは、今では作品の制作販売以外にも、木彫教室や通信講座も展開しているが、それらも集客できるようになるまでは苦労の連続だったと言う。そもそもカリキュラムを形にすることから難しかったらしく、初心者向け体験キットのお届けでさえ内容を少し難しくしすぎてしまったのだそうだ。
また当時は、本業との掛け持ちで木を彫る時間を取るのもやっとだったことから、体調も崩しがちに。このままでは良くないと一念発起し、少しずつ作品のオーダーが入り始めた頃に思い切って脱サラ。それからは木彫り一筋で、今では月に20万円程度の収入になっている。
木彫りの楽しさが強さをくれた
ここまで大変な思いをして木彫りを仕事にするそのエネルギーはどこから来るのか、土田さんに聞いてみた。
「お客様を笑顔にしたいという気持ちを常に持てていること、それと周りに反対されても諦めず、上手くいく方法を模索して実践してきたからだと思います」
副業でも起業でも、周りからの反対は多かれ少なかれ必ずと言っていい程ある。そこで諦めないという気持ちを持てるかどうか、これが好きなことや得意なことを活かしている人とそうでない人の違いなのかもしれない。
「とはいえ、いまだに全部一人でやっているので、制作ばかりに時間を割けないですし、講座の準備やブログでの情報配信など、時間の管理はまだまだ難しいです」
それでも楽しく木彫りを仕事にしている土田さん。サラリーマン時代よりもずっと充実して生きがいを感じていると言う。また最近では、土田さんの活動がメディア関係者の目に留まり、地元のテレビ局やラジオでも取り上げられ、知名度も上がった。
成功の秘訣は自分とお客様の幸せ
「作品を通じてお客様が感動してくださったり、講座では生徒さんが抱えていた悩みがほとんど解決できたり、木彫りを通して人生を楽しんでくださっているところにやり甲斐を感じています。あと、まだまだ自分が求める作品を生み出せていないので、もっと見る人が癒される作品を、さらにたくさん制作していきたいと思っています。そして僕自身が過去に病気になった時に木彫りに癒され救われたように、一人でも多くの方に木彫りを通して癒しをお届けしていきたいですね」
土田さん自身の過去の経験が、今の作風に影響しているのだろう。どの作品を見てもそこに「癒し」があり、人気の秘密がうかがえる。
今回筆者が感じたことは、土田さんが心の底から木彫りを楽しみ、そしてそれを通じて本気で一人でも多くの人に癒しや安らぎを届けようとしていること。
これは好きなことや特技を活かして副業をする際に、目に見えるノウハウとは別の部分で絶対に欠かせないこと。そもそも本人が楽しんでいないところに、お客様は集まらない。自分もお客様も幸せになれるビジネスモデル、ここに成功の秘訣がある。
戸田充広
趣味起業コンサルタント。全日本趣味起業協会代表理事。
趣味起業のパイオニアとしてこれまで300名以上の趣味起業家を育て、現在は全国でのセミナー、講演活動のほか、数々の講座でさらに趣味起業家を育て続けている。著書に『稼げる! 自分に合った副業が必ず見つかる! 副業図鑑』(総合法令出版)、『決定版! 趣味起業の教科書』(マガジンランド)、『消費税率アップから家計を守る! サラリーマンのための安全「副業」のススメ』(すばる舎)などがある。「全日本趣味起業協会」