経済キャスターの鈴木ともみです。連載『経済キャスター・鈴木ともみが惚れた、"珠玉"の一冊』では、私が読んで"これは"と思った書籍を、著者の方へのインタビューを交えながら紹介しています。第13回の今回は、大寄昭生さんの『「保険」は比べて買いなさい!』(角川マガジンズ)を紹介します。

大寄昭生さんプロフィール

(株)ワコールに勤務後、プルデンシャル生命保険(株)、コンサルティング会社を経て、(株)ライフサロンを設立し代表取締役に就任。現在はライフサロンチェーンの本部の運営に注力している。自らの経験を生かし、保険会社や保険セールスマン向けの営業研修や能力開発セミナーを多数実施。これまでに教育指導した人数は5,000人以上に上る。人材育成の第一人者として、保険業界以外からも注目されている。

『「保険」は比べて買いなさい!』(角川マガジンズ、大寄昭生著、定価1,000円+税)

先日、保険のセールスレディの方々にお会いした際、こんなことを言っていただきました。「いつも『東京マーケットワイド』を見てますよ。株式の動きを勉強してます!」と。

実は、これまで個人投資家や、証券・銀行関係者の方々からそのようなお声がけをいただくことはありましたが、保険業界の方からは初めてのことでした。それもそのはず、今や「資産運用型の生命保険」も登場し、保険業界の方々もマーケット情報を得て、投資知識を高める時代。マーケット情報番組をチェックしているのは何の不思議もありません。

逆に、マーケットに関わる人たちこそ、保険の世界についてほとんど何も知らない場合が多いのではと感じます。「保険」について無関心のままで、保険に入っていても、最初に出会ったセールスの方に全てお任せという状態。実はそうした状況は、契約者側にとっては、とても不利なことなのではないでしょうか? その答えが今回ご紹介する『「保険」は比べて買いなさい!』で解説されています。

今、保険業界が大きく変わり始めています。保険業界の主役はこれまでは保険会社でした。言葉は悪いかもしれませんが、契約者が保険に無知であることをいいことに、自分たちに都合のいいやり方や商品を押し付けてきた側面も少なからずあったのではないでしょうか。
しかし、これからは契約者である皆さん自身が主役です。保険会社も自ら動き始めた契約者の意思を無視できなくなってきました。既得権を握っている人たちからすると困ることでしょうが、業界全体とすれば、この流れは好ましいことだと思います。(中略)
単純に保険料を比較して、安い商品を選ぶことではなく、契約者自身が「比べる力」をつけること。これこそが本当の意味で保険料を安くすることにつながるのです。
一つ目は保険金額を下げること。もし今5000万円の保険に加入していたら、それを3000万円に減額すれば間違いなく保険料は下がります。
二つ目は、今の保険についている特約でとくに必要でないものを解約したり、場合によっては保険そのものを解約してしまうことです。(中略)
3つ目は、保険会社や商品、そして支払い方を比較して、より合理的な方法で加入することです。これはやってみると予想以上に保険料を下げる効果があることがあります。
しかし、どの方法を取るにしても契約者自身が「比べる力」をしっかりとつけたうえで行いたいものです。でないと結局は人任せになってしまって、いざというときに、かえって困ったことになるかもしれません。
仮に、すべての人が保険を「比べる力」を身につけることができれば何が起こるでしょうか。それは、「保険料水準が、今よりも大幅に安くなる」ということです。保険に加入するときに、比較して加入することが当たり前になってくれば、多くの保険会社は、これまで以上に企業努力をして保険料そのもののコストを下げていかなければ契約者から選ばれなくなるでしょう。そうなれば必然的に保険料水準そのものが下がっていくのです。(「はじめに」より抜粋)

ただ「保険を比べる」と言っても、素人の私たちには困難な技です。そこで、著者の大寄昭生さんは、「保険を比べて買える場所=保険ショップ」の展開を広めているのだそうです。大寄さんに具体的に伺いました。

「私は大学を卒業後、アパレル業界に入りました。その後、友人からの誘いで外資系保険会社での営業を経験し、専属代理店での営業、コンサルティング会社でJA共済や大手生命保険・損害保険会社へのコンサルティングや営業指導などを行い、現在は、複数の保険会社の商品を取り扱う「保険ショップ」のフランチャイズチェーン本部を運営しています。20年近く保険業界を見てきましたが、他の業界と比べて、まだまだ閉鎖的であるというのが実情です。そもそも保険は入るものではなく、「買う」ものです。例えば、私たちは電化製品を家電量販店で買うわけですが、様々なメーカーの製品の中から、どれが一番安くて優れているのか、自分たちで選択することができます。ですので、電化製品でも食料品でも、メーカーは消費者に選ばれるために、コスト削減など必死の努力を重ねてきています」

「しかし、保険の場合、一社の保険会社の営業担当者が勧めてきた商品を言われるがままに、入ってしまうケースがほとんど…。それは「保険」に入るという、まるでスポーツジムにでも入会するかのような気軽な気持ちがあるからです。保険料の支払い合計額は、人生最大の買い物と言われる「マイホーム」に次ぐ大きな買い物です。それなのに、比べることなく、トータルの保険料も計算せずに安易に保険に加入してしまうことに抵抗を感じないのは、やはり問題だと思います。「保険ショップ」はその問題を解決し、皆さんが「保険を比べて選ぶ」そのサポートをしていく場所なのです」

大寄昭生さん

実は、私自身、ファィナンシャルプランナーでありながら、保険に関する知識はほとんどありません。相談料が無料であるという「保険ショップ」の存在についても、初めて知りました。薬を選ぶ際に、薬剤師が必要なように、専門知識が必要な「保険」についても専門的なコンサルタントの力を借りたいもの…。それを実現してくれる「保険ショップ」については、第3章に詳しく紹介されています。

ひと口に保険ショップといっても3つのタイプの店があります。
まず一つ目が、保険会社直属の保険ショップです。(中略)保険会社直属なので扱っている保険商品はその保険会社の商品のみです。
自分にぴったり合う保険商品を選びたいというよりも、その保険会社が好きで、その保険商品をどうしても欲しいという人向きのショップと言えます。
二つ目のタイプが、パンフレットを置いているパンフレット中心型保険ショップです。(中略)しかし、パンフレットが同一条件で書かれているわけではないので、保険のプロである私でも、その人にぴったり合う保険をパンフレットだけで比較して選ぶことはできません。
3つ目のタイプが、コンサルティング型保険ショップです。複数の保険会社の保険商品を扱っているので、保険商品の比較が容易にできます。(中略)保険に関してわからないことを保険のプロにじっくり相談ができ、通常は相談料はかからず。無料で相談にのってくれます。(中略)相談に行くタイミングは、見直したいと思ったとき、初めて保険に加入したいと思ったときなどいつでも大丈夫です。(中略)保険を選んだらその場で契約手続きができることも保険ショップの特徴です。(中略)契約した後もさまざまなサポートが受けられ、たとえば、契約した後に保障内容を一部忘れてしまったときでも、加入した保険ショップに行けば何度でも説明をしてもらうことができます。(第3章「保険を比べて買える場所」より抜粋)

私もぜひ一度「保険ショップ」に足を運んでみようと思います!

このように著者である大寄さんは、売り手市場であった「保険業界」を、まさに買い手市場へと導く先駆者的な存在です。同書では、その大寄さんが私たちにわかりやすい保険の知識をまとめてくれています。

突き詰めていくと、どんな保険も3つのタイプのいずれかに当てはまるのです。保険業界でも3つの保険は共通用語。(中略)保険は「定期保険」「養老保険」「終身保険」という3つのタイプで成り立っています。保険を見るポイントは保険金ですが、3つの保険はすべて亡くなるとたとえば1000万円の保険金を受け取ることができます。また、保険には期間があります。(第1章「保険の種類は実はたったの3つ」~保険の種類は実は3つしかない、より抜粋)
もともと、これら3つの保険は単品で売られていたわけでなく、さまざまな組み合わせによって売られていました。その組み合わせのパターンは、時代の背景とともに変遷を遂げています。「1960~1980年ごろ」「1980~1990年ごろ」「1985~2000年ごろ」「2000~2008年ごろ」「2008年~現在」の6つの時代に分けて、当時の主力商品を例に説明していきましょう。(中略)【2008年~現在】2008年からは、保険会社が比較を前提とした商品を出してきています。その商品は、収入保障保険のリスク細分型というものです。リスク細分型とは、健康な人、たばこを吸わない人など、一定の条件をクリアすれば保険料が安くなるというものです。また、医療保険には先進医療に対応した特約も出るなど、さまざまな新しい商品が登場しています。(中略)
消費者にとっては、「保険を比較して買う」ということが、いよいよ大事になってきたともいえるのです。(第1章「保険の種類は実はたったの3つ」~時代とともに3つの保険のさまざまな組み合わせが生まれた、より抜粋)

上記の「第1章 保険の種類はたったの3つ」、それに続く「第2章 保険を「比べる」力をつける」を読めば、保険に関する基本的な知識を得ることができます。

また、個人的に関心を持ったのが「第2章 保険を「比べる」力をつける~商品別比べるポイント【学資保険編】」です。20代~40代を中心とする現役世代にとっては、役立つ知識と言えそうです。

どうしても子どもの教育費の準備のためとなると学資保険ということになりがちですが、必ずしもベストな選択とは限りません。最近、人気となっているのが低解約型終身保険を学資保険のかわりとして使う方法です。低解約型終身保険の期間を10年とか15年など短く設定することで、学資保険よりも有利になるケースがあるからです。(中略)何も比較しないで、昔から人気だった郵便局(かんぽ生命)の学資保険に入ればいい、ということは改めるべきです。(「第2章 保険を「比べる」力をつける~商品別比べるポイント【学資保険編】」より抜粋)

やはり、「保険」は細かく比べてみないとわからないものだなぁと、つくづく感じます。 その「比べる力」の効力について、最後に大寄さんに伺いました。

「インターネットが普及し、保険会社の競争が激しくなったことで、だんだんと自分に合った保険を選べる時代になってきました。皆さんが徐々に「比べる力」を身につけてきた結果と言えます。ただ、まだまだ「保険」業界については、商品も複雑でよくわからないし、セールス営業がしつこいなど、ネガティブなイメージが払拭されていません。これでは、業界が淘汰されることなく、変わることもないでしょう。現在、日本では、民間の生命保険、損害保険、各種共済などへ、年間約50兆円もの保険料が支払われています。日本の税収は約42兆円ですから、それよりも大きな金額を私たちは保険市場に投入しているのです。しかも自分の意思で支払っている。もし誰もが「比べる力」をつけ、自分の意思で保険商品を選ぶようになれば、保険料を5%は引き下げることができるでしょう。それは、2兆円以上ものお金を別の消費に回せるということです。そう考えると、「比べる力」は日本経済に大きな影響を及ぼす原動力になり得るわけです」

なるほど。私たち一人ひとりの「比べてみよう!」という意識改革が、巡り巡って日本経済の底上げにもつながっていくのかもしれません。同書を読み終え、そのようなところまで思いを馳せることができました。

まさに、自身の人生、ライフプランの計画&見直しをする上で、欠かすことのできない必須の一冊!です。

『「保険」は比べて買いなさい!』

◆はじめに
◆プロローグ
◆第1章 保険の種類は実はたったの3つ
◆第2章 保険を「比べる」力をつける
◆第3章 保険を比べて買える場所
◆第4章 保険ショップの賢い使い方~ストーリー編~
◆第5章 事例で見る保険の比べるポイント~ケーススタディ編~

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執筆者プロフィール : 鈴木 ともみ(すずき ともみ)

経済キャスター、ファィナンシャルプランナー、DC(確定拠出年金)プランナー。 中央大学経済学部国際経済学科卒業後、ラジオNIKKEIに入社し、民間放送連盟賞受賞番組のディレクター、記者を担当。独立後はTV、ラジオへの出演、雑誌連載の他、各種経済セミナーのMC・コーディネーター等を務める。現在は株式市況番組のキャスター。その他、映画情報番組にて、数多くの監督やハリウッドスターへのインタビューも担当している。