「ピロ! ピロ! ピロ! 」。携帯電話でセットしておいたアラームがなったのは、午前4時である。ちなみに黄山山頂でも携帯電話は使用できる。今の時代、何かの時に海外で頼れるのはパスポートと携帯電話。これさえあれば、何ごとも乗り切れるのである(たぶん)。

さて4時に起きて、窓の外を見ても、晴れているのか、曇っているのかさっぱりわからない。この時期(12月)の黄山の日の出は6時半ぐらいなので、外はまだ真っ暗。しかし、黄山に来たからには日の出を見ないと始まらない。雲海を見たければ、やはり早朝が一番なのである。

というわけで、5時に出発! そして真っ暗な中、懐中電灯片手にまた、延々と続く石段を上がったり下がったり。前日からかなりネガティブな気分に浸っている僕としては、もういい加減、帰りたくなっていた。だが、帰るにしても歩くしかない。というわけで、息はぜいぜい、膝はガクガクしながら、排雲亭や飛来石など、いくつかの見所の脇を通ったようだが、真っ暗で何も見えないまま歩くこと1時間。ようやく空がほんのり明るくなってきた。

この写真、かなり明るく写っているが、実際にはもっと暗い。かなり長時間露光して撮っている。それでも、前日より天気は良さそうで、少しずつ見えてくる景色はやはり美しい。ようやく僕の気分にも一筋の光が差してきていた

この朝の目的地、標高1,800mを超える三大主峰の1つ、光明頂山頂に到着。だいぶ明るくなってきた。山の向こうに広がる雲海は感動。黄山に来て初めて、「来て良かったかも(まだちょっと不安)」と思えるようになってきた

黄山2日目、すばらしい朝日を堪能

「そろそろ日の出ですよ」とガイドさんが言う頃には、狭い光明頂の頂きは人だかりになっていた。強烈に寒かったのだが、澄み切った空気と、滅多にしない早起きのおかげで爽やかな気分。そして、いよいよ雲海の向こうから日が差してきた時には、中国語らしき大歓声が上がった。

(左)日の出の瞬間には、周囲から大歓声が。僕は海の近くに住んでいるので、海から登る朝日はよく見ているが、山の頂、雲海の向こうから昇る朝日はまったく違った雰囲気(上)ものすごーく寒いのだが、寒さを感じさせないぐらいきれいな景色。これを見るには、何としても黄山山頂で一泊する必要があったのだ

右を見ても左を見ても、素晴らしい景色が広がる。今回のガイドさん、山登りが趣味で中国各地の山を登って、黄山に行き着き、黄山のあまりの素晴らしさに、そのまま黄山のガイドになってしまったそうだ。その気持ちが少しわかる

雲海に浮かぶ黄山の山々。日ごろの荒んだ生活も心も(?)すべてが洗い流されるような気分に浸る。それにしても、朝日は露出が決めにくくって、写真を撮るのが難しい

というわけで、素晴らしい朝日を堪能。その後、この光明頂にあるホテル(山小屋といったほうがいいかも)で中国らしくお粥の朝食をとり、体も温まったところで、また石段を上がったり下がったり。だが、この日は快晴。一歩進むごとに変わる黄山の景色のおかげで、2時間ほど前とはまったく違って、うきうきしながら石段を歩く。

黄山は年間の約180日は雨という地域。そのうち天気が良くて、雲海が見える確率が高いのは12月~2月ぐらい。だから12月にやってきたのだ

そもそも雪のない地方で育った僕は、樹氷を見るのも初めて。この日は天気も快晴で、ようやく山歩きが楽しくなってきた

左上に見えるのが、朝日を見た光明頂にある気象台とホテル。光明頂を降りて向側にある「鰲魚峰」まで上ってきた

さらにこの山を下りて、次の山へと向かう。このように黄山歩きは、延々と石段を上がったり下がったりが続く

黄山は同じ岩を見ても、角度によってまったく違う景色に見えるとガイドさんから聞いていたが、その通り。前日と違って素晴らしく澄んだ空気のおかげで、ぜいぜい、ガクガクしながらも、気分はすこぶるいい。この頃には、前日の悪い印象は全くなくなり、黄山が素晴らしいところだと思えるようになってきた。

黄山の紹介で必ず登場するのが怪石「飛来石」。空から飛んできた岩が突き刺さったような形をしているが、どうやら下の岩とつながっているらしい

(左)前日はあれだけうらめしく思った雪も、この日は素晴らしい光景に見える。モノクロ写真に見えるかもしれないが、カラー写真である(上)こういう切り立った70以上の山の総称が黄山。少し歩くと景色が違って見えてくる。前日と打って変わって、ちゃんと遠くまで見えるから楽しい

この岩は、西遊記に登場する猪八戒の岩「猪八戒岩」らしい。そういわれれば、写真右上に猪八戒が座っているように見えなくもない

この山は左の岩が魚の形をしていることから「鰲魚峰」。右の岩は「親指の岩」とガイドさんは呼んでいた

早起きしたものだから、4時間以上歩いたと思うが、まだ朝10時前。前日は震えていた僕だが、この日は気温が急激に上がり、この頃になるとコートの前を開けて歩いていた。雪も解け始め、足元もしっかりと石段を踏みしめられるようになり、ずいぶん歩きやすい。とはいえ、すでに前日から合わせて10km近く歩いている。日ごろの運動不足を思い知らされた。

とにかく石段をひたすら歩く。この時間になると、朝ロープウェイを登ってきた人たちも増えてきて、狭い山道は結構混雑してきた

岩を抜けると、また絶景。黄山歩きはまったく飽きない(晴れていれば)。このあたり、夏の観光シーズンだと混雑で身動きとれなくなることもあるそうだ

気温が上昇してくると、雪が解けて、変わりに雲が下からどんどん湧き上がってくる。下から雲が押し寄せる様はなかなかの迫力

どうしてあんな所に松が生えるのか。松だってもうちょっと場所を選べばいいのにと思ってしまう

ガイドさんによると、どうやら前日、真ん中あたりに見える山の向こう側を歩いていたらしい。すでに山道を10km以上歩いている

こんな感じでひたすら歩き続けること6時間ぐらい。光明頂から鰲魚峰、蓮花峰といくつかの山を上がったり下がったりしてお昼を少し過ぎたあたりで、ようやく最終地点の玉屏峰に到着。さすがに、もう膝が笑うどころか、笑い転げて、黄山を転がり落ちそうなぐらいになっている。観光案内の看板を信じれば、朝からなんと10kmほど歩いているらしい。よく歩いたというか、歩かされたというか……。ちょうどお腹も空いてきたことだし、ということで、黄山の景色に後ろ髪を引かれつつも、前日登ってきたところとは別の玉屏ロープウェイで下山した。

ロープウェイ発着所近く、玉屏楼。ところで、中国でよく見かけるのが、岩に書いた文字。このセンスは、いまいち僕には理解できない

玉屏楼にある10大松の1つ「迎客松」。僕は雲谷ロープウェイから上り、玉屏ロープウェイを降りたが、逆のコースをたどる人が多いらしい。時間と天気を見て、コースを決めるのがいいようだ

お昼頃になると雲がずいぶん上まで上がってきた。「今日は暖かいから、午後はたぶん雲で何も見えません」とガイドさん。ちょうど下山する頃合いだったようだ

ロープウェイで雲の下の世界へと降りていく。本当に、黄山の上と下では、光も空気も違う世界にいるようだ

というわけで、今回の黄山旅行はここでおしまい。僕は一泊二日で黄山に登ったが、そこで見たのは、黄山のホンの障りだけ(らしい)。山歩きが好きな人なら一週間いても飽きないという。黄山の登山には特別な装備は要らない。ひたすら石段を上がり下がりするだけなので、歩きやすい靴があればOK。強いていえば、夜たいくつするので、本でもあれば万全かも。上海から屯渓、そして黄山とその近郊の村々を見れば、中国の経済成長の過程、奥深さ、いろんなものが見えてくるはずだ。

黄山を降りた後、少し寄り道して立ち寄った「宏村」。この宏村と近隣の西逓村は「安徽省の古民居群」として、世界遺産に指定されている

15世紀から17世紀の古民家が残る宏村は、黄山山麓から車で40分ほど。今でも人が住む村だが、一般に公開されている。なお、外国人が入村するには、許可書を発行してもらう必要があるので、ガイドと同行したほうが面倒がなくていい