人事担当者向けのイベントや勉強会を定期的に開催する「一般社団法人グローバル人事塾」が、さきごろ秋葉原のアーツスクエアで、人事担当者向けに採用をテーマにしたイベントを開催。

当日は、リクルート、ソフトバンク、メルカリ、ヤフーという国内大手企業の採用責任者4名が登壇し、自社の採用の取り組みと採用の未来について解説した。

本連載(全4回)では各社の講演内容についてレポートする。

採用はどう変わる?

最初に登壇したのは、リクルート 人材開発室 新卒採用部 菊地玲氏だ。

菊地氏は新卒で同社に入社して営業・人事で活躍した後、2015年よりIT人材の採用業務に携わり、2017年からリクルートホールディングス全体の新卒採用チーム約100名を率いている。

  • リクルート 人材開発室 新卒採用部 部長 菊地玲氏

2012年の分社化以降、リクルートは各社での採用活動を行っていた。しかし「30歳まで応募可能な新卒採用」「365日通年エントリー」など、各社の取り組みによる採用対象を広げ、多様な人材を獲得するために2019年4月入社以降の国内9社の新卒採用を統合すると発表している。菊地氏は、その最前線で活躍している。

菊地氏:リクルートは様々な事業を手がけていますが、人材・販促グローバルNo.1を見据え、二つの成長戦略を掲げております。一つ目は「国内事業の持続的な成長」、二つ目は「海外事業のさらなる成長」。特に一つ目においては、「中小企業の業務支援」に注力しており、企業の在庫管理や人材採用をITでスリム化できないか? と考えています。

また日本は、国民の3分の1が65歳以上の高齢者となり、労働力が不足して日本の経済活動が鈍化する「2030年問題」を迎えると言われている。

後継者不足や人手不足に悩む中小企業の支援を長年続けていた菊地氏だけに、強い危機意識を持っているようだ。この課題に向けた人材戦略として、リクルートの創業者である、故・江副氏の言葉を紹介した。

自分よりいい奴を採れ

「会社の発展には0→1の新しい価値創造と、1→100の価値の最大化の両立が必要であり、そのためには新しいアタリマエを創造できる人材が必要」と菊地氏は話す。

そのうえで、事業戦略・人材戦略に基づく採用だけでなく、異能な人材に巡りあう機会があれば、その人の構想を起点にした組織づくりも積極的に行っている。

これは、2012年以降の分社化の際、新卒採用にてIT人材を積極的に採用し、事業を拡大してきた経験も裏付けとなっているようだ。

リクルートの採用業務について

次に菊地氏は、具体的なリクルートの採用業務について話した。まずは、業務においての変わらない部分について。

同社は人材マネジメントポリシーとして「価値の源泉は人」と定義している。そのため採用では、バーチャルでもリアルでも現場社員に登場してもらい、リクルートの「リアル」を知ってもらうように菊地氏は心がけているそうだ。

一方で変えていることもある。データドリブンとITの活用で、「データドリブンとIT×業務経験と勘」と融合を試みている。この目的は二つあり、まず「人による判断のブレをなくす」、そして二つ目が「業務の効率化」だそう。

データドリブンとは
得られたデータを総合的に分析し、未来予測・意思決定・企画立案などに役立てること。特に、ビッグデータを対象とし、各種データを可視化して課題解決に結びつけることを指す。データ駆動型。
出典:デジタル大辞泉

菊地氏:今回の採用から、エントリーシート(以下、ES)の段階でアルゴリズムを入れてスコア化しています。以前はESの判断を人が行っていましたが、どうしてもブレは発生します。またESの量(選考希望者数)も多く、導入を決めました。

  • ESの文章をアルゴリズムで判断

導入にあたり、担当のメンバーが単なる「書類選考の足きり」として使わず、「0次面接」として活用できないかと考え、過去のESデータや、現在の評価ポイントを基にスコア化したそうだ。

しかし、例えば、過去のデータにないタイプのESの場合、それを正確に判断できるのか? という疑問は生じる。そのときは、経験を積んだ面接官が採点しているようだ。

菊地氏:全てをテクノロジー化するのでなく、人とのハイブリッドを実現したいですね。

また多数の人が関わる面接では、バックオフィスの業務量はかなり増え、作業も煩雑になる。以前のリクルートでは、システムを介さないでデータ管理を行っていたので、採用担当者の業務負荷は非常に大きなものだったそう。

菊地氏:面接用の資料作成など、ノンコア業務を圧縮し、面接結果の確認や、次の選考への調整などコア業務に注力する状態を作るためシステム化を行いました。この結果、1人あたり、1日のうち数時間の業務削減に成功し、メンバーからも「かなり楽になった」と聞いています。

組織のオープン化

次に変えたことは、業務だけではなく採用組織にも及ぶ。組織をオープン化したのだ。

菊地氏:きっかけは、技術の最先端で活躍するIT人材を採用するのに、採用する側が旧態依然のままで良いのか? という問いがメンバーから出たことです。エンジニアが使っているツールを自分たちでも使ってみようということになりました。

  • 組織のオープン化

些細なことで始まったが、運用により、業務での属人的なやり取りが可視化されたり、メンバー同士のフィードバックが増えたり、アウトプット面で質の向上が起こったりしたそうだ。

菊地氏:リクルートは組織が巨大化し、役職による階層単位での意思決定構造になっていたので、ツールを活用しフラットな情報交換・意思決定が素早くできたのは有効でした。また、根本的な問題を解消するため採用組織そのものや、働き方を変えることにチャレンジしています。

  • プロジェクト単位で組織が変化

従来は採用にあたり組織単位で動いていたが全て解放し、プロジェクト単位でメンバーをアサイン、若手のプロジェクトリーダーに権限委譲する組織へ変えたそう。

こうして若手の成長を促し、管理職は重要な決定事項にのみ関与することで会議体を少なくした。なお8月からの取り組みのため、成果は今後となる。

リクルートが求める人材像

リクルートの企業文化について説明するとき、代表的な言葉が「起業家精神」「圧倒的当事者意識」で、菊地氏も「この企業文化に共感してくれる仲間をより多くつくっていきたい」と語る。

菊地氏:入社後にその文化と触れる機会でいうと、たとえば「Ring」(新規事業提案制度)があります。既存のリクルートにない全く新しいサービスを「起業家」になりきって作ってほしいと考えています。また「圧倒的当事者意識」に関しては、本人の内発的動機を仕事に結びつけるため、「やりたいこと」「できること」を上司と部下で定期的に話し合ってミッションをアサインし、「人材開発委員会」を通じて複眼でメンバー育成の支援をしています。

最初の講演から、人材戦略とそこに基づく採用方法など密度の濃い内容が展開された。次回はソフトバンクの採用について紹介する。