9月6日に開催されたICCサミット京都2018「カタパルト・グランプリ」で、オリィ研究所 代表取締役CEO 吉藤健太朗氏が優勝した。カタパルト・グランプリとは、10名の起業家によるビジネスモデル・プレゼンテーションコンテストで、過去にICCの事業モデルコンテストに出場した起業家の発表を審査員が採点するもの。

  • ICCサミット京都2018「カタパルト・グランプリ」受賞式の様子

孤独解消が目的のロボット

自身も不登校の経験をもつ吉藤氏は、早稲田大学の創造理工学部在学中に孤独解消を目的とした分身ロボットの研究開発に取り組み、研究室を立ち上げた。

  • オリィ研究所 代表取締役CEO 吉藤健太朗氏

「孤独は欝や認知症の原因になるといわれています。自身の体験からもそうだと思います。本人もつらいですし、介護する周囲の家族などにも大きな問題です」と吉藤氏は分身ロボット開発の理由を語る。

そして開発されたのが、身体不自由度を解消する「OriHime」だ。これは遠隔操作可能なロボットで、吉藤氏もこれを使い国内外への出張業務をこなしているそうだ。

  • 分身ロボット「OriHime」

また吉藤氏は、「OriHimeを開発するうえで、大事な人物が親友の番田雄太です」とも話す。番田氏はオリィ研究所の社員で、幼い頃の交通事故で頚椎を損傷し寝たきりだったそう。

しかしOriHimeの開発チームに入り、在宅勤務しながらOriHimeを使って世界中で講演したり、秘書として吉藤氏の業務をサポートしたりし給与を得ていたという。

「番田は稼いだ給料で母親にプレゼントをし、今後は自分で会社を設立したいといっていました。しかし、残念ながら2017年の9月6日に永眠しました」と吉藤氏は悔しさをにじませながら語る。

しかし、番田氏が残した「身体が不自由でも様々な活動ができる」という実績は、多くの人に大きな刺激を与えたという。

ロボットが働き方を変える

「肢体不自由な子どもたちは世の中にたくさんいます。しかし彼らの就職率は10パーセント以下、80パーセントが施設に入っている状況でした。それが番田の活動が引き金となり、『自分たちでもできるかもしれない』とOriHimeのシステムを使って働く方々が増えています」と吉藤氏は変わりつつある状況を説明する。

また障害者だけでなく育児や介護をする人も、自分の身体を動かすことができない「環境障害」だと吉藤氏は指摘する。そうした社会的背景もあり、現在数十の企業がOriHimeを導入してテレワーク制度を整えており、例えばNTT東日本は60台強を導入し、活用しているそうだ。

ALS患者も利用

「この話は、(健常者である)皆さんにも他人事ではありません。ALS(原因筋萎縮性側索硬化症)という病気をご存知でしょうか? 誰でもなりうる原因不明の難病で、発症すると3年以内にほぼ身体が動かなくなり、人工呼吸器がないと呼吸もできなくなります」と吉藤氏は別の健康問題を提言する。

全国1万人の患者の中で、人工呼吸器の利用者は3,000人もおらず、残りは利用を拒否するそうだ。その理由には、「家族へ迷惑をかけたくない」「自律の欲求」「恥の感情」など(筋萎縮性側索硬化症患者の心理 人工呼吸器装着の意思決定より)がある。

ALS患者は身体を動かせないが、意識はハッキリしている。この問題を解決するため、吉藤氏はOriHimeを視線(眼球の動き)だけで操作できないか? と考えてALS患者と協力し、視線文字入力装置「OriHime eye」の開発を進めたという。

  • 視線文字入力装置「OriHime eye」

「ALS患者の開発仲間は、(唯一動かせる眼球で)OriHime eyeを使い、周囲を見渡すことが可能になりました。病気が進行して絵筆を持てなくなった患者さんの中に、OriHime eyeを使い絵を描いている方もいます」と吉藤氏は開発の成果を報告する。

なおこの患者は絵を描くだけでなく、病気が進行し呼吸器をつけた状態だが、OriHimeを使い在宅勤務し給与を得ているという。

OriHime eyeの価格は45万円(非課税対象商品)。保険適応で4万5,000円となる。

「先ごろ、新たに『OriHime-D』を発表しました。身長約120cmと大きく(オリジナルは20cm)、視線で遠隔操作できるので、患者さんは何かをしてもらう立場から、自分で何かをする立場に変われます。将来は自分の介護を自分で行う未来がくるかもしれません」と吉藤氏は力強く話す。

また11月にはこのシステムを使い、ALSの患者さんが従業員として勤務するカフェ設立のプロジェクトもあるという。身体の不自由な方でも、会いたい人に会い、行きたい場所へ行く。最後まで人生を謳歌できる未来を目指したいとし、話を締めくくった。

医療、宇宙などのビジネスを10人がプレゼン

カタパルト・グランプリではこのほか、病院・製薬医療機関専門のクローズドSNS・グループウェア「Dr.JOY」、カンボジアにリゾートと大学キャンパスを融合させた都市を造る「vKirirom(vキリロム)」、人工流れ星でエンターテイメントとサイエンスの両立をめざす「ALE」、外国人教師の待遇改善を目指した語学習得サービス「フラミンゴ」、理系学生へのダイレクトリクルーティングサービス「LabBase(ラボベース)」、超高速送信周期超音波探査システムを開発した「AquaFusion(アクアフュージョン)」、次世代コミュニケーション体験「Hale Orb(ハレオーブ)」、マイクロニードルを開発する「シンクランド」、世界で子どもが売られる問題を解決する「かものはしプロジェクト」の発表が行われた。