グローバル人事塾がさきごろ、人事担当者向けに採用をテーマにしたイベントを開催。国内大手企業の採用責任者4名が登壇し、自社の採用の取り組みと採用の未来について解説した。

前回のソフトバンクに続き、今回はメルカリの人材戦略を紹介したい。

メルカリが目指す組織づくり

登壇したのはメルカリ 執行役員 唐澤俊輔氏だ。唐澤氏はPeople&Cultureという組織で、人事、労務、総務など同社の中で「人」に関わることを統括している。以前は、別企業のマーケティング領域で経営に関わっていたが、「経営の視点で人の成長を応援したい」という想いから、メルカリに参画した。

  • メルカリ 執行役員 VP People&Culture 兼 社長室長 唐澤俊輔氏

唐澤氏:メルカリでは「ミッション」と「バリュー」を大事にしています。「新たな価値を生み出す世界的なマーケットプレイスを創る」というミッションを掲げていますが、特に、日本経済がシュリンクする中では、価値のなかったもの・不要になってしまったものに、新たな価値生み出していくことの重要性が増してくると考えています。

Go Bold:大胆にやろう
All for One:全ては成功のために
Be Professional:プロフェッショナルであれ

上記メルカリの「バリュー」は唐澤氏によると、経営層だけでなく、多くのメンバーも日々の会話で使うなど社内での浸透度は非常に高いそうだ。また、特に「Go Bold」であることを重視しており、メンバーひとりひとりが失敗を恐れず大胆な意思決定をする組織になっている。

唐澤氏:People&Cultureグループですが、メンバーは60名前後で、様々なバックグラウンドの人材が揃っています。メルカリが世界的なテックカンパニーになっていくための採用や人材育成、人事制度づくりから、バリューやカルチャーを浸透させる活動などを進めています。

ちなみに人事の領域は一般的にHRと呼ばれるが、「人をリソース(資源)と捉えるよりも、人(=People)と捉えたい」という考えから、People&Cultureと名づけられたそうだ。

この後、マッキンゼーが提唱する「7S」の枠組みを用いてメルカリの組織を解説した。

メルカリの人材戦略

唐澤氏によると、メルカリは「7S」がカチッときれいに一致する組織だそう。

唐澤氏:組織としてバリューを中心に一貫しており、採用基準もバリューに基づいていますし、メルカリ独自の人事制度もバリューに則して設計されています。例えば、人事評価は「OKR(Objective and Key Result 目標管理手法の一つ)」で数値目標の達成度合いを評価しますが、それだけでなく日々の行動がバリューに合致しているかどうかも加味して総合的に評価します。

また昇給は無制限昇給制と呼ばれ、現在の給与の延長で昇給額を決めるのではなく、「今の市場価値」で絶対評価で決めている。

理由は「昇給額が画一的に決められるよりも、今の実力で評価した方が公平だと思うから」だそうだ。そのため、新卒の初任給も一律ではなく、個別で設定されており、内定期間中に実力を伸ばせば、入社前に昇給することもあり得るという。

唐澤氏:インターン時代に凄く成長したり、1年間海外にいて帰国したら変わったりする人材もいるため、この制度が最適だしフェアだと考えています。

メルカリは現状、多くの新卒を一括採用する会社でなく、通年で少人数採用する会社だ。そのため個人個人に向き合うことが可能なのだろう。

唐澤氏:制度としても、Go Boldに働ける環境を実現するため、社員の不安は極力解消しています。例えば無認可の保育園は保育料が高いので、認可保育園との差額分を会社が負担して社員がすぐに職場に復帰できるように配慮しています。また、All for Oneで社員全員で会社の業績に責任を持つために、インセンティブとして全社員を対象に株式報酬を付与することも計画しています。

また、「組織は変化を続けないと、成長し続けられない」という考えのもと、四半期ごとに会社の目標を変えるそうだ。プロジェクトベースで組織を変化させ、グローバルな視点が常に意識されている。社内会議はSlack上のみで行われるケースもあり、ある議論が突然始まり、その延長でプロジェクトが自発的に立ち上がるのも日常茶飯事だそう。

有名企業となった今も、スタートアップのカルチャーを色濃く感じるエピソードだ。

メルカリの採用・スタッフィング

メルカリにおいて採用は人事の仕事ではなく、全社の仕事としてとらえているそうだ。

唐澤氏:リファラル採用が全体の6割になります。そのため、社員は外にいる時は常に「誰か良い人はいませんか?」と周囲に話しています(笑)。バリューやカルチャーに合う人材を重視しているので、リファラルで社員が介在することでスクリーニングされ、基準から外れることも少ないと思っています。

現在、中途採用で毎月100名程度を採用しているため、会社全体で取り組まないと達成も難しいようだ。そのため、採用会食も上長承認不要で奨励されている。

唐澤氏:好きなところで、好きな店でどんどんやってくれと伝えています。お店の選び方も個々の常識に委ねています。「自分より優秀な人を連れてきて」と言っていますが、なかなかそうしたケースは多くないので、そこは課題かなと思っています。

面接時は、再三出ているバリューのフィット感を重視していて、どんなにスキルが高い人材でも、Go Boldが欠けると感じると、不採用になる。悩みどころだが、組織全体に影響するので、この基準がぶれないように徹底しているそうだ。

唐澤氏:採用活動を通じて、社員が「Go Bold」について考える機会を持つことも、効果があると思っています。

SNSによる社員の情報発信も奨励され、特にマネージャーにはSNSでの影響力も求められているとのこと。同社について聞けばきくほど、旧来の日本企業とは一線を画すると感じる。

メルカリの教育・研修

唐澤氏:現場のマネージャーは重要で、人を採用して終わりではありません。どう育てていくかが大切です。「人に一番投資する」と決めているので、例えば社内に英語講師が存在したり、外部勉強会も積極的に行くよう薦めたりしています。

まだ会社としても若く、制度設計も現在進行中のため、比較的現場でのOJTが多いとのこと。その一例として、エンジニア育成の一環で「Mercari Tech Research」を紹介した。数日間海外で現地のアプリを体験するなどのリサーチを行い、帰国後その内容を社内で共有し、技術やアイデアを参考にする取り組みだ。

インプットだけで終わりではなく、アウトプットの場までしっかり用意することが、メルカリらしいポイントだという。

そして最後に、メルカリの企業カルチャーについて紹介してくれた。

唐澤氏:創業のころから性善説の考え方で、これがメルカリらしさの本質だと捉えています。そのため、ルールは作らない。経営層は現場を信じる。この結果、現場の社員は自身の行動を常に自分で考え自分で決める必要があるので、日々成長できると思っています。

こうした考えのため、メルカリではチームビルディングのための会食も無制限、社員の副業も奨励するなど社員を信じる姿勢を貫いている。また信頼関係の前提となる、経営陣と現場が持つ情報はほぼ同じで、常にオープンな状態が維持されているそうだ。

次回はヤフーの人材戦略を紹介する。