麺と湯気の向こうに、世の中が見える……。連載第7回は、荻窪ラーメンの老舗「春木屋」。時代を越えて愛されてきた一杯が、1月、東京駅前に進出した。新店「荻窪中華そば 春木屋 八重洲店」に足を運び、井手隊長が「中華そば」(950円)と「昭和ミニカレー」(380円)を実食レポートする。
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東京駅徒歩4分! 荻窪のレジェンド「春木屋」が東京駅前・八重洲に待望のオープン!
荻窪の青梅街道沿いに店を構える1949年創業の「春木屋」。東京のラーメンを語るうえで欠かせない存在であり、1980年代には「荻窪ラーメン」の名を全国区へと押し上げた立役者だ。煮干しがじんわりと効いた醤油ラーメンは、当時を知らない世代にとってもどこか懐かしさを覚えさせる。流行がめまぐるしく移り変わる令和の時代にあっても、その人気は揺るがない。
その老舗が、今年1月16日、東京・八重洲に新店をオープンした。東京駅至近、再開発で活気づくエリアの一角。抜群の立地だ。
オープン直後から行列ができているあたりに期待値の高さがうかがえる。荻窪まで足を運ばなくとも、あの一杯が東京駅前で味わえるのだ。
暖簾をくぐり、迷わず「中華そば」と「昭和ミニカレー」を注文する。「春木屋」に来たなら、やはりまずは王道の一杯からだ。
煮干しの旨味がじんわりと効いたアッツアツの「中華そば」
丼が到着すると、表面を覆う油がきらりと光る。具はチャーシュー、メンマ、ネギ、ノリという潔い構成。過不足のない、いかにも「東京ラーメン」な顔つきだ。
スープをひと口すすると、まず感じるのはしっかりとした熱さ。油が蓋をしているから最後まで冷めにくい、「春木屋」らしいアッツアツ仕様である。煮干しの旨味がじんわりと広がり、ノスタルジックでありながら、決して古びていない。やはり他にはない味だと実感する。
麺は中太の縮れ麺。しっかりとした食感で、短めなのも特徴的だ。啜るというより、噛みしめる感覚に近い。スープとの絡みもよく、存在感がある。
究極のラーメンのお供「昭和ミニカレー」
そして忘れてはならないのが「昭和ミニカレー」。黄色い色合いはいかにも昭和の食堂を思わせるビジュアルだが、ひと口食べればダシの効いた奥行きある味わいが広がる。
スパイスで押すタイプではなく、あくまで優しく、ラーメンと交互に食べてちょうどいい設計。まさにラーメンのお供として完成された存在だ。
八重洲という土地柄、周囲はオフィスビルが立ち並ぶ。日々忙しく働く人たちにとって、この一杯はどれほど心強いだろうか。気取らず、変わらず、しっかり旨い。そんなラーメンが徒歩圏内にある安心感。これはこのエリアで働く人々にとって、間違いなく待望の出店だったはずだ。
再開発で近未来的な景観へと変わりゆく東京駅前。その一角で、戦後から続く味が湯気を立てている。時代が進んでも、人が変わっても、守られてきた味がある。八重洲店の一杯は、まぎれもなく「春木屋」そのものだった。
東京の玄関口に根を下ろした老舗の新たな挑戦。行列の先にある丼は、過去と現在を静かにつなぎながら、これからも多くの人の胃袋と記憶に刻まれていくのだろう。






