11月1日に発表された小田急電鉄の新ダイヤ(2018年3月中旬から運行開始)は盛りだくさんの内容だった。代々木上原~登戸間の複々線化の完成で速達列車のスピードが上がり、各駅停車も含めて列車増によって混雑が緩和され、着席機会も増える。快適性の向上だけでなく、京王電鉄と東急電鉄に挟まれた路線網を意識した戦略性も垣間見えた。

小田急電鉄の新ダイヤでの停車駅案内図(画像はすべて小田急電鉄提供)

今回は列車種別ごとに変更点を挙げ、その背景を考察してみよう。小田急線におけるダイヤ改正後の列車種別は、有料座席指定の特急ロマンスカー、乗車券のみで乗車できる快速急行・通勤急行・急行・準急・通勤準急・各駅停車の計7種類。乗車券のみで利用できる列車だけ数えると、京王電鉄と並び6種類となる。ちなみに東武鉄道は5種類、京成電鉄と西武鉄道の池袋線系統は7種類で最も多い。停車駅が多いと乗車チャンスが増える。停車駅を減らすと到着時間は早くなる。停車駅の設定は輸送サービスの根幹だ。乗車機会と速度アップは悩ましい。

特急列車の停車駅設定にしても、起点から終点までノンストップで走らせれば到着時間は早く、完璧なサービスといえる。起点駅から満席になれば利益も最大。しかし、すべての列車が起点駅から満席になるとは限らない。そこで、利用客の見込めそうな途中駅にも停車する。これは私鉄特急だけでなく、各方面の新幹線も同じ。いくら速度が速くても、乗客が少なければ走らせる意味がない。停車駅設定には鉄道事業者の考え方が表れるから興味深い。

新しい列車種別、停車駅変更、廃止される列車種別

小田急電鉄の新ダイヤの停車駅変更を挙げてみよう。

特急ロマンスカー

「スーパーはこね」

現在の下り2本から4本へ増便。停車駅は変わらず。小田急電鉄の最速、花形列車として、新型車両70000形と展望座席付きの50000形VSEが充当されると思われる。70000形、50000形はそれぞれ2編成のため、車両検査時の代走車両が気になる。製造年の新しさとしては60000形MSEが順当。しかし展望座席を優先するなら7000形。どちらもVSEの代走として「スーパーはこね」として走った実績がある。

「はこね」「さがみ」

向ヶ丘遊園駅と新松田駅の停車がなくなった。両駅ともに特急ロマンスカーの停車は消える。現在、向ヶ丘遊園駅と新松田駅はともに平日朝の下り2本、上りは朝と夜に2本ずつ停車。土休日は朝に下り2本、上りは朝1本、夜に2本停車している。もともと停車する列車の本数が少なく、スピードアップが目的と思われる。

「あさぎり」

停車駅変更はなし。もともと新松田駅は経由せずにJR御殿場線の松田駅に停車しており、これは継続される。松田駅停車は利用客のためのほか、運転士交替などの理由もある。

「モーニングウェイ」「メトロモーニングウェイ」

朝の上り特急ロマンスカーのうち、「さがみ」「えのしま」の一部が「モーニングウェイ」、「メトロさがみ」が「メトロモーニングウェイ」に。町田駅始発列車が相模大野駅・本厚木駅始発になるなど運行区間も延びる。一部列車が新たに海老名駅に停車する。

「メトロえのしま」

土曜・休日に新設。「えのしま」が停車する新百合ヶ丘駅と大和駅は通過し、江ノ島線の最速列車となる。なお、成城学園前駅は平日・土休日ともに東京メトロ千代田線方面の特急ロマンスカーの一部が停車し、新宿駅発着の特急ロマンスカーは停車しない。

特急ロマンスカーの停車駅一覧。向ヶ丘遊園駅と新松田駅が消えた

快速急行

平日朝は3本から28本に増発。これは同時間帯の一部の急行を格上げする形のようだ。急行から快速急行に格上げすると、向ヶ丘遊園駅・登戸駅・成城学園前駅が通過となる。そこで快速急行の停車駅に登戸駅を追加。向ヶ丘遊園駅・成城学園前駅は通勤準急と各駅停車の始発列車を増発し、各駅停車を8両から10両へ増強することで救済措置とする。

快速急行は多摩線にも新設され、栗平駅・小田急永山駅・小田急多摩センター駅・唐木田駅に停車する。多摩ニュータウンと新宿との間で競合する京王電鉄に対し、複々線区間の定時性と速達性の向上で対抗するようだ。

通勤急行

多摩線系統に新設される種別。多摩線内の停車駅は急行と同じ。新百合ヶ丘駅から小田原線に直通して新宿駅まで走る。小田原線内では快速急行・急行より停車駅が少なく、快速急行・急行が停まる登戸駅を通過。急行停車駅の経堂駅も通過する。多摩線内と新宿駅の速達性を重視すると割り切った設定だ。多摩線に新設される快速急行と合わせて、京王電鉄との対抗心を示す列車といえる。

急行

急行停車駅の経堂駅については、平日夕方の下りのみ通過となる。経堂駅の救済措置として、新宿駅から急行に乗った場合、代々木上原駅で千代田線からの各駅停車または準急に対面ホームで乗換え可能となる。

準急

新たな停車駅として千歳船橋駅・祖師ヶ谷大蔵駅・狛江駅を追加する。朝の上りは経堂駅を通過していたけれど、朝は後述の通勤準急に変わるため、全列車が経堂駅に停車する。準急は複々線区間の外側、各駅停車用の線路を進行する形になる。この区間を走行中に急行・快速急行・特急ロマンスカーに追い越されるとみられる。

通勤準急

平日朝の小田原線上り方面に新設される種別。停車駅は現在の準急と同じ。ただし、現在の準急が朝の上りのみ通過していた経堂駅には全列車停車する。新ダイヤの準急の停車駅は増えても、朝の上りだけは速達性を重視して残し、種別名を通勤準急とした。登戸駅で同時発車の上り快速急行があるため、各駅停車用の線路を走行するとみられる。

各駅停車

当然ながら各駅停車の停車駅に変更はない。快速急行の項で触れたように、急行運転時間帯が快速急行となり、急行停車駅の一部が不便になる。そこで成城学園前駅・向ヶ丘遊園駅始発の列車を増発する。代々木八幡駅は8両編成のみ対応するため、増発した10両編成の各駅停車はすべて千代田線直通となる。

ダイヤ改正には間に合わないものの、夏頃までに代々木八幡駅のホーム延伸工事が完了すれば、新宿方面の各駅停車もすべて10両編成になる。新宿駅に各駅停車で到着して、折返しの急行として運転、という運用ができるようになるため、この夏、あるいは来年春のダイヤ改正で変化があるかもしれない。

多摩急行 (廃止)

多摩線に快速急行、通勤急行を新設したため、交替する形で現行の多摩急行は廃止に。多摩急行は多摩線内から小田急線・千代田線に直通しており、JR常磐線に達するロングラン列車もあった。多摩急行の廃止にともない、千代田線への直通列車はなくなる。小田急電鉄によると、千代田線への直通利用者は多摩線内より複々線区間の各駅停車が停車する駅のほうが多いとのこと。

少なくとも多摩線から千代田線への利用者はいただろう。今後は快速急行や通勤急行で代々木上原まで乗り、千代田線の代々木上原駅始発列車に乗り換えることになりそう。もっとも、千代田線の始発列車に座れるなら、立ったままの直通より便利だといえそうだ。

利用者それぞれに異なる目的地がある以上、すべての人が等しく便利になるダイヤを作るのは至難の業だ。利用者の多いルートで速達性、直通性を高め、そのしわ寄せを受ける利用者には、乗換えを同じプラットホームで可能にしたり、各駅停車と速達列車の接続を工夫したりして対応している。小田急電鉄の複々線区間では、急行線と緩行線の対面乗換えができる駅、向ヶ丘遊園駅、成城学園前駅、経堂駅の使い方がポイントになる。

使いづらくて歯がゆいダイヤか、かゆいところに手が届くダイヤか。2018年3月のダイヤ改正以降、利用者はどう評価するだろう。