JR北海道が「当社単独では維持することが困難な線区」について報道発表を行ってから1年が経過した。そのせいもあってか、先週はJR北海道の路線維持に関する報道が多かった。北海道のリーダーシップへの期待も薄れ、国の支援も期待薄。沿線自治体には諦めムードが漂いつつあるように感じる。

先週のJR北海道路線の動向 (国土地理院地図を加工)

11月13日、「根室本線対策協議会」が会合を開いた。北海道新聞の記事「JR根室線『収支改善困難』 滝川-新得 沿線首長ら確認」によると、協議会は滝川市、赤平市、芦別市、富良野市、南富良野町、新得町、占冠村が参加しているという。会合には北海道運輸局、沿線の総合振興局、JR北海道が同席した。各自治体の実務担当者から試算が報告され、駅の無人化なと、できるだけ経費を削減しても、同区間の営業損益はマイナスという結果だった。つまり、存続させたいなら自治体の支援が必要となる。

同じく11月13日、札沼線(学園都市線)北海道医療大学~新十津川間の沿線4町長が会合を開き、バスを含めた代替交通機関を検討するとの意志を確認している。11月14日に北海道新聞が「札沼線沿線4町長、現状維持困難で一致 バス転換模索」と報じた。各町民の利用が少なく、観光誘客の試みも効果を確認できなかったという。

鉄道路線は沿線自治体に存続の意志がなければ、廃止へ向けて進んでいく。1日あたり列車1本のみの終着駅として知られるようになった新十津川駅も、ついに列車0本へ秒読み段階となった。今後は通学の便を考慮し、終着駅を石狩月形駅または浦臼駅とする案も含めてJR北海道と話し合いを進めるという。

11月14日の北海道新聞は日高本線の動向も伝えている。その記事「日高線代替、BRTなら100億円 コンサル報告 バス転換は3億円」によると、不通となっている鵡川~様似間について、沿線7町で形成する「JR日高線沿線地域の公共交通に関する調査・検討協議会」がコンサルタント会社に依頼した報告書がまとまったとのこと。日高本線に代わる交通手段について、線路部分を舗装するBRTは約100億円、線路を活用するDMVは約50億円、線路を使わない乗合路線バスは約3億円だった。整備期間はBRTと路線バスが数年。つまり2025年あたりまで。路線バスは約2年。交通手段の確保は緊急の課題であり、自治体が負担できる費用を考えると、乗合路線バスが最も合理的に見える。

11月16日、JR北海道は10月23日に行われた「第12回JR北海道再生推進会議」の議事録概要を同社ホームページに公開している。会議といっても、なにかを議決する内容ではなく、JR北海道の施策について委員が述べているだけ。ただの叱咤激励会だ。情報がJR北海道と道に閉じ込められるよりは、このような形でも共有されるほうがいい。しかし、道民や沿線自治体が知りたい情報は叱咤激励の内容ではなく、道とJR北海道が何をしたか、国はどう考えているかだと思う。

11月16日の毎日新聞の記事「JR北海道 自治体と深まる溝 路線維持困難公表1年」では、JR北海道と自治体の話し合いが進んでいないとして、各路線の進捗状況を紹介している。オホーツク圏活性化期成会の釧網線部会が各地の第三セクターを視察するなど動きを見せている中で、他の地域からは「先走りすぎだ」という声が上がる。協調して道や国と交渉したいという思惑があるようだ。

釧網本線は「SL冬の湿原号」「くしろ湿原ノロッコ号」「流氷物語号」など、JR北海道において観光列車が残存する路線であり、大手旅行会社も注目している。存続への温度が高い路線だといえる。鉄道による北海道1周ルートには欠かせない路線だ。

毎日新聞は11月17日にも「JR北海道 「北海道が主体的役割を」 維持困難公表1年」という記事を掲載した。「第12回JR北海道再生推進会議」を受けて、10月28日に北海道とJR北海道、北海道市長会、北海道町村会の4者会談が行われたという。そこでの道知事の態度、発言に対する自民党北海道議員の批判を紹介。ただし、道が水面下で各自治体にはたらきかけているという声も取り上げてバランスを取っている。とはいえ、後半に羅列された道知事の発言集を見れば、道の役割は調整役に過ぎず、積極的にリーダーシップを取っているようには感じられない。

これらの動向に対して、国はどう考えているか。これについては読売新聞の11月18日の記事「沿線、鉄道維持に国の支援求める声」で明らかになった。国土交通省鉄道事業課長への取材で構成されており、鉄道ありきではなく、地域にとって必要な交通手段について検討すべきという考え方が示されている。議論が深まり、「どうしても鉄道」というならば地域で持続可能な枠組みを作るべき。そうでなければ地域の実情に見合った交通手段を検討すべき。それが決まってから、国の支援策を検討するという立場である。

国鉄分割民営化によって、JR北海道には経営安定基金として6822億円が割り当てられた。しかし低金利によって運用益が目減りした。その手当がないと国を批判する声がある。しかし、実際には、

97年度から鉄道・運輸機構に優遇金利で貸し付ける制度が導入された。2011年度からは、2200億円の経営安定基金の実質的な積み増しが行われるなどし、これまで国からJR北に対し、計1兆3609億円の支援が実施されてきた。

と記述されている。道は国に支援を求めているけれども、JR北海道は国に対して、これ以上の支援要請について踏みとどまっている。その理由がこの支援金だ。鉄道事業課長もこれを踏まえ、「湯水のように資金を垂れ流せない」という考えだろう。このままでは国の資金をむさぼり続けた国鉄の累積赤字問題の再来になってしまう。

鉄道事業課長の発言は「地域」を強調するばかり。裏を返せば、国は国策として北海道の鉄道を必要としていないとも取れる。自治体の中には地域の旅客交通だけではなく、国土の基幹軸として、北海道の物流のため、あるいは北方への国防の一助として鉄道が必要という声も根強い。しかし、そこに国が重きを置いていないことがはっきりと示された形だ。「地域交通はデマンドバス」という交通白書の指南の通りかもしれない。

鉄道ファンの1人としては、路線の存続を希望したい。日本旅行が受託した観光列車モニターツアーも人気で、満足度も高かったようだ。しかし、それも鉄道路線があればこそ。国はリーダーシップを取らない。道は調整役。地域とJR北海道は解決策を見出せない。話し合いは膠着状態のまま。時間切れとなった場合、決断できる選択肢は、JR北海道の「廃止」だけとなっている。