鉄道事業法に則ったケーブルカーを運行する大分県別府市の遊園地「ラクテンチ」が、公式サイトにて貸切営業の実施を発表している。期間は7月29~31日の3日間。理由は別府市が企画した「湯~園地」を開催するため。覚えているだろうか。昨年11月、ケーブルカーの車内を温泉風呂にする動画で話題になった計画だ。やるのか? アレをやるのか!?
公約ムービー「100万再生で本当にやります! 別府市・湯~園地計画!」から。ラクテンチケーブルカーの車内がお風呂に! |
別府市は温泉数、湧出量ともにに日本一。そこで「遊べる温泉都市構想」をぶちあげた。「湯~園地」はその第1弾として計画された。「湯~園地」はラクテンチのほぼすべてのアトラクションに温泉を導入するという市長の野望だ。
昨年11月に公開された「湯~園地」のイメージビデオは、バスタオルを巻いた利用客がラクテンチ内を歩き回り、メリーゴーランドに湯船、ジェットコースターも湯船、ウォーターシュートも温泉シュート、観覧車のゴンドラも風呂になった。もちろんプールは温泉だ。中でも鉄道ファンを驚愕させた場面が「ラクテンチケーブルの車内も湯船」だった。
ここまでなら楽しいPR動画のままだった。しかし後半に別府市長の長野恭紘氏が登場し、「この動画が100万回再生されたら『湯~園地』を実現する」と宣言。にわかに信じられない光景が市長の公約となった。この動画はネットニュースやSNSで拡散され、なんと3日で100万回再生を突破する。まさか、"温泉ケーブルカー"が本当に実現するのか?
「こんなことできない、無理だ」とは言い切れない。かつて、和歌山県有田市の有田観光ホテルには、ロープウェイのゴンドラに湯船を設置した「宇宙アポロ風呂」が実在した。残念ながら有田観光ホテルは1990年に廃業してしまったけれど、ケーブルカーでも同じようなことをできるかも……。
別府市観光課に問い合わせたところ、残念ながら"温泉ケーブルカー"は実現しないとのことだった。理由は重量増と安全性を考慮したとのこと。ケーブルカーに湯船を敷き詰め、そこにお湯を満たすとかなり重くなり、運行に差し支える。また、車両の振動で濡れた体が滑ったり、転んだりすると危ない。同様の理由で、ジェットコースターなどの乗りものも温泉化はできないという。ただし、公約ムービーはCGではなく、実際に温泉を入れて撮影したそうで、かなり工夫したようだ。
動画の中で実現する乗りものとして、メリーゴーランド風呂は実現するという。また、鉄道ではなく通路をトレーラーで牽引する「湯~列車」が登場する。これは湯船ではないけれども、温泉を充填した温泉マシンガンを持って乗り込み、お湯をぶっかけ合って遊べるそうだ。写真のTOTOの湯船は、温泉マシンガンの「弾薬(湯)」補給用とのこと。なんだかおもしろそうじゃないか……。
公約の「湯~園地」を実施するにあたり、税金は投入しないという方針の下、開催資⾦はクラウドファウンディングで集められた。1億円の最終目標を掲げ、まずは1,000万円を目標とし、達成したら次の目標を設定するストレッチゴール方式とした。つまり、資金が増えれば温泉アトラクションも増える。
1億円には満たなかったものの、企業からの寄付もあり、支援総額は4,911万円。物資の寄付を換算すれば5,000万円は軽く超えている。もっとたくさんの寄付があれば、ケーブルカーの改修費用も……と思うけれど、そこに費用の大半を投入するより、たくさんの遊びを実現してくれたほうがいいかもしれない。
冒頭で紹介した通り、ラクテンチは「湯~園地」開催のため、7月29~31日に貸切営業となり、一般客の入場はできない。ただし、別府市が開催する「湯~園地」は誰でも参加できる。公式サイトで寄付金募集を継続しており、返礼品が入場券となる。大人1名8,000円で、12歳以下の子供1名まで無料。大人1名と12歳以下4名までのキッズセットは1万4,000円、大人2名と12歳以下4名までのファミリーセットは2万円。当日券なし。チケットの残数は公式サイトで確認できる。
それにしても、すごいじゃないか別府市。やるじゃないかラクテンチ。2008年に閉園問題があり、ケーブルカーも廃線では……と鉄道ファンを心配させた。あの頃に比べれば、ラクテンチが元気になり、別府市の役に立っている。本当に喜ばしいことだ。