「なにわ筋線」の整備合意に続き、大阪市内の新線計画が活発化している。

6月1日、新会社「大阪市高速電気軌道株式会社」が発足した。2018年春に予定される大阪市営地下鉄の民営化にあたり、地下鉄事業を継承する準備会社で、社員は5名、場所は大阪市交通局庁舎の一室と小規模なスタートだった。しかし、正式発足時には5,000人規模の鉄道事業者となる。まずは鉄道事業免許の移行手続きなど事務作業に着手する。民営化移行プロジェクトチームを法人化させたといったところだ。

民営化に向けた準備会社が発足した翌日の6月2日。MBS(毎日放送)の報道によると、大阪府知事の松井一郎氏が地下鉄中央線の夢洲(ゆめしま)方面延伸について、「IR誘致ができなくても、2025年大阪万博の開催に合わせて整備する」と語ったという。同じ日に行われた大阪府議会本会議では、大阪府政策企画部長が地下鉄中央線の延伸について、「万博だけでも鉄道は必要、暫定的になったとしても検討する」という趣旨の答弁をした。

夢洲の位置と鉄道延伸計画(国土地理院電子地図を元に作成)

夢洲は大阪市の西端、大阪湾淀川河口にある。ユニバーサルスタジオジャパンがある桜島地区の西側に浮かぶ、2つの人工島のひとつだ。北東が舞洲(まいしま)、南西が夢洲(ゆめしま)である。南東の咲洲(さきしま)には市営地下鉄中央線とニュートラムが接続するコスモスクエア駅があり、高層ビルの大阪府咲洲庁舎がある。舞洲は西側が公園・レジャー施設、東側が工場・倉庫街になっている。それに比べると夢洲の半分は未開の地。東側にコンテナターミナルがあるだけで、ほとんど空き地になっている。

夢洲は大阪府・大阪市などが2008年夏のオリンピックの招致をめざし、メイン会場に想定した場所だった。しかし夢は叶わず、開発計画も宙に浮いた。再び注目を浴びた理由は、大阪万博の誘致とIR(カジノを設置した統合型リゾート)建設構想だ。大阪万博は2014年に構想が始まり、2016年に大阪府から構想案が示された。IR建設構想もほぼ同時期の話で、2014年に大阪府知事が夢洲誘致案を示した。

大阪市はこの2つの構想を受けて、2017年2月に「夢洲まちづくり構想(案)」を発表した。既存のコンテナターミナルを発展させた「国際物流拠点」と、大阪の成長を牽引する「新たな国際観光拠点」をめざすとし、アクセス手段の強化として3つの鉄道ルートを盛り込んでいる。地下鉄中央線、JR桜島線(JRゆめ咲線)、京阪中之島線の延伸だ。

JR桜島線の延伸には約1,700億円、京阪中之島線の延伸は約3,500億円かかる。これに対し、地下鉄中央線の延伸は約540億円。他の路線と比べて低コストの理由は、コスモスクエアと夢洲を結ぶ夢咲トンネルに、すでに鉄道部分が作られているからだ。大阪オリンピックの誘致を前提に、約330億円かけて建設された。しかし道路部分のみ開通し、鉄道部分は未使用となっている。

大阪市は当初、これらの路線の整備費について、IR事業者に協力を求める方針だった。IRが実現すれば年間1,000万人の訪問が見込める。そのためには鉄道の整備が必要だからだ。しかし、IR事業者にとっては余分の負担となるため、他の地域に対して夢洲の魅力が薄くなるのではないかとの指摘もあった。大阪万博のテーマ「人類の健康・長寿への挑戦」に対して、IRの隣接を疑問視する声もあるようだ。IRへの風当たりは厳しい。

そんな背景もあってか、大阪府知事らが「IRなしでも万博のために地下鉄中央線を延伸する」と表明した。つまり「IR事業者の資金協力がなくても地下鉄を延ばす」という意図だろう。1970年に開催された大阪万博は大阪発展の起爆剤となった。当時、万博輸送のために建設された北大阪急行電鉄は、万博輸送の運賃収入だけで建設費を回収した。いまは移動手段が多様化し、夢洲は海上アクセスも使えるだけに、同じ奇跡は起こりにくいと思われるけれども、大阪万博開催への期待は大きい。

条件となる万博開催は、2018年に行われる国際博覧会事務局(BIE : Bureau International des Expositions)の総会で決まる。ライバル都市は国際博覧会事務局があるフランスのパリ、ロシアのエカテリンブルク、アゼルバイジャンの首都バクー。2025年大阪万博の誘致に成功すれば、JR桜島線や京阪中之島線の延伸も動き出すかもしれない。