福岡市地下鉄空港線の福岡空港駅と、JR九州の福北ゆたか線(篠栗線)長者原駅を結ぶ鉄道計画について、福岡県が「基礎調査業務委託業務」の公募を実施した。筑豊地域で10万人の署名が集まり、沿線自治体によって接続促進期成会も設立されていた。しかし、両駅を最短距離で結ぶルートは正解だろうか。博多駅へ直通するルートはすでにあり、「福岡空港直結」が狙いかもしれない。

  • 福岡空港駅とJR長者原駅を結ぶルート(筆者予想)。直線距離は3kmほど(地理院地図を加工)

西日本新聞は6月29日、「福岡都市圏と筑豊“接続”実現性は? 地下鉄と福北ゆたか線、課題は山積」という記事を掲載した。福岡空港駅と長者原駅の接続について、「筑豊地方を中心とする沿線自治体が『旧産炭地の浮揚策』などとして調査を要望しており、県が応えた格好」としている。

県は調査費用の最大予算を約3,000万円に設定し、概算費用、費用対効果、沿線地域や県全域への経済効果、資金調達計画や接続後の採算性について調べるとのこと。入札情報については、福岡県のサイトに「福岡市地下鉄福岡空港線とJR福北ゆたか線の接続に関する基礎調査業務委託に係る公募型プロポーザル方式入札の実施について」と掲載されていた。プロポーザル方式とは、提案内容を審査して優れた業者を選ぶ方法で、単純に「費用が安い」という決定方式ではない。公募は7月2日に締め切られ、7月11日現在、業者選定結果は発表されていない。

6月23日の公告に「基礎調査業務委託特記仕様書」が付されており、「既存線との接続方式や導入空間を勘案し、想定されるルート案を抽出する」「実現可能性を勘案し抽出したルート案の中から6案の検討を行う」とある。6案のイメージについてはいまのところない。福岡空港駅・長者原駅周辺の用地取得費用の兼ね合いを考慮したとも言えるが、必ずしも最短距離だけを求めていないのかもしれない。

■接続促進期成会の参加自治体、その意図は?

飯塚市総務委員会資料によると、2018年に民間団体の「JR長者原駅・福岡市営地下鉄福岡空港線接続促進協議会」が福岡県などに要望書を提出したという。2020年1月には、飯塚市議会議長が飯塚市長へ早期実現に向けた期成会の設置や関係機関の要望を求めている。「民間運動だけではなく行政機関として取り組みましょう」という働きかけだ。

同年12月、「促進期成会準備会」が福岡県・福岡県議会・自民党県議団等へ早期実現に向けた積極的な検討を求める要望書を提出している。そして2021年2月、「福岡市地下鉄福岡空港駅・JR九州長者原駅接続促進期成会」が設立された。篠栗町長が会長、飯塚市長が副会長、宇美町長と桂川町長が監事を務め、他に志免町、須恵町、久山町、粕屋町、小竹町、鞍手町が会員となった。

これらの自治体を地図上で俯瞰すると、新線によって直接的に利点のある自治体は長者原駅の地元である粕屋町くらいだ。粕屋町は地下鉄が福岡空港へ延伸すると決まる頃から、その先への延伸を望んでいた。通過地の志免町も中間駅に期待する。

  • 「福岡市地下鉄福岡空港駅・JR九州長者原駅接続促進期成会」の参加自治体。飯塚市、直方市は北九州空港のアクセスが不便で、福岡空港のアクセスを重視していると言えそう(地理院地図を加工)

しかし、粕屋町、篠栗町、飯塚市、桂川町、小竹町、直方市、鞍手町にとって、現在も福北ゆたか線で博多駅に到達できるし、博多駅で地下鉄にも乗り換えられる。福北ゆたか線と福岡市地下鉄が直通運転すれば便利だが、この約3kmの並行路線にどれだけ時短効果があるのか疑問だ。

さらに、福北ゆたか線は交流電化、福岡市地下鉄空港線は直流電化だから、相互直通運転を行うとすれば交直両用電車などを新製投入する必要がある。あるいはJR九州が導入を進めている蓄電池電車BEC819系「DENCHA」のような車両を想定しているのかもしれない。そうでなければ、わざわざ長者原駅で乗り換える必要があり、利点が見えにくい。

ただし、博多駅までの比較ではなく、福岡空港と筑豊地域を結ぶとなれば事情は変わってくる。これなら飯塚市が積極的な理由もわかる。この新線は福岡市地下鉄空港線の延伸ととらえたほうが素直だが、事業主体すら決まっていない。福岡空港を主目的とするなら、「福北ゆたか線の支線を長者原駅から福岡空港へ延伸する」と考えたほうがわかりやすいかもしれない。つまり、交流電化区間として建設し、JR九州が運行して、福北ゆたか線の列車が福岡空港駅へ乗り入れる。その際、福岡市地下鉄との相互直通運転は無しと割り切ってもいい。交流電化区間は電圧が高いため、狭い地下トンネルでは感電対策が必要となる。

■志免町は迂回ルートに期待? 市営地下鉄環状構想も検討の価値あり

福岡空港駅と長者原駅を結ぶルートが直線的でなくても良いとなると、もうひとつの構想が視野に入る。2018年、粕屋町・須恵町・志免町によって「未来環境都市協議会」が発足し、国の重要文化財になった竪坑櫓(志免町)を中心に、筑豊炭鉱の遺産「ボタ山」と自然を調和させた環境都市を造る。再生可能エネルギーを備えた宅地、ビオトープ、大型アリーナ、環境問題を研究する大学や企業を国内外から誘致するという。新路線を南側に迂回させると、想定エリアに駅を建設可能となる。

  • 「未来環境都市協議会」の想定エリアと駅(筆者予想)

しかし、ここまで迂回させると、長者原駅へ北上するより、香椎線の須恵駅などにつないだほうが素直だろう。さらに延伸して篠栗駅につなげば、飯塚・直方方面からも便利になる。迂回路を大きくするほど、遠回り感は薄れていくに違いない。そんなアイデアが「福岡市地下鉄環状線計画」だ。自治体とはまったく関係なく、(一社)日本建設コンサルタンツ協会九州支部のコンテスト企画「夢アイデア」に応募された作品で、賞は逃したものの、内容は興味深い。

「福岡市地下鉄環状線計画」によると、福岡空港駅から南東方向に向かい、「博多の森」へ。東の志免町を経由して宇美駅、そこから北に向かって篠栗駅、西に向かって土井駅、貝塚駅に至る。この計画のほうが、「福岡市地下鉄福岡空港駅・JR九州長者原駅接続促進期成会」の参加自治体にとっても魅力的だろう。もっとも、予算は桁違いだし、絵空事かもしれない。しかし福岡都市圏と筑豊地域を結ぶ振興策として、検討に値する。

ちなみに、「福岡市地下鉄環状線計画」の西側は、姪浜駅から野方経由で七隈線の終点、橋本駅に至る。七隈線の天神南駅から博多駅までの延伸開業が視野に入り、中間駅や増備車両も決まったところで、こちらも魅力的だ。そもそも七隈線の博多延伸は、七隈線の不振対策という側面があった。次のテコ入れはこちらかもしれない。

  • 「福岡市地下鉄環状線計画」の想定エリア。日本建設コンサルタンツ協会九州支部「夢アイデア」より(地理院地図を加工)

少し横道に逸れてしまったが、話を戻すと、福岡空港駅と長者原駅の接続について、最短ルートにする場合は「並行する福北ゆたか線の影響についてJR九州が納得する」「交直両用電車あるいは『DENCHA』による直通運転」が必須と思われる。最短ルートにしない場合、「ボタ山」経由も一考の価値ありだろう。