JR東日本は相模線と宇都宮線・日光線にE131系を導入すると発表した。置換え対象となる205系は国鉄時代末期に誕生し、JR東日本とJR西日本で量産が継続された。通勤形電車としては地味な存在に見えるものの、「省エネ電車」と呼ばれた201系の進化形として量産され、製造総数1,461両の大所帯だった。まだ「終焉」と呼ぶには大袈裟だが、老朽化には抗えない。205系の現在と今後を占ってみたい。

  • 宇都宮線(東北本線)宇都宮~黒磯間の普通列車に使用される205系

■国鉄時代から始まった「省エネ」

少し大きな話から始めると、現在、地球温暖化対策として、カーボンフリー、脱炭素など、二酸化炭素を減らす取組みが行われている。日本では化石燃料を使った発電が多いため、電力の節約も重要になっている。鉄道事業者も電車の省エネルギーに取り組む必要がある。その意味で、205系は鉄道史を刻む車両のひとつだ。

「省エネ電車」といえば、205系の2代前に製造された201系の代名詞だった。201系は減速時のモーターを発電機として、発生した電力を架線に戻す回生ブレーキを国鉄で初めて採用した。また、従来の抵抗制御方式ではなく、チョッパ制御方式を採用した。抵抗制御の構造は単純だが、余分な電力を熱変換して捨ててしまう。もったいない。チョッパ制御は、半導体によって電圧の「オンとオフを連続(チョップ)」させて電流を変化させる。そもそも余分になる電力を使わないようにする。

国鉄は201系の次に203系を新造し、常磐線の千代田線直通車両とした。省エネ性能をさらに進めるため、車体を鋼製からアルミ製に変更して、1両あたり約6トンの軽量化に成功する。ただし、地下鉄仕様として作られたため、先頭車前面に避難用扉があるなど、車体構造は複雑だった。

続いて登場した205系は、203系とは異なる進化を遂げた。車両全体を軽量化するため、ステンレス製車体を採用。台車も構造を簡素化したボルスタレス方式になった。製造コストを下げるため、制御方式も界磁添加励磁制御に変更。これは低コストな抵抗制御を採用しつつ回生ブレーキも実現するしくみだ。ブレーキは新開発の電気指令式となった。

つまり、201系の省エネ性能をさらに向上させた電車が205系だ。この頃の省エネは地球環境のためではなく、オイルショックで高騰する電力コストを下げるためだった。赤字問題で批判され続けた国鉄にとって、コスト削減は急務で、201系に「省エネ電車」のヘッドマークを付けてアピールしたほど。しかし、制御方式だけではなく、軽量化など総合的な省エネ技術は205系から進化し、その後の鉄道車両の環境性能向上につながっている。

■多岐にわたる導入線区、顔つきも違う

205系は国鉄時代の1985(昭和60)年に運行開始し、JR発足後も1994(平成6)年までJR東日本・JR西日本が新製投入した。最初に投入した路線は山手線で、10両編成34本を製造。続いて京阪神地区の東海道・山陽本線の各駅停車用として、7両編成4本を投入した。ここまでが国鉄時代の製造だ。

JR発足後は、JR東日本が山手線に10両編成20本を追加し、103系を置き換えた。その後、横浜線、南武線、中央・総武線(各駅停車)、埼京線・川越線、京浜東北・根岸線と投入が続く。205系はステンレス製車体のため、103系のようなラインカラー塗装に代わり、カッティングシートの色帯を施していた。

1990(平成2)年の京葉線全線開業に合わせて投入された編成と、その後に武蔵野線へ投入された編成は先頭車のデザインが変わり、前面をFRPで防護した。鉄道趣味誌によると、ディズニーランドのアクセス路線として愛嬌を持たせたという。当時はバブル経済の末期であり、JR東日本の発足から3年。遊び心を出す余裕もあったようだ。

  • 日光線の205系。京葉線で活躍した車両を改造しており、先頭車のデザインが従来の205系とは異なる

  • 相模線の電化に合わせて新製投入された205系500番台

205系最後の新製投入となった相模線では、もっと大胆に表情が変わった。それまで前面のガラスを2枚で一体的に見せていたが、相模線の車両は仕切り部をガラス回りと同色とし、2枚を際立たせた。助手席側の窓を下方に拡大し、こどもや背の低い人も前面展望を眺めやすくしている。相模線電化完成にあたり、イメージアップを図ったバージョンだ。内装も従来の暖色系から寒色系になり、室温保護のため半自動ドアになった。基本設計は変わらないものの、さすがに変更点が多く、製造番号は500番台となった。横浜線に直通して橋本~八王子間を走る運用もあるため、乗り間違い防止にも役立っているだろう。

JR西日本でも、1988(昭和63)年に205系1000番台が新製され、4両編成5本を阪和線に投入した。こちらも表情が微妙に異なり、助手席側の窓ガラス部が少し下げられている。これも前面展望に配慮したスタイルのようで、運転席機器類の位置が変わって見通せるようになった。

■「ところてん式」転属後の現在

主要路線に新型車両が投入されると、旧型車は押し出されるように転属して、もっと古い車両と置き換えられる。新入社員が配属されると古株が移動する「ところてん式人事」のようなものだ。205系も例外ではなく、山手線や埼京線などで新型車両の投入にともない押し出された。その範囲はJR管内にとどまらず、富士急行に譲渡された編成、さらには海外のインドネシアへ渡った編成もある。現在、JR東日本・JR西日本で205系が残る路線は次の通り。

【JR東日本】

  • 宇都宮線(東北本線) : 小金井~黒磯間などで運用していた211系を置き換えるため、京葉線や川越線などの車両を改造した4両編成を投入。改造元の違いにより、先頭車のデザインが異なる。2022年春からE131系(3両編成)に順次置き換えられる予定。

  • 日光線 : 107系を置き換えるため、京葉線などの車両を改造した4両編成を投入。2018年に1編成が観光車両「いろは」にリニューアルされた。2022年春からE131系(3両編成)に順次置き換えられる予定。「いろは」の動向が気になるが、E131系に置き換えられるとしても最後のほうだろう。E131系版「いろは」はあるだろうか。あるとしたら、「いろは」の後継車は「にほへ」かな(笑)。

  • 相模線 : 前出の通り、電化にともない気動車をすべて205系500番台に置き換えた。製造グループとしては最後のほうだが、2021年秋からE131系(4両編成)に順次置き換えられる予定となっている。

  • 鶴見線 : 103系を置き換えるため、山手線と埼京線の車両を改造した3両編成を投入。

  • 南武線支線(浜川崎~尻手間) : 101系を置き換えるため、中央・総武線(各駅停車)と山手線の車両を改造した2両編成を投入。

  • 仙石線 : 103系を置き換えるため、山手線・埼京線・南武線の車両を改造した4両編成を投入。

  • 鶴見線の205系。中間車だった車両を先頭車に改造したため、それまでの205系とは異なるデザインに

鶴見線と南武線支線、仙石線については、2021年6月24日現在、新型車両等による置換えは発表されていない。E131系へ置き換える流れにも見えるが、205系以降の車両(E231系など)を編成短縮・改造した上で投入するかもしれない。

【JR西日本】

  • 奈良線・大和路線(大和路線) : 京都~奈良間で運行している103系・201系など既存の4扉車を置き換えるため、阪和線の4両編成(205系1000番台)が転属したほか、6両編成だった205系の中間車2両を廃車し、4両編成化した。
  • 阪和線から奈良線に転属した205系

なお、おおさか東線の開通などで車両が必要になったこともあり、奈良線では103系、大和路線・おおさか東線では201系がいまだ現役で活躍している。今後、奈良線の複線化が完成することを考えると、車両数を減らせない。JR西日本は古い電車に延命工事を施して長く使う傾向があり、103系や201系と同様、205系も長生きしそうだ。

鶴見線と南武線支線では、2022年3月から水素燃料電池と蓄電池を組み合わせたハイブリッド車両FV-E991系(愛称「HYBARI」)2両編成を試作し、運行試験を行う予定となっている。水素は臨海工業地帯で工業副産物として発生しており、カーボンフリー、カーボンニュートラルを進める上で注目されている。試験が順調に進めば、鶴見線と南武線支線も一気に最新型になるかもしれない。

JR西日本もカーボンニュートラルに取り組んでいる。そのためには205系に頑張ってもらい、もっと古い電車を先に引退させたいだろう。205系の去就は、誕生から廃車まで、つねにエネルギー施策とともにあるといえそうだ。