宇都宮市は2023年に開業予定の芳賀・宇都宮LRTで運行する車両(LRV)の愛称を「ライトライン」に決定したと発表。あわせて、これまで仮称扱いだった停留場の名称もすべて正式に決定した。いままで机上のイメージだった新路線が実像を結ぶようで、鉄道ファンとして期待が高まる。宇都宮市と芳賀町に新しい光がさし、魅力が増すだろう。
車両愛称の「ライトライン」は、「ライン」と付くことから路線の愛称にも思える。しかし宇都宮市の公式サイトでは、「LRT車両の愛称が決定」と紹介されている。車体に掲出されるロゴも、「LIGHTLINE」の下に「Haga Utsunomiya LRT」とあるから、路線名が「芳賀・宇都宮LRT」、車両愛称が「LIGHTLINE」という位置づけのようだ。もっとも、多くの利用者にとって、路線愛称としても「ライトライン」のほうが呼びやすいだろうし、路線案内も「ライトライン」になるのではないかと思う。
車両愛称については、「ライトライン」「ウィライト」「ミライド」「ミライトラン」の4案を宇都宮市民・芳賀町民らに提案し、アンケートの結果を踏まえて決定した。投票総数は4万668票で、「ライトライン」は最多得票となる1万9,840票(48.8%)。次点となった「ミライド」の1万497票(25.8%)を1万票近く上回った。圧倒的な人気といえるだろう。
「ライトライン」のほか、他の3候補にも「ライト」がキーワードとして入っている。「ライト」は一般的に「光」「明るい」「軽い」「気軽な」「快活」という意味で理解される。ちなみに、「LRT」は「Light Rail Transit」(軽量軌道交通)という意味。そのシステムで走る車両が「LRV」で「Light Rail Vehicle」(軽量軌道車両)である。
宇都宮市にとって、「ライト」は別の意味もある。「雷都」だ。栃木県は雷が多く、とくに宇都宮市は関東で最も雷が多いとのこと。平年の雷日数は24.8日、東京の約2倍となっている。雷が多い理由は地形にあり、夏に南風が吹くと、日射で温まった平地を通り、北部の山に沿って吹き上げる。この上昇気流が雷を発生させやすくするという。
したがって、「ライトライン」は「雷都ライン」ということでもある。宇都宮市には「雷都」を冠した土産品もある。雷は恐ろしいもの、怖いものとして嫌われるが、あえてそれを名物にして、「雷都」と前向きにとらえたところがかっこいい。
■停留場の名称はわかりやすさ優先、ネーミングライツも実施
芳賀・宇都宮LRTは、2016年に国土交通大臣に認定された計画で、19カ所の停留場が設定された。このときは停留場の名称を仮称とし、2019年から「芳賀・宇都宮LRT停留場名称検討委員会」で検討してきた。委員会は2021年4月までに4回実施され、各停留場について候補を2~3案選出し、沿線の人々などを対象としたアンケートを実施。その結果を加味して決定された。
「芳賀・宇都宮LRT停留場名称検討委員会」では、停留場の名称に係わる基本的な考え方に「その場所を分りやすく示す明示性」「公共施設としての公平性」「長期間継続的に使用していく継続性」が示されていた。選定にあたっては、町名、地域名、付近の公共施設名、付近の歴史文化施設名、付近の交差点、付近の鉄道駅、さらにこれらの名称との位置関係がわかる方角などを基準としている。留意事項として、「難読名称を避ける」「間違いやすい名称、長い名称は避ける」「特定の個人名、法人名、団体名は避ける」こととなっていた。
建設部LRT企画課の報道資料によると、「停留場の場所を分かりやすく示すとともに、利用者や地域から親しまれる名称であると認められることから、芳賀・宇都宮LRT停留場名称検討委員会のとおり停留場名称を決定しました」という。各停留場の正式名称(カッコ内は仮称)と選定理由をまとめた。
- 「宇都宮駅東口」(仮称「JR宇都宮駅東口」) 選定理由 : 鉄道駅の名称
- 「東宿郷」(仮称「宿郷町」) 選定理由 : 交差点の名称
- 「駅東公園前」(仮称「東宿郷」) 選定理由 : 公共施設の名称
- 「峰」(仮称「今泉町」) 選定理由 : 地域を表す名称
- 「陽東3丁目」(仮称「陽東」) 選定理由 : 所在地の町名
- 「宇都宮大学陽東キャンパス」(仮称「ベルモール前」) 選定理由 : 公共施設の名称
- 「平石」(仮称「平出町」) 選定理由 : 地域を表す名称
- 「平石中央小学校前」(仮称「下平出」) 選定理由 : 公共施設の名称
- 「飛山城跡」(仮称「下竹下」) 選定理由 : 歴史的・文化的施設の名称
- 「清陵高校前」(仮称「作新学院北」) 選定理由 : 公共施設の名称
- 「清原地区市民センター前」(仮称「清原管理センター前」) 選定理由 : 公共施設の名称
- 「グリーンスタジアム前」(仮称「清原工業団地北」) 選定理由 : 公共施設の名称
- 「ゆいの杜西」(仮称「テクノポリス西」) 選定理由 : 地域を表す名称
- 「ゆいの杜中央」(仮称「テクノポリス中央」) 選定理由 : 地域を表す名称
- 「ゆいの杜東」(仮称「テクノポリス東」) 選定理由 : 地域を表す名称
- 「芳賀台」(仮称「芳賀台」) 選定理由 : 所在地の町名
- 「芳賀町工業団地管理センター前」(仮称「管理センター前」) 選定理由 : 公共施設の名称
- 「かしの森公園前」(仮称「かしの森公園」) 選定理由 : 公共施設の名称
- 「芳賀・高根沢工業団地」(仮称「本田技研北門」) 選定理由 : 地域を表す名称
仮称がそのまま採用された停留場は「芳賀台」のみ。「東宿郷」の名称は隣の停留場に移動した。仮称「下竹下」は「飛山城跡」に、仮称が「東宿郷」だった停留場は「駅東公園前」に。仮称「清原工業団地北」は「グリーンスタジアム前」となり、レジャー・観光用途を意識した名前になったようだ。仮称「かしの森公園」は「前」が付いて「かしの森公園前」に。仮称「管理センター前」は「芳賀町工業団地管理センター前」と長くなり、この路線で最も長い名称になった。
仮称「JR宇都宮駅東口」から「JR」が取れた理由は、「特定の個人名、法人名、団体名は避ける」という留意事項に沿ったからだろう。同様に、仮称「本田技研北門」「ベルモール」も不採用となった。仮称「作新学院北」は私立に対し、正式名称に採用された「清陵高校」は県立の学校で、かなり厳格な運用といえる。もっとも、作新学院は宇都宮駅の西側に高校と中等部があるため、混同を避けたかもしれない。
法人名を避ける理由は2つあって、ひとつはその法人が廃業または移転したときに停留場の名称も変更する必要があるため、もうひとつはネーミングライツを販売するためだ。たとえば、ベルモールは大型商業施設で、そこへ行く人にとっては「ベルモール」を停留場の名称に入れたほうがわかりやすい。ただ、それならネーミングライツに参加していただきたい、という意向だろう。本田技研も同様だと思う。
ネーミングライツ事業の実施は、停留場名称検討委員会の第2回で提案されている。「実施に当たっては正式停留所名ではなく、副停留所名で実施する」と示された。正式名称でネーミングライツを実施すると、契約満了時に停留場の名称を変更する必要があるが、副名称ならその手間がいらない。
「テクノポリス」から「ゆいの杜」への変更は、地域の範囲を明確にするためと思われる。宇都宮ポリスセンター地区は約178haの広範囲な都市計画で、内側に住宅地区、外側に準工業地区・商業地区を配置する。この中で住宅地区の住所が「ゆいの杜」となった。LRTによって宅地開発を進めたいという意向もありそうだ。
各停留場の仮称と正式名称を比較すると、名称に対する思いが見えてくる。「下竹下」ではピンと来ないが、「飛山城跡」となれば行ってみたい。飛山城は鎌倉時代に芳賀氏が築き、豊臣秀吉の命によって破却された。1977(昭和52)年に国の史跡に指定され、2005(平成17)年に飛山城史跡公園として整備されたという。掘立柱建物5棟・竪穴建物2棟が復元され、とびやま歴史体験館もある。
「ライトライン」は宇都宮駅と工業地域を結ぶ便利な路線だと思っていたが、開業後は観光路線としても期待できそうだ。