静岡新聞電子版が7月11日、「1966年製造、南海電鉄車両仲間入り 大井川鉄道、クレーンで搬入」と報じた。クレーンによる搬入は7月10日に行われた。該当の車両は南海電鉄6000系で、車両番号「6905」「6019」の2両。大井川鐵道では現在、南海電鉄から来た21000系が2編成活躍しており、南海電鉄の中古車は3編成目となる。
大井川鐵道によると、購入のきっかけは現在2編成を保有している元近鉄の車両16000系の老朽化だという。代替車両を検討していたところ、南海電鉄6000系の引退の情報があった。そこで21000系の縁もあり、南海電鉄へ打診したとのこと。オールステンレス車体で錆びにくいことも選んだ理由に挙げている。
運行開始は「今年度中」を予定し、塗装(帯色)の変更はしない。改造について、「当社で使っている安全装置を取付けるなど、大井川鐵道仕様に変更する程度です」と説明する。なお、6000系との交代で引退する16000系は現在休車中の2両1編成で、残りの2両1編成は運行を継続する。
南海電鉄6000系は1962(昭和37)年から1969(昭和44)年にかけて計72両を製造。同社初のオールステンレス車体で、いちはやくステンレス車体を手がけた東急車輌製造(現・総合車両製作所)が製造を担当した。同時期に登場した東急電鉄7000系と同じく、車体に波型の飾り板(コルゲート)が取り付けられている。20m級の大型ステンレス車体は日本初の採用だった。
車内はロングシートで、乗降扉は1両あたり左右に4カ所ずつ。現在の通勤車両では一般的なスタイルだが、乗降扉は片開き式で、いまとなっては珍しい。貫通扉付きの前面デザインも愛嬌があり、全体的に昭和レトロな雰囲気が漂う。製造当初は無塗装の銀色車体で、現在の2色の帯は1992(平成4)年から。冷房設備の追加工事に合わせ、車体前面・側面に行先表示幕が設置された。
走行装置はモーターの軸回転を継ぎ手で車軸に伝えるカルダン駆動で、現在の主流となる方式だ。南海電鉄にとって、6000系がカルダン駆動方式の初採用であり、同社の高性能電車時代を迎えた記念碑的な車両ともいえる。高野線の主力車両として活躍し、10両編成で準急として運用されたこともある。
6000系は現在も高野線を中心に4~8両編成で運行され、泉北高速鉄道にも乗り入れる。他形式と連結し、快速急行として元気な姿を見せるという。ただし、南海電鉄が2018年に発表した中期経営計画「南海グループ経営ビジョン 2027」では、2023年度までに72両全車を更新すると記載されていた。
今回、1966(昭和41)年製の2両が譲渡され、大井川鐵道で余生を過ごすことになった。製造から54年経った車両が現役とは、ステンレス車両の丈夫さに驚く。他の車両の動向も気になるところだ。
ところで、大井川鐵道の車両動向に関して、SNS等で「14系客車が公式サイトから削除された」と話題になっている。大井川鐵道は2016年、かつて青森~札幌間の夜行急行「はまなす」に使用された14系客車4両をJR北海道から譲受している。この件に関して、大井川鐵道に問い合わせたところ、「運用を開始していないこと、時期も決まっていないということで一旦リストからは削除しております」とのことだった。
元「SLやまぐち号」の12系客車についても、公式サイトの「大鉄車両図鑑」に記載されていない。14系客車と同様、運用開始時期未定となっている。猛暑に冷房車の運用があれば喜ばれるのではないかと思うが、時期未定とは少し残念。もっとも、大井川鐵道のSL列車の魅力として、非冷房で窓が開く旧型客車の存在も大きい。真夏だからこそ、窓からの風で汗を吹き飛ばし、トンネルで煤(すす)を浴びる体験を楽しみたいとも思う。
2020年7月17日現在、大井川鐵道は金谷~新金谷間の1駅間で線路障害のため、バス代行運転となっている。新金谷~千頭間のSL急行「かわね路」号は蒸気機関車の不調のため、電気機関車によるEL急行「かわね路」号として運転される。SLではないところが残念だけど、EL列車もいまは珍しく、貴重な体験になるだろう。
毎年恒例となった「きかんしゃトーマス号」は変わらずの大人気で満席が続く。「南アルプスあぷとライン」こと井川線も全区間で平常運転を行っている。