JR相模線は茅ケ崎駅(神奈川県茅ヶ崎市)と橋本駅(神奈川県相模原市)を結ぶ33.3kmの路線。茅ケ崎駅で東海道本線、橋本駅で横浜線と京王相模原線に接続し、一部列車は橋本駅から横浜線に乗り入れ、八王子駅まで運転される。相模川に沿って神奈川県中央部を南北に結び、西側には丹沢山地が控え、関東平野の西端ともいえる位置にある。

  • 205系500番台が活躍する相模線。海老名駅で小田急線・相鉄線に乗り換えることもできる

この相模線に関して、神奈川県と沿線4市1町などで組織する「相模線複線化等促進期成同盟会」により、相模線複線化の早期実現をめざすためのキャッチフレーズが募集されている。相模原市の電子申請サイトから応募でき、沿線住民以外も参加可能。締切は12月15日。最優秀賞を1点選び、賞状と副賞としてQUOカード3万円分が贈呈される。同じキャッチフレーズの応募があった場合は3万円を受賞者で分ける。発表は2020(令和2)年7月頃とのこと。

地域紙「タウンニュース」電子版の11月14日付の記事「相模線複線化へ 愛称公募」によると、海老名駅周辺の開発や茅ケ崎駅付近のショッピングセンター開業などにより、沿線地域が発展しているという。JR東日本が公開している「路線別平均通過人員の推移」でも、1987年度を100とした場合、相模線の2018年度の指数は320とされている。次点となった京葉線の260、武蔵野線の244を大きく超えた。JR東日本の路線別集計にて飛び抜けた急成長を遂げている。

  • 相模線の位置(国土地理院地図を加工)

  • 相模線の平日ダイヤ。すれ違い可能駅をフルに使っている(列車ダイヤ作成ツール「OuDia」にて筆者作成)

しかし、その成長も頭打ちになるかもしれない。理由として輸送力の限界が挙げられる。相模線は電化されているものの全線単線で、主力車両の205系500番台は4両編成。18駅のうち、すれ違い可能駅は9駅あり、他の単線路線と比べて多いほうだけど、この施設を駆使してもなお、茅ケ崎駅側は通勤通学時間帯で1時間あたり片道4本、日中は1時間あたり片道3本しか運行できない。

輸送量を増やす方法は2つある。ひとつは列車の編成両数を増やす。もうひとつは複線化して列車を増発する。どちらが良いかといえば、列車を増発したほうが便利だろう。「1本逃したら15分待たされる」より、「乗り遅れても次は7分後」のほうが都合がいい。いつでも乗れるという便利な状況になれば、マイカーから列車に切り替える人が増え、鉄道の収益が改善され、道路の混雑も解消される。一石二鳥だろう。

しかし、鉄道の複線化には多額の資金が必要となる。それを誰が負担するのか。議論は停滞し、なかなか実現に近づかない。

そこで1998(平成10)年2月、「相模線複線化等促進期成同盟会」が結成された。「JR相模線の全線複線化の早期実現を目指し、輸送力増強を促進するとともに、沿線地域の発展を図ること」(同会公式サイトより)を目的に、神奈川県、茅ヶ崎市、相模原市、海老名市、座間市、寒川町、相模原商工会議所、茅ヶ崎商工会議所、海老名商工会議所、座間市商工会、寒川町商工会が構成団体となっている。

相模線沿線は東京・横浜・八王子方面の通勤通学世帯のベッドタウンとして成長している。その成長が相模線の輸送力によって限界を迎えては困る。相模線の輸送力が増えれば、さらなる発展も望める。相模線の複線化は沿線の人々の悲願である。期成同盟会は、地方自治体や鉄道事業者を取り巻く環境にとって厳しい状況の中、財源分担を検討するとともに、国庫補助制度の適用を受けるべく計画調査を進めている。

とはいえ、こうした活動は沿線の人々、相模線利用者の理解がなければ進まない。そこで、活動内容を理解してもらうためにキャッチフレーズを策定し、パンフレットやポスターに採用してきた。ちなみに、現在のキャッチフレーズは「ブルーラインに夢のせて」。ブルーラインは歴代の相模線車両に採用された青帯に由来する。青帯の由来は相模川のイメージともいわれている。

ただし、神奈川県内には横浜市営地下鉄ブルーラインがあり、こちらも延伸計画が進展を見せ始めた。「ブルーラインに夢のせて」だと相模線をイメージしにくい。キャッチフレーズの募集は「令和時代に向けたイメージ刷新」とのことだけど、背景には「わかりにくさ」もあるといえそうだ。

■東海道新幹線とリニア中央新幹線を結ぶ基幹路線に?

茅ケ崎~橋本間を結ぶ相模線は沿線人口が上昇傾向にある。とくに海老名駅周辺の成長が顕著で、小田急小田原線の複々線化とタワーマンション建設が起爆剤になった。筆者が地元の不動産業者に聞いたところ、全国チェーンの店舗の中でも海老名店の取扱いがトップクラスの勢いだという。

  • 相模線と関連路線の略図

相模線沿線では、将来的に多数の鉄道事業が予定されている。その筆頭が、橋本駅付近で2027年開業予定とされているリニア中央新幹線の新駅。相模線は湘南方面からリニア中央新幹線へのアクセス路線となる。もうひとつ、倉見駅付近で東海道新幹線の新駅も構想されている。2010年6月に複数の新聞が報じたところによると、JR東海がリニア開業後の東海道新幹線の需要喚起策として、「ひかり」「こだま」の増発と新駅設置を検討しているという。ただし、JR東海は新幹線新駅について地元負担を原則としているため、財源が課題となっている。

東海道新幹線の新駅に連動して、相鉄いずみ野線の倉見駅延伸構想もある。2016年の交通政策審議会答申198号に採用され、まずは途中の慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス周辺まで建設する方向で検討されている。東海道新幹線の新駅が決まれば、倉見駅到達へ近づくだろう。

橋本駅に近い上溝駅では、小田急多摩線の延伸構想がある。これは横浜線相模原駅付近の米軍施設の返還をきっかけとした再開発計画のひとつで、唐木田駅止まりとなっている小田急多摩線を相模原方面へ延伸するための検討が行われている。決定事項はないけれども、小田急電鉄としてもリニア新駅に手が届く路線として利点はあるだろう。この構想路線は相模線上溝駅からその先への延伸構想もある。

これだけ材料があれば、相模線は複線化の価値がある路線といえそうだ。キャッチフレーズ募集をきっかけに、沿線外からも注目されるかもしれない。都心に直結しないとはいえ、関東で最も将来有望な路線のひとつといえそうだ。