5月10日付のどうしん(北海道新聞)電子版の記事「新幹線高速化へ120億円単独負担 JR北海道方針」にて、JR北海道が北海道新幹線新函館北斗~札幌間を最高速度320km/hで運行するための追加工事費を自己負担すると報じられた。JR北海道も5月15日、同区間を320km/hで走行可能とするため、自社の負担で工事を行うことを国土交通省に要請したと発表した。

北海道新幹線新函館北斗~札幌間は鉄道・運輸機構を建設主体とする整備新幹線のひとつであり、最高速度260km/hを前提に設計されている。事業費は約1兆6,700億円。そこに120億円を追加投入することで、最高速度が60km/hも上がる。1兆6,000億円を超える数字に対し、120億円は少額に思える。それなら最初から設計速度を320km/hにすれば良かった。整備新幹線の枠組みの古さ、更改の必要性を強く感じる。

北海道新幹線の新青森~新函館北斗間については、在来線の貨物列車と共用する区間がある関係で、高速化自体が未定となっている。しかし、4月9日にJR北海道が示した「JR北海道グループ長期経営ビジョン 未来 2031」では、「北海道新幹線 札幌~東京 最速4時間半への挑戦」として、「共用走行区間の抜本的解決」と「320km/hの高速化への挑戦」が示されていた。JR北海道による高速化の自社負担は、長期経営ビジョンに対する本気度の表れと言えそうだ。

  • JR東日本の新幹線試験車両E956形「ALFA-X」(写真:マイナビニュース)

    JR東日本の新幹線試験車両E956形「ALFA-X」(写真は10号車)。5月9日に報道公開が行われた

どうしん電子版の報道の前日(5月9日)、JR東日本は次世代新幹線に向けた試験車両E956形「ALFA-X」の報道公開を行った。5月10日深夜から走行試験も始まっている。最高速度360km/hの営業運転をめざしつつ、走行試験で最高速度400km/hにも挑戦する。

また、どうしん電子版の5月10日付の記事「札幌延伸へ耐寒・耐雪性強化 JR東日本の次世代新幹線 道内走行試験は見通し立たず」によると、「ALFA-X」は北海道新幹線の札幌延伸を見据え、車体の下部に雪が吹き込みにくい形状としたほか、電子機器類の仕様を最低気温マイナス30度まで下げたという。E5系のマイナス20度より10度も低い。

北海道新幹線の高速化について、どうしん電子版では120億円の追加工事の内容として、「トンネルの出入り口に圧力波を和らげる緩衝工と呼ばれる筒状の構造物を設置したり、防音壁を高くしたりする必要」があると報じていた。JR北海道の発表でも、これと同様の工事内容が示されている。緩衝工とは、いわゆる「トンネルドン」現象を和らげる装置。トンネル断面の直径で1.5倍程度の筒をトンネル出入口に設置する。

「トンネルドン」とは、高速で走行する列車がトンネルに進入した際、トンネル出口側で大きな音を出し、周辺の建物を振動させる現象だ。空気が急激に圧縮され、圧縮波が発生し、それがトンネル内を伝わって出口で解放される。簡単に言うと空気鉄砲のようなしくみといえる。「トンネルドン」は新幹線の先頭車を鋭角にすることで、ある程度は対策された。「ALFA-X」も長い鼻の先頭車を2種類作って検証する。ただし、鼻を長くするほど客室は減るなど、限界もある。そこで緩衝工の重要性が高まっている。

  • 上越新幹線の車両は2022年度末をめどにE7系へ統一される

防音壁については、奇しくもJR東日本が5月8日に発表した上越新幹線の高速化でも重要な要素となっている。JR東日本は2020年までに上越新幹線の車両をE7系に統一し、性能向上を図るほか、防音壁のかさ上げ(約12km)、吸音板の設置(約7km)を予定している。この対策によって、大宮~新潟間の最高速度は現行の240km/hから275km/hへ引き上げられ、大宮~新潟間の所要時間が約7分短縮される。

上野~大宮間は先行して工事が行われ、最高速度を現行の110km/hから130/hへ引き上げ、所要時間を1分短縮する。これらを反映させると、東京~新潟間の所要時間は最も停車駅の少ない列車で1時間30分となり、標準的な停車駅数の列車も2時間を切る。

新幹線の高速化については、車両側の加速性能、最高速度から安全に停まるためのブレーキ性能だけでなく、「トンネルドン」現象への対策や防音・防振対策が重要となる。車両の性能向上に合わせて、線路設備側も対応する必要がある。こうした事情が報道やJR各社の発表から見えてきた。