熊本県知事は12月5日に行われた県議会で、自民党議員の質問に答える形で「熊本空港とJR豊肥本線を結ぶアクセス鉄道構想を進める」と表明した。具体案として、豊肥本線の三里木駅から分岐し、熊本県民総合運動公園を経由して熊本空港へ至る。同日の昼前にNHKが速報し、共同通信も配信。これを受けて日本経済新聞などが報じ、翌日からは読売新聞など全国紙のほか、日経、熊本日日新聞も詳報を報じた。

  • 熊本空港アクセス鉄道構想の筆者予想図。濃い青と水色が三里木駅分岐案。赤が筆者が提案する光の森駅分岐案 (国土地理院地図を加工)

熊本空港アクセス鉄道については、2004年に九州新幹線開通と絡めた空港アクセス路線として検討されたものの、当時286億円というコストに対して採算面で難航し、「空港ライナー」が誕生したという経緯がある。

しかし当時と違い、現在は発着便数も多い。羽田18往復、伊丹11往復、成田・小牧が各3往復、中部2往復、関空・天草・沖縄が各1往復。とくに2017年以降、国際線の就航が増え、ソウル・大邱・高雄・香港便がある。国土交通省の発表によると、2017年度の年間利用者数は国内線約318万7,803人、国際線15万6,161人とのこと。日本の空港では第11位で、前年度より2ランクアップし、九州の空港では4位。ちなみに第10位は仙台空港、第12位は宮崎空港で、どちらも空港アクセス鉄道がある。

12月5日の日本経済新聞記事「熊本空港へ鉄道延伸構想 県、JR九州に提案へ」によると、線路や駅の整備は県が出資する第三セクターが担うという。事業費は300億~400億円。運行はJR九州に委託。実現時期の目標は示されなかった。現在、熊本駅と熊本空港の所要時間はバスで約1時間。空港アクセス鉄道は約40分と見込んでいる。JR九州社長は記者会見で、「協力要請があれば真摯に受け止め、対応したい」とコメントした。

12月6日の熊本日日新聞「熊本空港へJR延伸 知事表明、豊肥線・三里木駅から分岐」によると、構想されているアクセス鉄道は上下分離式で、線路設備は県の第三セクターが保有し、運行はJR九州が行う。ただし、整備費についても開業後にJR九州へ負担を要請する。その理由は「既存路線の増収が見込まれる」、つまり空港アクセス鉄道の整備によって熊本~三里木間の乗客が増えると予想されるためだ。ちなみに現在、熊本空港と肥後大津駅を15分で結ぶ無料乗合タクシー「空港ライナー」が運行されている。こちらは熊本駅というより、観光地である阿蘇方面への交通手段となっている。

空港アクセスルートを三里木駅からの分岐とした理由は、モノレール建設や熊本市電延伸案も検討したところ、鉄道が最も事業費が低く、採算が見込め、早期に実現できるからだという。モノレール案は熊本中心部から空港まで2,000億~3,000億円かかる。路面電車延伸は200億~300億円と安い。ただし速達性が低く、バスより優位に立ちにくいだろう。なお、鉄道案は県民総合運動公園を経由して、イベント開催時の動員輸送に対応できる。

さらに言うと、県民総合運動公園にほぼ隣接する形で運転免許センターがある。運転免許を取りに行く人、違反者講習を受ける人は車では行けない。現在は熊本駅前からバスで約60分かかっている。空港アクセス鉄道の所要時間が約40分であれば、運転免許センターの最寄り駅までは約35分で行けそうだ。空港アクセス鉄道の需要は手堅い。

12月6日の日本経済新聞「『熊本空港へJR』概算380億円 構想の県、JRに協力要請」によると、新設する区間は約9.5~10km、一部のトンネルを除き高架式だという。一部のトンネルは空港ターミナル付近と思われる。豊肥本線側から見て、熊本空港ターミナルビルは滑走路の向こう側にある。一方、豊肥本線側の地下建設は難しそうだ。住宅が多いから地下にしたいけれども、南側の白川は高架で渡りたい。トンネルが少なければ工期は短いわけで、整備目標として2028年という時期も示された。10年後である。

しかし、地図を見て、三里木駅、県民総合運動公園、熊本空港を結ぶルートを想像すると、熊本~熊本空港間の列車は三里木駅でスイッチバックして西側から空港へ向かう形になりそうだ。あるいは三里木駅の東側から線路を延ばした場合、大きく迂回する形になる。三里木駅ではなく、ひとつ熊本寄りの光の森駅から分岐した方が素直なルートになりそうに思える。スイッチバックをなくしてノンストップ運行をすれば、所要時間はもっと短縮できそうな気がする。

JR九州が運行については承諾するとして、建設費の負担に応じるかも課題になるだろう。熊本地域だけ見れば、新線によって新たな乗客を獲得てきる。しかし、熊本空港を便利にすることで、京阪神~熊本間の新幹線の乗客を航空機に奪われかねないという懸念がある。広島空港の鉄道アクセス線計画に関して、新幹線を運行するJR西日本にとって「敵に塩を送る」ことになるため消極的だったという話も聞く。これと同様、JR九州も九州新幹線の乗客減を心配するかもしれない。

熊本県議会で空港鉄道アクセスが表明された12月5日、JR九州は熊本県阿蘇市、大分県竹田市と「JR豊肥本線を活用した観光振興のための協定締結」を発表した。熊本空港アクセス線がこの協定の趣旨に合致することは間違いない。今後、熊本県とJR九州がどのような協力関係を築き、熊本空港アクセス鉄道を実現できるか。注目したい。