関東大手私鉄を中心に通勤客向けの座席指定列車の導入が進む中、福岡県の西日本鉄道も導入を検討しているようだ。同社社長のインタビューを共同通信が報じている。広大なバス網を持つ西鉄で、新型観光列車の導入など鉄道事業の取組みが際立ってきた。

  • 西鉄天神大牟田線の特急

    西鉄天神大牟田線の特急。現在はおもに3000形で運行される

共同通信の12月10日配信記事「西鉄、座席指定電車を運転へ」によると、西日本鉄道の社長がインタビューにて、天神大牟田線で帰宅する通勤客向けに「有料座席指定電車」を「ぜひ実現したい」と話したという。2019~2021年度の中期経営計画に盛り込みたい考えで、早ければ2020年春から運行開始するとしている。

12月11日には、福岡市の企業データ・マックス社の企業向け情報メディア「Net IB News」が追加取材している。同日付「西鉄大牟田線で、有料座席指定電車の導入を検討へ」によると、検討中の座席指定電車は天神大牟田線の西鉄福岡(天神)駅を平日19~22時頃に発車し、途中の西鉄久留米駅や西鉄柳川駅に停車するとのこと。指定席料金は数百円で検討中。記事では西鉄広報にも取材しており、「検討することは間違いないが、顧客ニーズなどを慎重に検討したい」との回答を得ている。

現時点で明確になっている内容はこれだけだ。専用車両を導入するか、料金不要で運転される現行の特急の一部座席を有料指定席にするか、指定席専用列車になるかなどは未定。詳細は2019~2021年度の中期経営計画で明らかになるだろう。西鉄は3年単位で中期経営計画を策定しており、現在進行中の第14次中期経営計画は2016~2018年度が対象で、2015年3月29日に発表されている。来年3月下旬の発表を待ちたい。

西日本鉄道は福岡県福岡市に本社を置く九州唯一の大手私鉄。バス事業・鉄道事業などがあり、路線バスは県内の広範囲にわたって運行される。福岡市内から九州各県の主要都市を結ぶ高速バス網も充実している。高速バス「はかた号」は都内のバスタ新宿と福岡市内の博多バスターミナルを結び、長距離高速バスの代表格として認知されている。このようにバスの事業エリアが大きいため、西鉄バスのほうに存在感がある。九州内では料金面でJR九州の新幹線や特急列車を脅かす存在となっている。

一方、同社の鉄道事業は、西鉄福岡(天神)駅と大牟田駅を結ぶ74.8kmの天神大牟田線を本線とし、太宰府線、甘木線の支線が分岐するほか、これらの路線網と離れて貝塚線がある。もともと西鉄博多駅を起点としていたけれども、市内電車の廃止にともない西鉄博多~貝塚間は廃止された。現在、貝塚駅から中洲川端・天神方面へ福岡市地下鉄箱崎線が連絡している。

西鉄の有料座席指定電車を走らせる構想は天神大牟田線での運行を想定している。起点の西鉄福岡(天神)駅は福岡市の中心地。地下鉄空港線の天神駅、同七隈線の天神南駅と地下道でつながっている。JR博多駅からは地下鉄空港線で西へ約2kmの位置にある。

天神大牟田線は西鉄福岡(天神)駅から南下し、JR鹿児島本線とは少し距離を置きつつ、福岡市内や久留米市内で鹿児島本線と交差しながら大牟田駅に至る。大牟田市は熊本県との県境の近く。三池炭鉱で栄えた港町で、島原半島の島原外港へフェリー航路がある。島原観光のルートのひとつでもあるけれど、実際に乗り継ぐ観光客は減っているという。人口約150万人の福岡市中心部と郊外を結ぶ通勤通学路線、近郊都市を結ぶ生活路線であり、沿線には太宰府や柳川などの観光地もある。

現在の種別は特急・急行・普通の3種類。特急は特別料金不要で運行され、停車駅は西鉄福岡(天神)駅、薬院駅、大橋駅、西鉄二日市駅、西鉄久留米駅、花畑駅、大善寺駅、西鉄柳川駅、新栄町駅、大牟田駅。全50駅のうち40駅を通過するという、なかなか豪快な列車といえる。有料座席指定電車の停車駅は西鉄久留米駅や西鉄柳川駅が候補とのことだから、特急よりさらに停車駅が少なく、所要時間短縮が見込めそうだ。

  • 西鉄天神大牟田線の平日14時台以降のダイヤ。赤が特急、青が急行、黒が普通(列車ダイヤ描画ソフト「OuDia」にて作成)

有料座席指定電車が天神大牟田線の終着駅である大牟田駅まで到達するか、途中駅までの運行になるかは明らかになっていない。現行の列車ダイヤを見ると、夕方は大善寺駅までの本数が多く、通勤需要の高さを示している。しかし、報道ではその先の西鉄柳川駅も停車駅に入っており、現在は急行の一部列車が西鉄柳川駅止まりとなっているため、少なくとも西鉄柳川駅まで運行されることは予想できる。

専用車両を新造するとなれば、西鉄柳川駅で折り返すか、大牟田駅まで走るかで投資金額が変わってくる。専用車両を使うなら西鉄柳川駅止まり、特急の一部を指定席にするなら東急大井町線「Qシート」のように、途中駅まで指定席、以降は自由に乗降できる席とするかもしれない。

西鉄は大手私鉄ながら地域密着型で、以前は全国ニュースの対象となる事象が少なかった。しかし、2014年に観光列車「旅人(たびと)」、2015年に観光列車「水都」を登場させ、観光要素を提供し始めている。「旅人」「水都」ともに当初は8000形を改造して導入され、現在は3000形改造の2代目車両で運行されている。

来年3月には、車内で食事を提供する新型観光列車「THE RAIL KITCHEN CHIKUGO」も運行開始。西鉄の鉄道事業の取組みに今後も注目したい。