えちぜん鉄道福井駅周辺が6月24日に高架化された。工事中は北陸新幹線の高架施設を仮線として使うというユニークな手法で話題になった。新しい駅舎は赤い躯体にガラス張りという大胆な姿で、さらに話題になりそうだ。

  • えちぜん鉄道福井駅の新駅舎が6月24日に開業。記念式典が行われた

  • 今年2月、建設中のえちぜん鉄道福井駅。新駅舎の西側に新幹線高架を利用した仮駅があった

筆者は今年2月、新幹線高架を使用した仮線を走る列車に乗りに行った。新しい高架駅の赤い姿を見て、「サビ止めの塗料を塗ったところかな」と思っていたけれど、これが正式な色だった。失礼しました。

産経ニュースの2015年12月19日の記事「えちぜん鉄道、福井駅舎デザイン決まる 県産スギ材使用、30年夏完成へ」によると、「内装に県産スギ材(約3500平方メートル)を使用。外観の色もスギ材の色に合わせる」とのことで、躯体の赤さび色は木材のぬくもりや清々しさを包み込み、周辺との調和を考慮した落ち着いた色合いとなったようだ。

その内装について、福井新聞ONLINEの2017年12月5日付の記事「えち鉄福井駅舎、ガラス張り開放感 天井は大本山永平寺の格天井風」によると、天井は永平寺の格天井(ごうてんじょう)をイメージしたという。福井県産スギ板で仕上げた95cm四方のパネルを約1,100枚はめ込んでいる。長さ110mのガラス窓は、プラットホームに日光を届けるだけでなく、駅前広場から見上げたときに広々とした天井を見せるためでもあるようだ。

ガラス越しに天井を見せる景色とのバランスを考えたとなれば、躯体は「赤さび色」というより「朱色を落ち着かせた」という表現が正しいかもしれない。近代的なガラス張りの透明感と、永平寺を連想する伝統的な色使い。えちぜん鉄道と福井市、福井県のシンボルにふさわしい姿だと感じる。

新駅舎のデザインは建築家で東大名誉教授の内藤廣氏が監修した。内藤氏の作品で鉄道に関する建築物は、JR北海道の旭川駅やJR四国の高知駅、JR東海の高山駅などがある。なるほど、どれも近代的な外観で、ガラスや鉄骨のフレームを大胆に使いつつ、手の届く部分は木材を使った優しいイメージがある。とくに旭川駅には通じるものがあると思った。

  • JR旭川駅

  • JR高知駅

筆者はまだ新駅舎となった福井駅などを訪れていないけれども、動画サイトには早速、新たな高架区間の前面展望動画がいくつかアップロードされていた。それらを見ていたら、福井駅以外にも注目すべき部分があると気づいた。

たとえば福井口駅。福井駅同様に真四角の躯体で覆われているけれども、こちらの色はグレー。そしてプラットホームは一部切り欠いた構造で、1面3線になっている。福井口駅から勝山永平寺線・三国芦原線ともに折返し始発列車を設定できる構造になっている。

勝山永平寺線は2006年まで福井~越前開発間が複線だった。途中の福井口駅から単線の三国芦原線が分岐していたけれども、列車は福井駅まで直通している。北陸新幹線の工事の影響で、2006年に新福井~福井口が単線化、2015年の仮線使用開始時に勝山永平寺線の福井口~越前開発間が単線化。今回の高架化完成で福井~新福井間も単線になった。コスト削減のためとはいえ、将来、どちらの路線も増発できるゆとりがなくなってしまった。

人口増とはいかなくても、お祭りやイベントなどで増発が必要な場面はある。そこで、福井口駅で接続列車を用意し、同一ホームで乗り換えられるようにしてある。現在のダイヤでは設定されていないけれども、将来は混雑時に増発できるように配慮されている。

高架区間の中間にある新福井駅は線路が覆われていない。これは分岐器がないためだろう。仮駅時代は上りホームだけ出入口に通じる階段があって、下りホームから外へ出入りするためには構内踏切を利用する必要があった。高架線の構内踏切で、しかもそれが新幹線の高架施設にあるところがおもしろい事例だった。

福井駅到着の動画からは、ホームの先に約2両分の線路が見える。これは留置線で、仮駅時代も用意されていた。単線になったため、朝の増発時など、車庫のある福井口駅から回送列車を運行するゆとりがない。そこで福井駅に留置線を置く。福井口駅の切欠きホームと同様、少ないリソースを効率よく使うための工夫だろう。

列車に乗ると、新幹線高架側の車窓は防音壁に塞がれてしまうようだ。しかし下り進行方向の左側は見晴らしが良く、気持ち良さそうだ。乗りに行く日が楽しみになってきた。

えちぜん鉄道といえば、映画『えちてつ物語 ~わたし、故郷に帰ってきました。~』の公開スケジュールが決まった。この作品はえちぜん鉄道の元アテンダント、嶋田郁美さんが自らの体験を元に著したビジネス書をヒントに、『ローカル線ガールズ』の仮タイトルで制作されていた。

福井新聞ONLINEの6月2日付の記事「映画『えちてつ物語』全国公開へ 横澤夏子さん主演、乗客乗務員役」によると、9月に福井市内で記念イベントと試写会が行われ、11月3日から福井市、鯖江市、敦賀市の5館で先行公開。その後、全国公開の予定だという。撮影は仮線時代に行われており、福井駅付近が映っているなら貴重な映像資料になっているはず。新しい高架区間に乗るなら、この映画と絡めると楽しいかもしれない。